番外編 和泉仙子に100の質問をしてみた後編

 雛壇の席に戻った俺に猛烈な眠気が襲う。

 深見を横目を送ると、彼女は大分疲れたご様子であった。

 彼女に同情しつつ、第二部の開始に俺は重くなる瞼を必死に堪えた。

 卑しい笑みを浮かべた蛍さんは、お嬢に近寄ると彼女の髪を生々しい手付きで撫でる。


 「どう? 緊張してる?」


 「はひはいっ! ゾクゾクするぅ……!」


 「ここが弱いんだ?」


 「耳元はらめ駄目ぇ……!」


 「あんたら二人何やってるんですか!? 男もいるんですよ!?」


 突如乳繰り合う二人に引いた深見は、観念し切れず介入する。

 淫行を静止されたお嬢は、さも当然といったご様子で返答する。


 「はぁ? 何って前戯よ、前戯」


 「見りゃ分かるっつーの! 和泉仙子の質問コーナーに要らんでしょうが!」


 「あのねぇ、今までのは大人も子どもも楽しめる全年齢版。二部は大人が楽しむR18禁版なのよ? そりゃ開始前に緊張を解すことは必要でしょ?」


 「だからR18をやる道理が……いや私達は未成年。そもそも体液や童貞とかが一部に出ている時点で一部も十分18指定だと思うんですけれど……!?」


 至極ご尤もなご反論をなさる深見であったが、お嬢の一蹴により却下され続行となった。

 お嬢のそういう混み入った事情を聞かなければならないのだと思うと、何とも言えぬ気まずさが沸いてくる。


 「では、改めましてお嬢に100の質問をしてみようのコーナーの第二部を開始します! ……と、その前に! お嬢に開始前の意気込みを伺いたいと思います!」


 「どうして茜はこんなに可愛い美少女の私の愛を受け止めてくれないのか、これまで悩み苦しんでいました。ですが、私に一筋の光が、天才的な閃きが浮かんだのです」


 「確かにお嬢は内面は問題しかありませんが、外見は完璧で究極の美少女ですからね! 自制心を持てばあーくんと結ばれる確率は高まると思うのですが、どうしてそうしないのかよく分かりません!」


 「自制という箍を外すことは、私に死ねと言うのと同義です。そもそも私は茜に甘えるばかりで自分自身のみが良い思いをしてきました。そりゃ駄目です、何も与えていないのですから結ばれるわけがありません」


 「つまり?」


 「胸です、胸」


 …………胸?


 「胸を揉みたい、舐めたい、挟みたいの思春期お盛んな少年は、胸の魅力には敵うはずもないということです。要はですよ、私の胸を好き放題揉みくちゃにしていいの」


 お嬢は自身の胸を持ち上げて強調する。

 俺はその仕草を見て反射的に目を逸らす。

 だが、その反応がお嬢の嗜虐心を注いだようで、火に油を注ぐ形となる。


 「──可愛い。見ましたか? 実は見たいけれど素直になれず、欲望を押し殺して目を逸らす動き! 駄目ね、茜……それは駄目なのよ。もっと虐めたくなるじゃない」


 お嬢は席から立つと頬を紅潮させて詰め寄る。

 引き下がる俺を壁まで押しやると、彼女は息を荒くしながら俺の手を掴んだ。


 「本当勘弁してください」


 「あら? 口では立派に虚勢を張りつつも抵抗する力は弱々しいわね? いいのよ? 好きにしても?」


 お嬢の尋常ではない腕力により彼女の胸元に手を引き寄せられそうになり──深見がお嬢の首を締め上げて拘束した。


 「死んじゃう、死んじゃうから……! 本当許して……!」


 「いい加減にしてくださいよ、発情女! 貴女自分が何を仕出かそうとしてるのか分かっているんですか!?」


 俺との距離を強引に取らされ、解放されたお嬢は息を漏らしながら締め上げられた首を摩る。


 「何って……胸を揉ませようとしただけじゃない。別に貴女の貧乳を触らせるわけじゃないしよくない?」


 「貴女も貧乳──じゃなくて、そういうのは恋人同士がするわけで……! 付き合ってもない同士が破廉恥でしょうが!」


 「あら純粋なのね、お可愛いこと……。そもそも私達恋人同士だから問題ないけれど?」


 「付き合ってないでしょうが! 駄目だ、この人には何言っても通用しない……!」


 深見を論破した無敵のお嬢は勝ち誇り、俺の膝に頭を置いた。


 「羨ましい? これが恋人勝者の特権……。敗者の滑稽な姿は甘美ね……! オーッホッホッホ!」


 小悪党な高笑いを浮かべるお嬢は、勢いを緩めず深見を煽り続ける。

 口では敵わないと深見は実力行使に移り、お嬢を引き剥がそうとする。


 「この程度の腕力で私と茜を引き剥がそうだなんて笑止千万……。自分の愚かさと非力さを恨むことね……」


 強固に締め付けられたお嬢の拘束を解くのは難しく、痺れを切らした深見はある策が思い浮かんだようで、お嬢の耳元に顔を近付けると息を吹き掛けた。


 「あひぃぃぃ……!」


 「弱点を自ら晒した傲慢さを悔やむことですね」


 弱点である耳に息を吹き掛けられたお嬢は、力が緩み俺の拘束を解いた。そして、深見に引き摺られて席へ戻される。

 長すぎる茶番を終えて改めて第二部が開始されることになった。


 「えぇー……改めて第二部を再開したいと思います! 51問目の質問です。風俗とかは行くの?」


 「行かないです」


 「どういう系統が好きなの?」


 「そうですねぇ……やっぱり私は、王道を征く──茜系ですかね……」


 「じゃあ、オナニーとかっていうのは?」


 「やりま──」


 「ちょおおおっと、待ってください! 何なんですか、この質問!? だから、異性が目の前にいるって言ってんでしょうが! 生々しいんですよ、質問が!」


 応答を割り込みされたお嬢は、大きく溜息をつくと冷ややかな視線を深見に送る。


 「第二部はエロ要素入れるって再三忠告したじゃない。自慰しないの? 自慰? 普通この年齢ならするでしょ、自慰」


 「自慰自慰連呼しないでくださいよ! 茜くんの前で何て言う単語を連発しているんですか!? 多少は恥じらいを持て!」


 「はぁ? 清楚気取りの淫乱娘の分際でなぁ〜にを言ってるの? 逆に聞くけれどしないの? 自慰? 私は頻繁にやりますが?」


 お嬢は再び席から立つと深見に詰め寄った。

 そして、本性を晒せと悪魔にように囁く。


 「いいのよ? 誰も咎めないから……。貴女も辛いでしょう? 自身のエロ願望を押し殺すのは……。私もよぉ〜く分かるわ、だってそうだったもの……。ほら、言っちゃいなさいよ、自慰行為大好きですって……頻繁にやりますって……誰も責めないから……」


 「私は……私は……! 言えるわけねぇだろうが──ッ!」


 悪魔の囁きに乗っからず自我を保った深見は、お嬢を追い払った。

 そして、怒りの矛先が俺に向かう。


 「茜くんも黙ってないで変態を諭してよ、ぶん殴るよ? やっぱりエロ話好きなの? そうだよねぇ、だって男の子だもんねぇ!?」


 「お嬢には何を言っても通用しな──」


 「──言え。茜くんが言えば和泉さんは聞くから。だから、言え」


 「は、はい」


 怒りが限界値に達した深見の圧力に怯えた俺は、彼女のお願い事に頷く。

 次に蛍さんの元へ向かい加減しろと脅迫すると、蛍さんも大人しく首を縦に振った。


 「あ、ええと……またもや不測の事態に遭遇し苦情も出ましたので、少々加減致しますね……。続けまして55個目の質問です。スリーサイズは幾つ?」


 「バスト78ウエスト56ヒップ77です」


 「絶対胸のサイズ盛っていますよね」


 「はぁ? 自分が絶壁だからって僻み? 私の完璧な体躯を羨む気持ちは分かるけれど、他者を僻む暇があれば自分磨きを重ねた方が賢明よ?」


 また始まったよ……。

 二人に諍いが再発しそうだったので渋々お嬢の元に寄る。

 そして、お嬢の艶やかな髪を撫でながら弱点の耳元で囁く。


 「お利口に出来ますよね」


 「うん。仙子、良い子に出来る」


 一件落着。お嬢を沈黙させた俺は雛壇の席に颯爽と舞い戻る。すると、深見が怪訝な顔付きで俺を見つめた。


 「ねぇ茜くん、髪を撫でる必要、あった──?」


 「あ、いや、その……あれが手っ取り早いので」


 「ただ、利口にしてろって言うだけでよかったよね? 何で一々和泉さんが喜ぶ事をするの?」


 「ア、ハイ……すいません」


 「またもや修羅場が発生中! あーくんは生きて帰ることが出来るのでしょうか!? 56個目の質問です。自分はエッチだと思いますか?」


 「はい、途轍もなく。だからと言って他の男と交わる尻軽女では決してありません。それだけは誤解しないでください。茜と発散したいのですが彼が応じてくれないので、やれやれって感じですね」


 「いやぁ一途ですねぇ、流石です! もし、あーくんがお嬢に欲情した場合どうしますか?」


 「勿論受け止めます。ようやくこの日が来たかという感じですね。私の勝利を刻む日として記念日になるでしょう」


 「58個目の質問です。SかMか、どっちですか?」


 「世間の皆様方には『鮮血皇女』や『鉄の女』と渾名され、ドSのお嬢様と認知されているようですが、まぁ間違ってはいないとは思います。ですが、大好きな茜には責められ虐められたいという欲望がありますので、茜にだけはドMでしょうね。まぁ先程のように可愛い茜を見ると嗜虐心が注がれるので、Sの面が無いとは言い切れません」


 「以前のお嬢はドSの権化でしたが、ドMの一面もあるとは驚愕ですね! 59個目の質問です。自分の中で一番自信のある部位は?」


 「脚です。自慢の美脚であると自賛しています。貶すような視線で踏んでくれとお願いされたことがあることから分かる通り、魅力があるのには違いないでしょう」


 「では、逆に自信のない部位は?」


 「胸ですね。後10㎝ほど大きければ茜を陥落させられるのですが。まぁ大きさではなく重要なのは美しいかであると考えますので、左程問題視はしていません」


 「お嬢の成長に期待ですね! では、61個目の質問です。好きな人はいますか?」


 「はい……います(照)」


 「それは誰ですか?」


 「えっと、これ言っちゃっていいんですかね? ちょっと恥ずかしいなぁ……」


 「うっざ……」


 「──そこの淫乱黙りなさい。えっとぉ……ほ、鬼灯茜くんです……! きゃっ、言っちゃった……!」


 「おおーっと! お嬢の好きな人はなんと、そこの雛壇席に座るあーくんらしいです! 驚愕の事実が判明しましたね! いつから彼のことが好きなのでしょうか?」


 「彼と……初めて会った時です……っ!」


 「その人との関係性は?」


 「幼馴染でぇ……実は、その……もう付き合ってます……!」


 「付き合ってないでしょうが」

 

 「彼のどういうところが好きですか?」


 「えっとぉ……茜の好きなところはぁ……背が高い高身長が大好きだし目付きの若干悪いところは大好きだしそれを気にしている可愛げのある他人に威圧感を与えないようとする配慮するところも大好きだし硬い髪質だけれども心地の良い肌触りの髪が大好きだし整えられた眉毛と長いまつ毛は女ながらに羨ましくて大好きだし耳の形が良くて口に咥えたくなる部分は美味しそうで大好きだし鼻が高くて美麗な部分も大好きだし肌が綺麗で肌触りの良いところも大好きだし口付けしたくなるような桃色の唇も大好きだし筋肉があって腕を触ると硬いのが男らしくて大好きだし高身長で体格がいい割に脇毛が生えていない体毛の薄いところが大好きだし顔付きが整っていて見ているだけで飽きない絵画のような顔が大好きだし爪が短く切られているところも大好きだし胸板が厚いところも吸いたくなって大好きだし0.1秒で熟睡出来るような睡眠作用と精神安定のある膝も大好きだし私の脳を揺するような低い美声は大好きだし首筋がエロいところも大好きだし半袖からチラ見する脇を見せるくらい茜の隙の多いところも大好きだし私を包み込む干した布団のような暖かい匂いも大好きだしこんな変態な私に面倒だと言いながらも渋々付き合ってくれる甘いところも大好きだし病んだ私を気遣ってくれる優しい性格も大好きだし私が喉を乾いたら飲み物を用意してくれる準備万端なところも大好きだし何やかんや私を庇ってくれるところも大好きだし発情した私を叱り付けて呆れても付き合ってくれるところも大好きだし私の代わりに怒ってくれるところも大好きだし私を意識していない風を醸し出すけれど胸を見るのを恥じらって目を背ける可愛いところも大好きだし時たま敬語が外れてタメ口になるところも大好きだし蔑む視線を送って私を興奮させてくれるところも大好きだし草毟りで休日を終えるところも精一杯頑張っていて大好きだし甘い物が苦手な可愛いところも大好きだし甘い物が好きな私と一緒に苦手な物を食べてくれるところも大好きだし甘い物を食べた時に顔を顰めるところも可愛くて大好きだし愛犬のゴリちゃんを溺愛するくらい動物好きな点も大好きだし犬と戯れている時に幸せそうな表情を浮かべているところも大好きだし横断歩道を渡るのに苦労していたお婆ちゃんを背負ってあげたところも大好きだし友達の少ないところを気にしているところも大好きだし兎に角全部大大大好きですね」


 「「「…………」」」


 怒涛の捲し立てに沈黙を催す俺達。あの蛍さんでさえ苦い顔をしていた。

 あの長文を唱えて息切れ一つ起こさないお嬢に、ある意味で感服してしまう。


 「あーくんが凄い愛されているということが分かりましたね! 66個目の質問です。彼に直して欲しいところはありますか?」


 「彼の周りに女の子が多いというところです。最後に勝利するのは私ですが、やはり余り好ましくありませんね。男友達はいないのに何故女が寄ってくるのか理解に苦しみます」


 「そんなあーくんに言いたいことはありますか?」


 「私だけを見て、私だけを好きで、私だけを愛してください」


 「一途なお嬢の気持ちが報われるといいですね! 68個目の質問です。あーくんが大好きなお嬢ですが、一緒にやりたいことはありますか?」


 「結婚式を挙げたいですね。純白のウェディングドレスを披露して彼を虜にさせたいです」


 「お嬢は綺麗ですので似合いそうですね! 今直ぐに他にやりたいことはありますか?」


 「そりゃ勿論、茜とセックスです。もうムラムラして辛抱堪りません」


 「ンだから──ッ! 回答が過激だっつーの! 好きな人宣言で恥じらっていた自分はどこへ行ったんですか!? 加減をしなさいよ加減を!」


 「はぁ? 嘘偽りのない正直な自分を告白するのが本企画でしょ、貴女馬鹿なの? 企画に沿わない回答したら元も子もないじゃない」


 「だから、控え目にしろって言ってんだっつーの! 何度言ったら分かるんですか、このド変態女は!?」 


 「えぇと……苦情がきましたので再度質問します。性的な話題以外で他に何がしたいですか?」


 「そうですねぇ……夜に二人でお酒を飲みながら思い出話に耽り、やがて私達の間に静寂が──。そんな空間を打ち消すかの如く、私は手を握られて唇を奪われ──。雰囲気が最高潮になったところで、お互いの愛をぶつけ合い、汗塗れになりたいですね……」


 「結局セックスでしょうが! 貴女の頭にはセックスしかないんですか!?」


 「今直ぐしたい事でお嬢とあーくんが飲酒しておりますが、成長したらしたい事と思い出話をすると解釈しておきましょう! では、71個目の質問です。結婚願望はありますか?」


 「当然です。結婚願望しかありません。私は茜と結婚するために今を生きています」


 「72個目の質問です。プロポーズはしたいですか? されたい方ですか?」


 「プロポーズは常日頃している側ですので、されたいですね。私は可愛い純情な乙女ですので、やはりされる側の立場には憧れます」


 「73個目の質問です。子どもは何人欲しいですか?」


 「とりあえず一人ですね。性別は男女問いません」


 「では、その子どもにはどのような名前を付けますか?」


 「女の子は紅桜くおう。男の子は紅蓮ぐれんと名付けます」


 「お嬢の将来が楽しみですね! どういう子どもが欲しいですか?」


 「お利口で人の気持ちを考えられる子ですね。でも、偶には我儘を、自我を持った自分のやりたい事がしっかりと見つかるような子になって欲しいです」


 「習い事などをさせたりとかは?」


 「その子が興味を持った事ならば何でも支援するのが義務だと考えています。まぁ個人的には武道を嗜んで欲しいですね」


 「その子が成長して好きな子が出来た場合どう思いますか?」


 「子どもが愛する人ならば、その恋をどんな形であろうが応援するまでです。ただまぁ、やはり悪い人には騙されないで欲しいですね。それと多くの人に目移りする浮気者にはならないでいただきたいですね」


 「円満な家庭になることをお祈りします! 78個目の質問です。もしですが、旦那さんが浮気したらどうしますか?」


 「…………」


 「お嬢?」


 「その時の私がどうするか考えると思いますので、今の私には分かりません」


 「……えっと、お嬢の浮気の定義は?」


 「他の女と話した時点で浮気です」


 「……その、職場などで女性と話すとしても、でしょうか?」


 「はい、勿論浮気です。私以外の異性との会話は断じて許せません」


 「そ、そうですか……。81個目の質問です。お嬢の愛するあーくんのことが好きな人がいるとします。それを知ったお嬢はどうしますか?」


 「その人物の情報を調べ上げて、その人物の弱みを握り、茜から引けと交渉します」


 「脅迫に屈しなかった場合どうしますか?」


 「言葉で分からないのならば、少々痛い目に遭ってもらう必要がありますね。私としては手荒な真似はしたくないのですが致し方ありません」


 「83個目の質問です。知らない間にあーくんが告白を受けたと知りました。後々それを知ったお嬢はどうしますか?」


 「先ずですが茜の返事を確認します。了承ならば先程同様の手口を用いて告白を撤回させます。拒絶されたのならば監視対象として当分目を見張ります」


 「……その、監視対象とは?」


 「私は茜と関係を持つ異性の情報を記した記録があるのですが、その中で監視対象は茜に好意を抱く人物として一級に該当します。再度告白する恐れ、また茜の心境に変化が生じる可能性もありますので注意しなければなりません」


 「記録魔のお嬢らしいですね! では、85個目の質問です。あーくんに好きな人が出来ました。どうしますか?」


 「どうしますかって、それは勿論私でしょ? 結婚するに決まってるじゃない」


 「あ、えっとですね、お嬢じゃなかったらの話です」


 「…………」


 「お嬢?」


 「茜の……好きな人が……私じゃない? ……私ではない? それは駄目なの、それだけは決して断じて受け入れられない……」


 「あーくんの好きな人がいっちーでした。どうしますか?」


 「嫉妬の憎悪で蝕まれ、私の心は何も埋まらない……。それは駄目なの、私じゃなければいけないの、ましてやこの女だと──それはもう、許せないよねぇ!?」


 怪物の誕生に猛烈な殺意を抱かれた深見は、汗を垂らすが決して竦まない。

 勇猛果敢な深見に対して、お嬢の闇を当てられた俺は怯み尿が溢れそうになってしまう。足に震えが一向に治らず呼吸も荒々しくなる。


 「ひぇ〜……お嬢が狂気に染まっていますね。では、いっちーではなく、この梅原蛍だったらどうしますか?」


 「貴女、茜のことが好きなの?」


 「あ、いえ……仮の話です」


 「貴女のような恋愛に無縁な人物は要注意事項に含んでいなかったのだけれど、貴女がその気ならば監視対象に含まなければならないわね? ねぇねぇねぇ、そうなの?」


 「ち、違います……! 気を取りまして89個目の質問です! あーくんに恋人が出来ました! お嬢はどうしますか?」


 「その質問、私以外の女だと仮定してる?」


 「え、まぁ……そうですね、お嬢以外です、はい」


 「ああぁ……! 茜に私以外の女がぁ……! そんなのそんなのそんなの……許せない許せない許せない許せない許せない断じて断じて断じて断じて断じて──」


 怨嗟の呪詛を唱え続けるお嬢に、本企画が一時中断となる。

 錯乱するお嬢を一旦放置してお嬢を除いた俺達三人は緊急会議を開催する。


 「あんたのせいでお嬢が化け物に変貌しちゃったじゃないですか。あんな質問すれば祟り神に堕ちるのは明白でしょうに」


 「たはは、困りましたね! どうします? いっちー何か案はある?」


 「いやですよ、あんな化け物相手にしたくないですし。自分の不始末なんですから蛍さんが責任取って始末してくださいよ」


 三人揃って誰が片付けるかの議論を繰り広げ、最終的にジャンケンで後始末の責任を取ることになった。

 結局俺がジャンケンに敗北し、祟り神と化したお嬢を鎮める役目を承ることになった。

 絶えず呪詛を吐き続けるお嬢に近付くと、暗鬱な雰囲気に自分も染まりそうになってしまう。

 お嬢の放つ瘴気を吸い込まないように口と鼻を押さえながら、俺は彼女を優しく包み込む。


 「お嬢、俺にとって一番大事なのはお嬢です。ですから、元のお嬢に戻ってください」


 「茜……? 私が……一番、大事なの?」


 「はい、そうです。お嬢はお利口ですから大人しく出来ますよね。良い子に出来れば何かご褒美をあげます。結婚以外で」


 「……頭、撫でてくれる?」


 俺はお嬢のお申し付け通りに彼女の頭を優しく撫でる。

 そうして徐々に頭は膝へ移っていき、普段通りの膝枕の体勢となった。

 半泣きのお嬢を慰めていると彼女の気分は和らいでいくようで、怨嗟の呪詛も収まった。


 「あーくんのおかげでお嬢も元に戻りました! お疲れ様です! いやぁ長きに渡る戦いも終わりが見えてきましたね! 90個目の質問です! またまた伺います。お嬢の大好きな人は?」


 「大好きな人、茜……」


 俺の膝に居座り弱々しく手を握り締めるお嬢は、半泣き状態のまま細い声で返答した。


 「お嬢の将来の夢は?」


 「茜のお嫁さん……」


 「性的なこと以外でしたいことは?」


 「おはようからおやすみまで、ずっと茜の側にいたい……」


 「嘘を付いている事はありますか?」


 「……いっぱい」


 「後悔している事はありますか?」


 「……うん。たくさん」


 「それはどうしてですか?」


 「……言えない。言ったら茜に嫌われる」


 「……そうですか。今の自分は好きですか?」


 「大嫌い……だったけれど、少し嫌いじゃなくなった」


 「どうして嫌いじゃなくなったのですか?」


 「自分を偽ることを辞めたから……」


 「今の生活は楽しいですか?」


 「……楽しい」


 「それはどうしてですか?」


 「茜が……私のそばにいてくれるから」


 「あーくんに言いたい事はありますか?」


 「嘘吐きの……弱い私だけど、茜が大好きという気持ちに一切偽りはない……です。あと、我儘に付き合わせて、困らせてごめんなさい。……私を見捨てないでください」


 「「「…………」」」


 「お嬢……俺は、お嬢を見捨てたりはしないですよ」


 「本当……?」


 「えぇ。我儘に付き合うのはお嬢の下僕としての当然の責務ですし、これまでもこれからだってそうでしょう」


 「茜……!」


 「お嬢……」


 彼女の真剣な眼差しから目を逸らせず、俺は徐々に近付く距離に抵抗もせず受け入れた。その寸前──首根っこを掴まれて引き剥がされたお嬢は、深見に拘束され身動きを取れずにいた。


 「ちょ、やめ……! あと、あと少しで籠絡させられたのに!」


 「あんたの魂胆は見え見えなんですよ! 同情買って隙あらばこれか! 薄汚い悪女め、いい加減にしてくださいよ!」


 「離して……離し、離せ! お前本当にふざけないでくれる!? 邪魔しなければ茜と私の祝福が待っていたのに! お願い……お願いだから、もう一度やらせて……!」


 「お嬢の最大の好機はいっちーによって阻まれ終了となりました! そして、本企画も終了となります! 皆様お疲れ様でした!」


 お嬢に絆されかけた俺の精神は正気に戻る。

 深見の静止がなければ俺は取り返しの付かない事をしていたと、それを後々自覚するのだった。


 ---


 和泉仙子質問一覧表


 Q51 風俗は行く? A 行かない。

 Q52 どういう系統が好き? A 茜系。

 Q53 オナニーはする? A やる。

 Q54 どのくらい? A 頻繁に。

 Q55 スリーサイズは? A B78W56H78。

 Q56 自分はエッチか? A 途轍もなくエロい。

 Q57 茜が欲情したらどうするか? A 勿論する。

 Q58 SかMか? A どっちでもある。

 Q59 自信のある部位は? A 脚。

 Q60 自信のない部位は? A 胸。

 Q61 好きな人はいるか? A いる。

 Q62 それは誰か? A 茜。

 Q63 いつから好きか? A 初めて会った時。

 Q64 その人との関係性は? A 幼馴染。

 Q65 どういうところが好き? A 全部。

 Q66 直して欲しいところは? A 周りに女が多い。

 Q67 茜に言いたいことはあるか? A 私だけを愛せ。

 Q68 茜とやりたいことは? A 結婚式。

 Q69 今直ぐやりたいことは? A セックス。

 Q70 性的な事以外では? A 思い出話。

 Q71 結婚願望はあるか? A ありまくり。

 Q72 プロポーズしたいか、されたいか? A されたい。

 Q73 子どもは何人欲しい? A 一人。

 Q74 子どもにはどんな名前を付けるか? A 女の子は紅桜、男の子は紅蓮。

 Q75 どんな子どもが欲しいか? A 利口な子。

 Q76 習い事をさせるか? A 武道をやらせたい。

 Q77 子どもに好きな人が出来たらどうする? A 応援する。

 Q78 夫が浮気したら? A 何をするか分からない。

 Q79 浮気の定義は? A 他の女と話した時点で。

 Q80 仕事などで女性と関わると思うが? A それでも浮気に該当する。

 Q81 茜のことが好きな人がいたらどうする? A その人物を脅す。

 Q82 脅迫に屈しなかったら? A 暴力で諦めさせる。

 Q83 茜が告白されたらどうする? A 了承なら撤回させ、拒絶なら監視対象とする。

 Q84 監視対象って何? A 茜と関係を持つ人物を纏めた記録の一級に該当する人物。

 Q85 茜に好きな人が出来たらどうする? A 結婚する。

 Q86 お嬢じゃないよ? A 許せない。

 Q87 深見だったら? A 許せない。

 Q88 蛍だったら? A 許せない。

 Q89 茜に恋人が出来たら? A 許せない。

 Q90 大好きな人は誰? A 茜。

 Q91 将来の夢は? A 茜のお嫁さん。

 Q92 茜としたいことは? A ずっと一緒にいる。

 Q93 嘘を付いている事はあるか? A ある。

 Q94 後悔している事はあるか? A ある。

 Q95 それは何? A 黙秘権行使。

 Q96 今の自分は好きか? A 少し嫌い。

 Q97 どうして嫌いじゃなくなったか? A 自分を偽るのを辞めたから。

 Q98 今の生活は楽しい? A 楽しい。

 Q99 それはどうして? A 茜がいるから。

 Q100 茜に言いたい事は? A 大好き。

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