第4話 喫茶店 Side - B
私は隣の席の鈴原に。
運命を感じている。
四月に入り、同じクラスになってからというもの。
私と彼は、よく遭遇するようになった気がする。
ある放課後の日だった。
その日は、いつも一緒に遊んでいる友達と一緒に帰ることになった。
「今日、暇だよねぇ。どっか寄っていこうよぉ」
同じクラスの黒咲カオリ。
のんびりおっとりしてるけど、意外と鋭くて頭の回転が速い。
男の子からよくモテる、私の親友だ。
「言うてあたしゃそんなにお金ないけどねー」
隣のB組の井原モエカ。
派手なもの好きで、何かと砕けた性格。
涙もろくて、感情的。
思ったことをすぐ口に出すから、付き合いやすい。
金髪ツインテールでちょこまかしてる、私たちのムードメーカー。
「じゃあさ、どっか喋れるところ行こうよ。ドリンクバーで耐えれるところ」
C組の近藤サエ。
黒髪で、姉御系のサバサバした性格。
一番見た目はおとなしいけど、中身は一番成熟している。
お母さんが夜のお仕事をしているから、その手伝いでよく家事をしているらしい。
時々お姉ちゃんのような、母親のような、大人な雰囲気をまとう。
いずれも私とは中学からの友達だ。
二年になってから集まる機会がなかったから、久しぶりに話せるのは嬉しい。
私が歩いていると、不意にカオリがこちらの顔を覗き込んできた。
「ねぇ、ミナミはぁ?」
「ん。別にいいよ。用事もないし」
「やったぁ! 決まりぃ!」
「ちょっとカオリ! 道端で抱きつかない!」
「えー? いいじゃん。ミナミの意地悪ぅ」
「もー」
四人で話しながら、手頃な喫茶店へと入った。
静かだけど、適度に広くて居心地がよさそうな店だ。
その中の四人掛けの席に案内される。
ちょうど私の後ろ側の席に誰か座っているみたいだが、まぁいいだろう。
適当に注文を済ませ、ようやく一息つく。
「んでさぁ、ミナミはどうだったのよ? 新しいクラス」
「えっ」
不意にモエカが話しかけてきた。
「別に、普通だけど」
すると「そんなことないよー」とカオリが割って入ってくる。
「だって……ねぇ? ミナミ?」
言わんとしてることが分かる。
こういう時のカオリは意地悪だ。
しかし時すでに遅し。
四人の中で一番厄介なモエカが目を光らせてしまった。
「もしかして恋バナ的な? いいじゃんいいじゃん! 聞かせてよ」
「……もういいって、何でもないよ」
「何でもなくないでしょその顔は! ちょっと赤くなってんじゃん!」
モエカが突っ込んできて「ミナミ可愛い」とカオリがうっとりとする。
この展開を恐れて恋バナを避けたと言うのに。
四人の中で私はいじられ役だから、こうなったら言及は免れない。
「ほらほらー、言っちゃいなよミナミぃ。このメンバーなら大丈夫でしょ?」
「そりゃ……そうだけど。なんか今後に影響とか出そうだし」
カオリみたいに、鈴原に私の気持ちをバラされたらたまったものではない。
私は私なりのやり方があるのだ……たぶん。
すると、今まで黙って話を聞いていたサエが、カップを受け皿に置いた。
「ミナミって今気になる人がいるんだ?」
「まぁ……うん」
落ち着いた声で尋ねられ、思わず頷く。
サエはいつだって大人びていて、こちらの心を見透かしているように見える。
そんな彼女には、嘘はつけないし、誤魔化しもきかない。
私は意を決した。
この四人は、私が心から信頼出来る友達だ。
だから思い切って相談してみよう。
「でもあいつ、話しかけても真顔だし」
「そりゃそうだよぉ」
あれ?
「だってミナミ、いっつも睨んでるじゃーん。舌打ちもしてたし。あんな険しい顔されたら、誰だって嫌われてるって思うよぉ」
「えっ? 好きな人に舌打ちなんてしてんの? 引くわー」
あれれ?
「あ、あれは緊張して舌が張り付いてただけっていうか! 顔が険しいのも、緩むの抑えただけだし!」
何だかまずい方向に話が進んでいる。
いや、確かに睨みつけちゃった気がするし、けど別にそれは悪意というか見つめてたのがバレたので誤魔化すために目つきを鋭くしただけであって確かにどうしてそうしたかより相手がどう思うかだとは思うが鈴原はそんな人ではないし私たちの距離感で考えれば何ら不思議はないと言うか「あちゃー、ミナミ不器用だからねぇ」
私が解き放とうとした怒涛の言い訳にモエカの言葉が蓋をする。
「冷たい態度とっちゃったりしてんじゃないの?」
「うう……」
サエの言葉がトドメを刺した。
言葉にならない。
「でもミナミぃ、そのままじゃ、一生進展しないよぉ? だって鈴原くん、タンパクそうだし」
すると後ろの席からガタンッ! と大きな音がした。
続けて「熱っ!」と言う聞き覚えのある声。
その声を聞きつけて、すぐに近くの店員さんが「大丈夫ですか!?」と駆けつける。
「拭くもの持ってきますね!」
「すいません……」
どうやら何かこぼしたらしい。
少しバタバタしている。
「何の騒ぎぃ?」
「何かこぼしたっぽいよ」
私はカオリに答えて、大丈夫かなと仕切りからチラリと覗き見て。
ギョッとする。
そこに話題の人、鈴原ソウタがいた。
思わず「あっ……」と声が出る。
「えっと、その……」
ヤバい。
言い訳しなきゃ。
って言うか、今の聞かれただろうか?
ヤバいヤバいヤバすぎる。
「ミナミぃ? 大丈夫ぅ?」
「そそそ、そろそろ帰ろっかぁ!」
私は立ち上がった。
「えっ? もう出るの?」
「もう少し話そうよ」
「ウチ、駅前のドーナツ食べたいねん!」
我ながら言っていることが支離滅裂だ。
関西弁まで出てしまう。
でもそんなの関係ない。
早くこの場を逃げねば。
ひったくるように伝票を手にして、レジへ向かう。
「ちょっとミナミ! ちょっと待ってよぉ!」とカオリたちが慌てて追いかけてくる。
それどころではない。
「最悪最悪、ホンマ最悪やぁ……」
その日はよく眠れなかった。
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