第26話 日曜 Side - B①

 日曜のある日。

 私はベッドに寝転がり、スマホをボーっと眺めていた。


「今日は久しぶりに暇だなぁ……」


 モデルの仕事も今日は入っていない。

 一人で出かけるのも何だか気が乗らない。

 カオリたちは今日みんな用事があって忙しいみたいだし。

 私は久しぶりに何もない日曜を過ごしていた。


 ゆっくり寝たらいいのかもしれないけど。

 こういう日に限って、妙に目覚めが良かったりするのだ。


 今はまだ午前十時。

 今朝は早く起きたからってちょっと筋トレをして、シャワーも浴びて。

 すっかり目も冴えてしまった。


 こんな時、嫌でも自分には友達がいないのだと実感させられる。

 カオリたちは他クラスにもコミュニティがあるみたいで、何度か遊びに誘ってもらったこともあった。

 だが、界隈の男子にグイグイ来られたり、何だかウマが合わなかったりして居心地が悪く、結局離れてしまっている。


「分かっては居たけど、私って人付き合い下手だな……」


 中学時代のバスケ部の頃からそうではあったが、それは高校でも変わらない。

 モデルをしているという経歴もあり、身長も170cm以上あるので怖くみられるらしい。

 あと、単純に私が口下手だ。

 端的に返事していると、いつの間にか陰で『塩対応』などと言われることになった。


 鈴原に比べたら全然マシだと思うんだけどな。

 だいぶ仲良くなったとは思うけど、普段から返事が素っ気ないので仲良くなれているのかどうか、正直自信はない。


 そう言えば、鈴原は今日何やってるんだろう。


 その時不意に、私のスマホに通知が届いた。

 何だろう、と思いスマホのロックを外す。


「えっ……?」


 連絡してきた主の名前を見て、私は声を上げた。


 ◯


 自宅から数駅行った場所にある繁華街。

 指定された待ち合わせ場所に立っていると「小鳥遊さーん!」と元気な声がした。


「ごめんなさい、待ちました?」


「ううん、今来たとこだよ」


 姿を見せたのは鈴原の妹の、ヒナちゃんだった。

 黒髪のツインテールに、シンプルなデニムのホットパンツとカットソー。

 背中には小型のリュックを背負っている。

 あまり気負ってないオシャレに、好感が持てた。


「すいません、急に買い物に付き合ってほしいなんて言って」


「いいよ。私も暇してたし」


 実は、ヒナちゃんとは以前、連絡先を交換していた。

 突然連絡が来たのはさすがに驚いたが、お陰で助かったな、とも思う。


 本当は鈴原の連絡先も聞きたいところだが。

 勇気が出なくて未だに交換出来ていないのは内緒だ。


「そう言えば今日、鈴原――お兄さんは?」


 ヒナちゃんも鈴原であることは理解しているが。

 ソウタと呼ぶのは、自分にはまだハードルが高かった。


「お兄ちゃんは、今日バイトって言ってたかなぁ?」


「あ、そうなんだ……」


 少しホッとするような、がっかりするような。

 ひょっとしたら鈴原も来るかもと思って、結構気合入れて準備していた。


 すると、私の服装をヒナちゃんがマジマジと見つめる。


「やっぱり小鳥遊さんってめちゃくちゃセンスいいですね……」


「そ、そう?」


「だって遠くからでもわかるくらいめっちゃオシャレですよ! めちゃくちゃキレイだし……」


「アハハ、そう言われると嬉しいかも。ありがとね」


「小鳥遊さんは、昔から服好きだったんですか?」


「うーん、どうだろう? 最近からかも」


 きっかけは、バスケ部を辞めたことだったと思う。

 暇でやることもなくて、サトコ叔母さんが持ってきた雑誌を見るようになった。


 そのうちに、自分でも着たくなって、叔母さんに指導受けて色々チャレンジして。

 高校に入ってモデルをすることになり、髪の毛を染めて明るい感じにした。

 お陰で学校の先生からは目をつけられてるけど、今のところ黙認されている。


「そう言えば、お兄さんもヒナちゃんと同じで、結構服のセンスいいよね」


「え、本当ですか!? あれ実は私が選んでるんですよ!」


「そうなの?」


「はい。放っておいたらダサい服買ってくるんで、小言言い続けて矯正しました」


「ハハ……」


 思わずその情景が想像出来て、乾いた笑いがこぼれ出た。

 この際だし、鈴原のプライベートについて聞いてみても良いかもしれない。


「お兄さん、普段家ではどんな感じなの?」


「貝みたいです」


「貝?」


「全然話さないし、大人しいし、本ばっか読んで殻に入ってるみたい」


「あー……家でもそんな感じなんだ」


「でも最近、ちょっと明るい気がするんですよねー」


「そうなんだ?」


「小鳥遊さんのおかげじゃないですか?」


「私?」


 ヒナちゃんは頷く。


「小鳥遊さん、お兄ちゃんとは付き合ったりしないんですか?」


「へぅ!?」


 予期せぬ言葉に変な声が出た。

 まずい、視線が泳ぐのが自分でもわかる。


「い、いやぁ、どうかなぁ?」


「あ、微妙な感じなんだ……」


 何かを察するようにヒナちゃんは声のトーンを落とした。

 中学生に気遣われることが妙に悲しい。


「ヒナちゃんこそ、そんなに可愛いなら彼氏とかいるんじゃないの?」


「うーん、私に見合う男子がいないんですよね」


「そういう感じなんだ……」


 あの兄にして、この妹なのか。

 アンバランスなような、ちょうどバランスが取れているような。

 でも、居心地の良さはちょっと似ているかもしれない。


「じゃあ、買い物行こっか」


 こうして、私とヒナちゃんの日曜デートが始まった。




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