第1話 席替え Side - B
隣の席の鈴原ソウタに私は。
正直、運命を感じている。
高二の春。
新しいクラスで前々から気になっていた鈴原と同じクラス。
それだけでも正直飛び跳ねたいくらい嬉しかったが。
「
まさか初日にいきなり席替え。
それだけでなく、意中のその人が隣に来るなど、予期出来るはずもない。
と言うか挨拶されてる。
ここは一つ、何かいい感じの返事をして好感度を上げておかないと……。
「ん……」
だぁぁぁぁ!
上手く声が出なかった!
なんかおじさんがタン絡んだみたいな声出ちゃった!
何だよ「ん……」て。
熟年夫婦の旦那じゃあるまいし。
高速で後悔が私の脳裏を駆け抜ける。
溢れる気まずさをごまかすため、私はとりあえずスマホを触った。
授業中のスマホなど即刻没収だろうが、席替えの騒動で担任はこちらに目を向けていないので大丈夫だろう。
最悪だ。
せっかく話せるチャンスだったのに、妙な沈黙漂ってるし。
私はスマホを触るフリをして、チラリと鈴原の顔を眺めた。
カワイイ。
……うん? カワイイ?
いや、格好いい?
なんかよくわからない。
とにかく好きだ。うん、好き。
ほっぺとかおもむろにギュッとしたいし、鼻とか撫でてみたい。
色々欲望が沸く。
同じクラスの鈴原ソウタ。
高校になって初めて見た顔だったけど、遠方から電車通学しているらしい。
電車通学するほどの高校でもないのに、ちょっと不思議だ。
黒髪の、どこにでもいそうな草食系っぽい男子。
だけどよく見るとまつ毛が長くて、目鼻立ちのバランスも良い。
薄い塩顔で、正直それも好みだ。
ただ、それらはすべて後付けで。
私が惹かれているのは顔じゃない。
私は一年の頃、彼に救われている。
――小鳥遊さんって、クールなのに結構ダサい言葉遣いなんだね。
一年生のあの日。
付き合いたくもないクラスの友達付き合いで、放課後図書室で勉強することになった。
その時、不意に出身地方の方言が出てしまい、結構馬鹿にされたのだ。
あまりにもムカついて、でもその場では怒る雰囲気でもなくて。
怒るに怒れない自分も妙に情けなくて、図書室の本棚の陰で一人泣きそうになっていると。
図書委員だった鈴原が本を戻しにやってきた。
「そんなに人に合わせるのがしんどいなら。自分らしく居た方が良いんじゃない」
彼はそんな言葉を掛けてくれた。
図書室は私たちのグループしか居なかった。
たぶん、カウンターから様子を見ていて、私が無理しているのに気づいたのだろう。
あの時、彼にかけてもらった言葉は、当時の私にとって救いになった。
本当に些細なことだったから本人は覚えてないみたいだけど。
その方が、かえって計算を感じさせなくて良い。
これが恋の始まり。
くだらないって言われそうだけれど。
恋なんてくだらないところから始まるものだ。
それ以来、私はこっそり鈴原のことを目で追った。
鈴原目当てに、わざわざ違うクラスの友達と話すフリまでした。
鈴原は大人しそうで、友達もほとんど(と言うか全く)いなさそうだけど。
おどおどしたり、物怖じしない。
人によって態度を変えたりしないし、周囲の雰囲気に流されない。
芯があって自分を貫くタイプと言うのがこの一年見てて分かった。
空気とか読んで、嫌なことも怒れなかった私は、彼のそんなスタンスに密かに憧れた。
知れば知るほど、私は彼に惹かれている。
何とかして仲良くなりたいと思っていた。
そんな彼と、同じクラスで隣の席。
せっかくチャンスが巡ってきたのに。
私は彼にどうやって声を掛ければいいか分からないでいる。
そこでポコン、とスマホに通知が来た。
同じクラスの親友、黒咲カオリだった。
すぐそばの席から、にやにやこちらを見ている。
……あいつめ、楽しんでるな。
そうは思うが、今は頼れるのが彼女しかない。
『ミナミ、ちゃんと鈴原くんと話せてる?』
『ヤバい。ムリ。マジムリ』
『笑』
『カオリ助けて』
『仕方ないなぁ』
私のSOSを受けて、カオリがこちらにやってくる。
いつもの余裕そうな表情。
「ミーナミ」
カオリは私とは真逆で、恋愛の猛者であり、経験豊富だ。
こういう時にいの一番に相談に乗ってくれる。
彼女にだけはずっと鈴原のことを話していた。
今まで何人もの男子に告白されても全部断って来て。
まともに人を好きになったことのない私の初恋を、カオリは喜んでくれてた。
だからカオリなら、何かきっかけを作ってくれるはず。
そんな期待があった。
するとカオリは、一瞬、鈴原の方を見たかと思うと。
何か笑いを堪えるように、口元に手を当てた。
「良かったねぇ、ミナミ」
「何が?」
「隣が鈴原くんで」
「はっ!?」
「ずっと仲良くなりたいって言ってたじゃん」
「えっ……?」
いやいや。
いやいやいやいや!?
何やってんのあんた!?
そんなの言ったらバレんじゃん!
鈴原に私の気持ちがバレるじゃん!!
あからさまに焦って鈴原を見ると、バッチリ目が合ってしまった。
「ほらほらぁ、話しかけちゃいなよ。仲良くなりゃいいじゃん、この機会に」
「な、ななななななに言ってんの!? ウチが鈴原と!? ありえへんから!」
ああああもう最悪だ。
つい勢いでめっちゃ強めに否定してしまった。
しかも焦りすぎて地元の関西弁が出てるし。
せっかく『イイ女』感出してたのに!
もうどうしようもない。
ほころびだらけである。
「ホント素直じゃないんだからぁ。そんなわけで鈴原くん、ミナミのことよろしく」
「あ、うん。よろしく……」
「だからぁ! 違うって言ってんじゃんかぁぁぁぁ!」
思わず叫びながらカオリを教室の外に連れ出した。
「お前ら授業中にどこ行くんじゃい!」と担任の吉岡の声がするけど、こっちはそれどころじゃない。
「ちょっとカオリ、何やってんの!?」
「だってぇ、ミナミ奥手だからさぁ。これくらいぐいぐい行かないと気持ちなんて伝わらないでしょ?」
「だからって、あんなあからさまに言われたら立つ瀬がぁ……! 会わす顔がぁ!」
「大丈夫だって。鈴原くん、たぶん気づいてないから」
「えぇ……?」
あそこまで言われて好意に気づかないなんてことあるのか?
そんなの、相当の鈍感男くらいしか……。
そう思って教室を覗く。
鈴原は何事もなかったかのように、本に目を通していた。
「ホントだ……」
「ミナミ、こりゃあ手ごわいかもよ?」
「うううう……絶対落としたるからな、鈴原ぁ……」
だって私は鈴原に。
運命を感じているからだ。
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