第2話 雑誌
隣の席の小鳥遊さんと僕は、運命の赤い糸で結ばれているらしい。
左手小指に巻き付く毛糸のような赤い糸。
触れることも解くことも出来ないその糸は、僕の小指から真っすぐ伸び。
今日も隣の席の小鳥遊さんの小指と繋がっている。
「おはよう、小鳥遊さん」
「ん……」
朝から挨拶をしてもこの調子だ。
いつも興味がなさそうな塩対応。
耳がずいぶん赤いのは、熱でもあるのだろうか
「顔赤いけど、体調でも悪いの?」
「ぶ、べ、べつに赤くなんてなってないし! 何もあらへんから!」
たまに心配してもこの調子である。
妙に挙動不審で、大げさに反応される。
声をかけないほうがいいだろうか。
いつも通り読書を始めると、彼女もおもむろにカバンから雑誌を取り出した。
その雑誌は見たことがある。
ファッション誌の『
昨日、妹が同じものを見ていた。
※
「お兄ちゃんもたまにはこう言うの読んだら?」
リビングでソファに座りながらボーッとゲームをしていると、隣で雑誌を読んでいた妹のヒナがおもむろに口を開いた。
僕が目を向けると、ヒナはパラりとページをめくる。
「何それ」
「ファッション誌だよ。今話題なんだ。ちょっと大人向きでさ、特に占いのコーナーの星座相性診断、結構当たるんだよ」
「そっか」
「お兄ちゃんもこう言うの読んで女心を理解したら? 流行を知るのも大事だよ」
「知っても仕方ないかな。友達もいないし」
「確かに」
「否定して」
※
その時、妹が読んでいたのがjujuだった。
小鳥遊さんほどおしゃれな人が読んでいるということは、本当に流行っているんだなと実感させられる。
すると不意に小鳥遊さんと目が合った。
「ねぇ」
珍しく声を掛けられる。
「あんた誕生日いつなの」
「11月23日生まれだけど」
「ふぅん……」
「何でそんなこと聞いたの」
「別に」
彼女はそう言うと、何やら雑誌にメモをしている。
彼女が見ているモノクロページ。
あのページは確か――
「ちなみに星座なら、いて座だけど」
「はっ!?」
驚いたように彼女が目を見開く。
心を読んだのかとでも言いたげな表情だった。
僕は雑誌を指差す。
「それ、占いの相性診断のページだよね」
「何で知ってんの?」
「妹が同じ雑誌読んでて」
「あんた妹がいんの!?」
「まぁ……。それで、誰と相性を調べようとしてたの?」
「あ、相性なんて調べてる訳無いじゃん!」
そう言って彼女は慌てて雑誌を伏せる。
しかし慌てて置いたせいで、バサリと音を立てて雑誌が地面に落ちた。
落ちて開いたページは、やはり占いの相性診断だ。
しかも、ご丁寧にハートマークのチェックまでつけられている。
「違う! 違う違う違うちゃうから! 全然ちゃう!」
小鳥遊さんは顔を真っ赤にして首をブンブン振った後。
そのまま逃げるように教室から走り去っていった。
「大丈夫かな……」
僕は落ちた雑誌を拾い上げると、軽くホコリを払って彼女の机に置いておく。
そこで、ハートのマークでチェックがつけられたおひつじ座といて座の相性が目に入った。
『今週のおひつじ座といて座の相性は最高!
二人の運命が近づいて急接近!
あの人の意外な情報がわかっちゃうかも!』
「これ、もしかして小鳥遊さんと僕の相性……?」
僕はそっと顔を上げ、彼女が逃げ去った方角に伸びる赤い糸を見つめる。
隣の席の小鳥遊さんと僕は、運命の赤い糸で結ばれている。
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