第22話 パンツの天ぷら【レシピ付き】

 ―ありがと、優也。


 ―欲しかったグッズ貰ってきてくれたのはもちろんだけどそれ以上に……私の事、大切な幼馴染、って大事な人って言ってぎゅー、ってしてくれて。


 ―嬉しかったな、久しぶりに優也もぎゅー、ってしてくれてそれに私の事……優也と一つになったみたいで、優也が私と一緒になったみたいで嬉しかった。


 ―大事なとこ見られちゃったのはすごく恥ずかしかったけど、でも優也ならい見られても大丈夫だし……あのまま優也の事押し倒して、本当に優也と一つにつながるのも……ううん、それはまだ早い。それに……そんなことしたら優也が来てくれなくなるかもしれないし。


 ―明日も来てくれるよね? 明日も私のとこ来てくれるよね、優也?



 ☆


「今日私が作りたいのはパンツの天ぷらです……優也様、私はパンツの天ぷらを作りたいのです」

 ジップロックからしましま可愛い水玉パンツを取り出した日和はそう言ってひまわりみたいな笑顔を俺たちの方に向ける……!? 


「ぱぱぱパンツ!? なんでパンツ!?」

 いやおかしいでしょ、パンツの天ぷらはおかしいでしょ!

 そんな料理聞いたことも見たこともないし、ていうか絶対にそんな料理ないし考えるまでもなく美味しくないし……ていうかお淑やかは!? この前お淑やか宣言したよね、日和ちゃん!? 先生びっくりして白目むいてあわあわしてるよ!


「失礼ですわ、優也様。今回のはえっちじゃありませんわ」


「何が!? どう考えてもえっちだよね、パンツの天ぷらはえっちだよね! えっちな話じゃないと始まらないよね!」


「違いますわ、えっちじゃないですわ! 今回は純粋な好奇心です、わくわくですわ、だからえっちじゃないです、失礼ですわ優也様! このパンツも使用済みではなく、昨日買ってきたものです、未使用清潔お淑やか可愛いパンツです!」

 ほっぺをぷくーっと膨らませて不服そうにぷんぷんと怒る日和……いやいや、パンツの天ぷらはえっちでしょ、これがえっちじゃなきゃ何を言うんだ、未使用とかそう言うの関係ない!


 ……ていうかあれか? 今回もあいつか、長岡紬の策略か?

 それならちょっと合点が行くって言うか、長岡紬ならパンツ食べたい! とか言いそうだし、そっか、長岡紬だよな! 長岡紬にそう言われてしたんだよね、日和!


「違いますわ、今回はつーちゃんさんは関係ありませんわ。今回は私一人です、私だけの考えです、私のわくわくですわ!」


「そっか、それならもっとダメかも! お淑やか、遠のいたかも! 大丈夫じゃないかも!」

 なんでそんな自信満々なんですか、日和さん?

 もうちょっとその羞恥心とかそう言うものをですね、ていうかなんでパンツの天ぷらなんかしようと思ったんだよ、それじゃあ!


「……それは昨日のお昼ごろまで時を戻さないといけません。昨日まで時間を逆行させる必要がありますわ」


「お、なんか壮大な話始まった?」


「昨日のお昼、お父様がお仕事で外出されていて暇を持て余した私は恥ずかしながらネットの海をじゃばじゃばしておりました」


「……ネットサーフィンってことかな?」


「はい、それですわ、ねっとさーふぃんです。そうしてゆーちゅーぶ様で動画を見ていたところ、パンツを食べる……そんな動画を見つけましたわ。それで思ったのです……優也様もおっしゃてましたしパンツ、食べてみたいなって」


「……伏見? しゃぶしゃぶ?」


「はい、そうですわ……バイバーイ」


「……上手だね、きりたんのものまね」

 そっか、伏見さんの動画見て思いついたのか……思いとどまってよ日和ちゃん!

 あの人普通に化石とか砂とか絵の具とか食べる人だよ、普通の人とは身体の作りが違うんだよ!? ダメだよ、俺たち常人が真似しちゃ!


「でもこの前優也様はパンツを食べたいとおっしゃってましたわ」


「言ってないよ? そんな事言ってないよ? 多分それ言ったの日和の方だよ?」


「私はそんな事言いませんわ。優也様がおっしゃってましたわ……ハンバーグを食べるのが美味しいように、パンツも食べれた方が良いです、と」


「う~ん、解釈違い!」

 そう言う意味じゃないんだよなー、あれ! ていうか日和も一回納得したでしょ、その解釈違うって納得したでしょ!


「ですが、優也様。私は本当に……」


「パ、パンツの天ぷら!? そ、それなら先生がパンツ脱げばいいのかな、先生のパンツ使うのかな? せ、生徒に脱がすわけにはいかないもんね! わかった、先生が脱ぐからちょっと待っててね!」


「……先生!? 先生!?」

 日和の言葉を遮るように、さっきまであわあわビックリしていた先生が急に錯乱した様にぐるぐるおめめでロングスカートの中に手をやってパンツを脱ごうと……ストップ! ダメダメ先生何やってるんですか!


「だって、パンツの天ぷら、パンツ、いる。藤沢さんと黛君、生徒脱がせられない、私脱ぐしかない!」


「大丈夫です、先生、そんな事ないです! そもそもパンツの天ぷらなんて作りません、先生は止める立場でいてください!」


「でも、生徒の想い無駄にするのダメ! パンツの天ぷら作る! 薄力粉、卵ある、天ぷら作れる! だから私パンツ脱ぐ!」


「先生ストップ、先生だけはまともでいてください、お願いします! なんか怪しい外国人みたいな話し方になってますし、一度落ち着いてください、考え直してください! パンツですよ、パンツ食べるんですよ! おかしいでしょ!」

 本当にしっかりしてください、正気に戻ってください先生!

 先生だけはまともじゃないと困るんです、戻ってきて下さいいつもの先生に!


 俺がそんな風に先生をあやしていると、日和がとことことゆっくり俺たちの方に歩いてくる。

「大丈夫ですよ、先生。私がパンツ持ってきてますから。先生はえっちなんですから脱がないでください。材料のパンツは私が持ってますから大丈夫ですわ」

 ……なんか違うような気がするな、でも日和はそっちの立場だししょうがない……あ、でも先生の目が正気に戻ってる! 先生の目がいつも通りに戻ってる! これでパンツの天ぷらなんてバカなものは……


「だから私が……あ、そうなんだ! 藤沢さんが持ってるのか、じゃあ大丈夫だね! それじゃあそれでパンツの天ぷら作るよ、藤沢さん、黛君!」


「はい、れっつくっきんぐですわ……優也様、協力していただけますか?」


「……マジ?」

 ……先生、正気に戻ってくれたと思ったんだけどな~。

 多勢に無勢、2対1では勝てません。



 ☆


「まずはパンツを捌いていきます。可食部と出汁が出る部分で分けることが重要と杏様もおっしゃってましたわ」

 可愛いエプロン姿でそう言った日和がチョキチョキと楽しそうにハサミを鳴らしながらゴムの部分を切っていく。

 これが裁縫とかなら可愛いんだけどな、パンツだからな……可愛いと?マークで脳がバグるんだよな~。


 そんな日和を見ながら俺と正気に戻ったのか「パンツの天ぷら? 藤沢さんの頼みとは言え大丈夫?」ともう一度あわあわしだした先生と天ぷら粉と油を作る時間。

 先生はその感じでいてください、常識人なんですから。


 で、天ぷら粉の作り方に戻るけど、ボウルに卵を割り入れ、冷水を加えて全体をよく混ぜ合わせて(泡はしっかりお玉で掬う!)そこに薄力粉を加えて(多すぎるとべちょつくので適量!)箸でつつくように混ぜること数分、薄力粉のダマが少し残るくらいになったら完成!

 これで市販の天ぷら粉を遣わずにお家で簡単にサクッと触感の天ぷらが楽しめるよ……まあ今回揚げるのはパンツなんですけど!


 油は、まあ天ぷら作る時の温度で! 180度くらいかな?


「優也様、パンツは一口サイズに切っておいた方がよいでしょうか? それとも天ぷらだったらカラッと一気に揚げる方がよろしいでしょうか?」


「それは日和のお好みで良いかな? 俺パンツの食べ方とか知らないし……先生なんか好みとかありますか?」


「私もないかな……先生もパンツ食べたことないからね……あははは」

 俺の方をみながら乾いた笑いを見せる先生……よかった、完全に元の先生だ、状況は良くないけど元の先生に戻った。


「わかりました、それでは食べやすいように一口サイズに切りますね……あ、そうです。下味は何でつければよろしいでしょうか?」


「……下味? パンツに?」


「はい、下味も必要ですから。何がよろしいでしょうか?」


「あ、それならカレー粉があるよ、藤沢さん! 使いどころ分からないし、それで下味付けよう、カレーなら全部美味しくしてくれるはず! ちょっと取ってくるね」

 ……やっぱり先生は今日はどこかおかしいかもしれない。



「それではパンツにお洋服を着せて、お風呂に入れてあげましょう……ふふふっ、油がパチパチしていて少し緊張しますわ」


「油は危ないから気をつけてね、藤沢さん」


「はい、気をつけます……温まってくださいね、パンツさん」

 地獄の閻魔様みたいなことを言う日和が、パンツをカレー粉をぶちまけた天ぷら粉にくぐらせて、そのまま油にふわっと投入する。


 パンツを入れた瞬間、じゅわーっと食欲を誘う音、そして下味のカレーの匂いがふんわりと香ってきて……ちょっと美味しそうなのがムカつくな!

「なんか美味しそうな匂いしてるんだけど……なんか美味しそうに見えてきたんだけど……食べたくはないんだけどちょっと美味しそうな感じがする……なんか怖い」

 少し怯えた感じで、いつも通りの先生がそう言う……それすごくわかります。


「わかります、なんでなんですかね……人間揚げ物の音聞くと美味しいと勘違いするんですかね?」


「パンツは美味しいのかもしれませんよ、優也様も先生も食わず嫌いはいけませんわ。それでは他のパンツ君達もお風呂に入れてあげましょう、優也様にも手伝って欲しいですわ」

 ……そして日和ちゃんはなんでそんなサイコパスみたいな表現するん?

 180度は地獄の釜茹でだよね、パンツ君死んじゃうよね……いや、バラバラにされてるんだからもうすでに死んでるか。


 ☆


 天ぷら粉ってのは偉いもんで材料が何であれカラっと揚げてくれる。

 1分半ほどたったところで、さっきまで水玉可愛かったパンツ君はもうこんがり真夏のビーチボーイに早変わり、サクッと上がっていい感じ。


「優也様、なんだか美味しそうですわ! すごく美味しそうですわ!」

 バットに天ぷらを移した日和が嬉しそうなハイテンションでそう言う。


「うん、わかる……なんだか食べられる気がしてきた。普通に食べられる気がしてきた!」


「それ先生も……なんだか涎出てきた! ねえねえ、二人とも天ぷらは何で食べる? お塩? 天つゆ? 大根おろし? それともバター、ガーリック?」


「私はお塩で食べますわ。お塩の方が味が引き出て美味しいですわ」


「あ、俺もです! 塩で食べます」


「OK、塩取ってくるね! ちょっと待っててね!」

 バタバタと急ぎながら先生が準備室に消える。


「優也様、パンツの天ぷら美味しそうですね……そ、その優也様さえよければあーん、してあげましょうか?」


「ううん、大丈夫。普通に食べるよ。こんなものあーん、して欲しくない」

 そんな話をしていると味塩片手に先生帰還、お皿に塩を振って手を合わせる。


「それでは皆さんご一緒に……」


『いただきます!!!』

 声をそろえて浮かれた楽しい声でいただきます! と言って、そのまま箸を掴んで塩をつけていただきます!


「……んっ! ん? お、おー、おおお……おーおー……」

 衣は凄くサクッとしていて、それに風味もカレーでなんか美味しい要素はあるんだけど、でもなんか、その……


「ゆ、優也様、その、えっと……あの、優也様、その……」


「うん、わかる、わかるよ日和……先生はどうですか?」


「……みんなで一緒に感想言わない? 先生、多分感想が一致すると思うんだ」

 少し強がって笑みの先生の言葉に俺も日和も頷く。


「それじゃあ行くよ! いっせーのーで!」


『パンツいらない!!!』ですわ!!!」『……ぺっ!!!』

 3人とも同じ言葉を叫んで、そのままお皿にパンツの残骸を吐き出す。


 一瞬でも美味しそうと思った俺がバカだったよ、絡みつくわ、噛み切れいないわ、口の中が気持ち悪いわ……本当にパンツいらないよ、この料理!!!


 ★★★


 とてもくわしいレシピ

 ・パンツ(男性用の方が可食部は多いが、男性用は食べづらいので女性用を推奨)

 ・冷水 200mℓ

 ・卵 1個(双子だとお得)

 ・薄力粉 140グラム

 ・カレー粉 欲望のままに

 ・油 適量

 ・お塩 適量(博多の塩・天つゆなどでも)


 ①パンツを可食部と出汁が出る部分に分けます。ハサミで切るのが一番早いと思います! 布切ハサミがあればベストです! 出汁が出る部分は後でお味噌汁に使いましょう。

 ②天ぷら粉を作ります(上記参照)。そこに下味としてカレー粉をぶちまけます。

 ③パンツの可食部を②にくぐらせ、180度の油で1~2分ほど揚げます。衣がきつね色になって美味しい匂いが漂ってきたら完成!


 コツ・ポイント

 ちくわとかで作るとすごく美味しいよ!!!



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