第2話 引きこもり幼馴染と先生のお菓子とそう言うシーンと

「ん~、相変わらず優也が持ってくるお菓子は美味いな。生地がしっとりしていてそれでいてべたつかない。バターはエシレのものを使用したのかな? ほめて遣わそう」

 朱莉に先生から預かったお菓子をあげると、嬉しそうにもぐもぐとほっぺを膨らませながら食べる。美味しいなら良かったわ。


「バターは知らんけど、そりゃどうも。俺にも一つ頂戴」


「……ん。これでいいか?」


「お前の食べかすはいらねえよ。ぐちゃぐちゃじゃねえか、汚ねえなぁ。食ったもん吐き出すな……はぁ」

 衛生観念のかけらもなくマフィンを吐き出した引きこもり幼馴染の朱莉にため息が止まらない。


 朱莉が引きこもりになってしまった原因は、中2の夏休みに俺の部屋で「あおかな」のソフトを見つけてそれをうっかり開いてしまったことに由来する。


 当時の友人がお兄さんのソフトを勝手に持ってきていて俺すらもその存在に気づいていなかったんだけど、朱莉がうっかりとそれを開いてしまった時から運命は加速し始めた。


 生来のコミュ障で友人も少なく、アニメとか漫画とかも大好きだった朱莉は、「あおかな」からエロゲ世界の魅力にハマってしまい夏休み中俺の誘いもほとんど断ってその世界に没入して。その愛はいつの間にか引き返せないところまで燃え盛って。


 そんな朱莉の様子に気づいてたけど、何も出来ずに夏を過ごしていたせいで、2学期以降朱莉は中学校に登校しなくなり、それからずっと引きこもっているというわけだ。


 つまりは俺が部屋にエロゲを置いていたこととほったらかしにしていたことが原因で……いや、あれ持ってきたの友達だし、割と声かけてたし、実は俺はあんまり悪くないのかもしれない。


「しかしマフィンは美味いが手が汚れるのは難点だな。美味しくて手を煩わせない最高の料理というものはないのだろうか、私には時間がないというのに」


「おい、そんなもんで手を拭くな、それに舐めるなバッチいな」


「ん、ナニを舐めるって?」


「……」

 ……しかし今のこいつを放っておくのも問題だよな。

 今だってぺろぺろと指を舐めたり、俺のぶかぶかTシャツで指を拭いたり、すぐに下ネタを言ったり……ダメだ、やっぱり早く学校に行かせよう、更生させよう。


「なあ朱莉、そのお菓子もっと食べたいか?」


「何を当たり前のことを。食べたくないわけないだろ、もっともってこい」


「そうか、それなら学校に来い。それ作ってるの結月ちゃんだから、学校に来ればもっとそのお菓子たくさん食べられるぞ」


「……結月ちゃん? 誰だそれ、優也の彼女か? お前彼女いたのか!?」

 キョトンと首を傾げた後、そのままがぶっと喰いついてくる。

 彼女じゃねえよ、俺たちの担任先生だよ!


「担任だよ、担任。会いに来ているだろ、この家に」


「ああ、あの教師そんな名前だったのか。たまに来ているがめんどくさいから一度も会っていなかったから知らなかった、私と二人でゆづきずじゃないか。なんだか少し興味が出てきた、どんな先生なんだ?」

 少し目を煌めかせてそう聞いてくる……そう言えば先生会えてないって言ってたな。

 よっしゃここは一発結月ちゃん先生の魅力を伝えようか!


「ゆづきずは知らんけども……まず年齢は25歳、それでいて可愛くてスタイルのいい家庭科の先生だ」


「ほう、続けろ」


「美人というよりは可愛い系の顔立ちかな? リスとかそう言う感じの小動物を思わせる顔で、それでいてスレンダーで出るとこはしっかり出てる。おっとりとした話し方ですごく優しくて料理上手、それにドジっ子属性と来た。そう言えば眼鏡も良く似合うな、眼鏡の先生も可愛いぞ」


「なんだそれ属性いっぱいじゃないか、マンガのキャラか? 興奮してきた、興奮してきたぞ、優也!」


「お、そうか興奮してきたか、興味出てきたか! それじゃあ学校に……」


「あ、それは無理だ、私には使命がある。しかし、そんな先生があるなら今度家庭訪問に来た時には会ってやろう」

 俺の言葉にふんすふんすと鼻息を荒くして聞いていた朱莉だったけど、学校という言葉を聞いた途端すん、とそっぽを向いてしまう。

 くそ、もうちょっとだと思ったのに。


「……ん、そう言えば優也お前このお菓子作ったのはそのゆかりちゃん先生といったな? これはお前が作ったんじゃないのか?」


「ゆかりちゃんじゃねよ、結月ちゃんだよ……そうだよ、ずっとその結月ちゃん先生が作ってるの。俺こんな料理上手くねえし……ていうか中にメッセージカード入ってただろ、読んでなかったのか?」


「ああ、そんなもの入ってたな。しかし、ずっと優也が作ったからなぜこんなキショいことしてるんだ、とずっと思っていた。メッセージもクサいし、優也こんなに気持ち悪い奴だったかな、って……しかしそのゆかりちゃん先生が作っていたのなら色々納得だ。良かったな、優也。お前は別にキモくなかった、普通だ」


「キショいってお前マジで……もっとさ、言い方あるだろ言い方」

 泣くぞ、先生そんな事聞いたら絶対泣くぞ?

 あの人涙腺も弱弱だもん、そんな酷いこと言われたら絶対泣くぞ、名前間違えてるし。

 あとキモいとか言わないで、朱莉に言われても少し傷つくから!


「しかしこれを優也の手作りだと思っていたが、その美少女先生ゆかりちゃんが作っているのか……俄然美味しさが増してきた、美少女の味がする。これは美味い、優也と思っていても美味しかったが、大違いだ」

 そう言ってパクパクモグモグマフィンを食べ進める。


 こいつこんなに食べてなんでこんなにこんな貧相で薄っぺらい子供体型なんだろう、もっと肉付きよくなってもいいのに……いや、こいつはこのままでいいや。良い感じに成長されたらそれはそれで困るし。

 顔は悔しいけど可愛いからね、こいつ。マジで認めたくないけど!




「ふー、食った食った、美味かった。ゆかりちゃんにも美味かったと伝えておけ、後今度は量を増やすのと、美少女エキスを入れることもお願いだ。それでは私はエロゲの世界に戻るから優也もゆっくりしててくれ」

 すっかりマフィンを食べ終えた朱莉がぽーいとゴミを俺の方に投げ捨てて、クルリと一回転してゲーム画面に向き直す。


「おい、床とかベッドが汚れるだろ」


「別にいいだろ、私の部屋なんだ。どうなっても気にしない」


「それはそうかもだけど……まあいいや。漫画、読ませてもらうぞ」


「いちいちそんな事聞くな。私とお前の仲だろ、勝手に読めばいい」


「へいへい、わかりましたよ」

 ぶっきらぼうに言われた通り、俺はベッドから立ち上がって本棚の方へ。

 今日読む漫画は……となりの怪物くんにしよ、少女漫画だけど普通に男が呼んでも面白いんだよな、この漫画。


 お目当ての漫画を取って、そのまま少し酸っぱい匂いのするベッドの上にダイブしていつもの漫画を読む体勢。

 なんで酸っぱいかとかは聞かない、だってどうせナニを言うかわかってるし。



【あんっ、こ、こらぁ】

 そんなこんなで漫画を読んでいると、モニターの方から艶やかなそんな声が聞こえてきて。


【んっ……しょ……んぅぅっ】


【れぇるぅぅ……んちゅ……れる、れるれるぅぅ……可愛らしい】

 無視しようとしてもその声は徐々に大きさを増していき、そしてついにはそう言う音まで聞こえてきて。


【はぁぁ。おつゆ、止まらないわ……んれぅ、んちゅぅ、ちゅぷぅ……えっちな匂いと味で、ぼぉってしてきちゃう……んちゅちゅ】


「……なあ、朱莉、イヤホンとかしないのか? その、そういうシーンなんだし、一応配慮した方が良いだろ」

 我慢できなくなってきたので、俺は朱莉に向かってそう言う。

 いつもだけどなんでこいつはイヤホン無しでエロゲしてんだよ!


「ハァ、なんで私がお前に配慮しなくちゃいけない? それともなんだ、興奮したのか? 興奮したから私に慰めて欲しいのか?」

 一時停止してくるっと俺の方を向いた朱莉は呆れたような声でそう言う。

 誰もそんな事いっとらんわ!


「集中できんだろ、漫画に! そんな声、後ろで流されたら!」


「別にいいだろ、優也が私の部屋に勝手に入ってきてるんだぞ? だから私がお前に配慮する必要はない、慣れろ、慣れるしかないぞ優也」

 そう言うともう一度クルリと回ってモニターの方へ。


 そしてもう一度エッチシーンを大音量で再生し始めて……クッソ、気になるなぁ、音声的に胸でやってるのかな、画面見えないけどおっぱいでしごいてんのかな?

 ああ、もうこんな環境で漫画なんて集中できるかくそったれ!


「……優也、ちょっと家から出てってくれ。漫画は持って行っていいからこの部屋から退散してくれ」

 そんなもやもやした気持ちで、でも続きは気になるから読んでいるとモニターを見たままの朱莉からそんな声が聞こえる。


「……なんだよ、急に。慣れて欲しいんじゃねえのかよ」


「そうは言ったが今は事情が違うんだ。だから早く出てって!」


「……なんでだよ、どうしたんだ急に」


「ムラムラしてきた。オナニーしたい」


「……はぁ?」



 ★★★

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