第1話 引きこもり幼馴染は履いてない

「優也、お疲れだ。さして今日はどんなお菓子と届かない説得の言葉を持ってきたんだ?」

 だらしなく身体をでろーんと蕩かした朱莉がぶかぶかの俺のTシャツをきたままそう笑って……って、なんでお前は俺のTシャツ着てんだよ! 


「優也の部屋から直接拝借したに決まっとろう。優也、お前の部屋セキュリティがガバガバだぞ、エロゲのヒロインよりガバガバだ。ちょっと小突けばすぐに窓が開く、あれならエッチシーンよろしく部屋に侵入してくれと言っているようなものだ」


「いちいち変な例えするな……まあ部屋に入ったのは幼馴染だし許すけど、だからって俺のTシャツ取るかね? てか最近Tシャツが減ったと思ったけど犯人はお前か!」


「何を言うか。お前のTシャツ、結構有能だぞ。少しぶかぶかだが、通気性もいいし動きやすい。おまけに下も履かないで良いと来た。私が使えばこんなにも有能なんだ、このTシャツ君も私に着て欲しいと言っているぞ。ほら声を聞いてみ、あほの優也でも聞こえるはずだ」

 そう言って俺のTシャツを鼻先にスンスン押し当ててくる。

 うっとおしいな、もう。


「おい、聞こえたか? あほの優也でもTシャツ君の声、聞こえただろ?」


「聞こえるか、あほはお前じゃい……ていうか履いてない? え、お前今下履いてないの?」


「まあ、エロゲーマーとしてはズボンなんてオナニーの邪魔でしかないからな、すぐ脱げるパンツだけでいい……って何だ、気になるのか、興奮するのか? 私に興奮したのか、優也は……そう言うお年頃ですもんね、こんな可愛い幼馴染がいれば身の丈に合わない劣情を抱くのも無理ないですわ!」


「ちゃうわい、身の丈考えるのは朱莉のほうだろ……じゃなくて倫理的な事。履いてないのはまずいでしょ、普通に考えて。あとオナニーとかも言うな、一応お前も女なんだろ? そんな事言っちゃダメだよ」


「一応じゃない、ちゃんと女だ。こんなに可愛い私が一応なわけあるか……それじゃあマスターベーションか? それとも自慰か? 手淫と言えばいいのか?」


「そう言う話じゃねえよ……はぁぁぁぁぁ」

 俺の目の前で自由な発言を繰り返す朱莉に思わずため息。

 もうヤダこいつ、恥じらいとかないのかしら?


「何をため息ついている。優也が言うなって言ったんだろ、全く……」

 ぷやぷやと文句を言いながら、服を押さえる。

 そうしてぴったりと張り付いた服からはピンク色の三角形が……こいつマジで履いてないじゃん、恥じらい覚えろ、恥じらいを!


「なんだ、そんな私の方をじっと見て……まさか優也、お前女の子のパンツ見るの初めてか?」


「別に初めてじゃねえよ、妹とかのなら……」


「冬華ちゃんを数に入れるとは業が深い……しょうがないな、ここは幼馴染のよしみで私が見せてやろう。なあに、私は経験豊富だ、優也には何も感じない!」


「やめろ、目に毒だ……それに経験豊富って、お前だって処女じゃねえか。そんな経験ないくせに」

 その言葉にウキウキ楽しそうに服を捲り上げようとしていた朱莉の手が止まる。

 そうしてジッと俺の方を睨んできて。


「……取り消せよ今の言葉! 私は経験豊富なんだ、優也より断然経験豊富なんだ! これまで何人もの女の子と付き合ってきたし、エッチもいっぱいした!」


「それ全部エロゲだろ、画面の中だろ引きこもり! それに女の子同士だったらまだ処女だろ、男の経験ないんだから!」


「うるさいうるさい! 私は経験豊富だ、それにもう貫通してるんだ! 優也より断然大人だ!」


「2年も引きこもって俺意外とまともに話せない奴が何言う……それに非処女主張してるけどそれ自分の価値下げてるぜ、多分。一応分類学上はJKだろ、お前?」


「うるさいうるさいううるさい! お父さんお母さんとも話せるし、非処女が好きな人もいるし! ハイ論破、私の勝ち!!!」


「……はいはい、わかりました。俺の負けです、まいりました」


「よっしゃー! わかればいいんだ、わかれば! はっはー、今日も私は無敵だ!」


「……はぁ」

 パンツのことはもう忘れたのか、俺に向かって勝利宣言をしてそのまま天に向かってそう叫ぶ朱莉にため息が洩れる。

 こんな会話も日常的なのでおばさんから反応する声もなくて……はぁ。


 こんな感じで俺の幼馴染はエロゲに取りつかれ、そのまま引きこもってずっとそれをしている完全ダメ人間だ。

 一応は分類上はJKだけど、備わってるはずの倫理感とか恥じらいとか、社会性とか、コミュ力とか……そう言う人間社会に必要なものは全くない、偏った知識で変なマウントを取りまくる立派ニートのプロエロゲーマーだ。トロコンとかも全作してるし……でその原因は俺にあって、ちょっとだけ後悔してる……するだけ無駄か、もう。


「……どうした、敗者の優也?」


「……もう何でもいいや。今日もお菓子、持ってきてるぜ」


「わーい、やった! あれすごく美味しいから嬉しい!」

 ……こういう純粋な笑顔だけは可愛いんだけどなぁ。

 なんでこんなに歯車狂っちゃったかな?



 ★★★

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