第3話 引きこもり幼馴染はパンツを振り回す

「ムラムラしてきた。オナニーしたい」


「……はぁ?」

 画面を見たまま、荒い息を隠そうともしないで朱莉がそう呟く。


「何度も言わせるな、パトちゃんとのエッチシーンを見ていたらムラムラしてきた、今からオナニーするの! オナニーするったらするの、早く出て行って!」


「……あのなぁ、お前なぁ……」


「もうパンツも脱いだ! 準備万端だから早く出てけ!」

 そう言った朱莉は右手で何かをクルクル振り回す。

 見るとそれはピンク色の三角形の物体で、つまり朱莉が履いていたであろうパンツで……おま、何しとんじゃ、何いっとんじゃ! 

 もうちょっと恥じらいとか誤魔化しとかそう言うのをせんかい!


「お前、そう言うのはもっとな……」


「早く出て行け、もう我慢無理。流石に優也とは言えオナニーを見られるのは恥ずかしいから……それともなんだ? お前も興奮してるのか? 俺のオナニーも見せるからお前のも見せろ、ってか? ごめん、私は相互オナの趣味はないし、優也の粗末なものなど見たくないんから。だからそう言うのはちょっと……」


「うるさい、勝手に話進めるな! それに粗末じゃねえわ立派です!」


「そんなの知らない、優也のあそこの記憶は小5で止まってるんだ。その時はこどもちんちんだったんだ。だから早く出て行け……もう限界、出て行ってくれぇ」

 すでに指をTシャツの間に這わせている朱莉が少し色っぽい声でそう言う。

 言われなくても出て行きますよ……ああ、そうだ。


「お前、Tシャツは脱げよ。それ俺のなんだからな、それは脱いでしろよ」


「なんでだぁ。私は着衣派、全裸でする趣味はない。それともなんだ、私の全裸が見たいのか、ゆうや?」


「ちげえよ、そう言う事じゃなくて……ああ、もういいよ! 勝手にしろ、勝手に使え! それお前にあげるわ、ずっと着てていいぞ!」


「言われなくてもそうする……んっ」

 俺のTシャツを着ながらそう言う事したら、なんかその……ああ、もうこいつの事を気にしたら負けだ!


「あ、そうだゆうや」


「……何だよ、俺はもう出て行くぞ?」


「まぁまぁ⋯⋯ゆうや、私のパンツいる?」


「はぁ?」

 こいつ急に何言ってんだ?

 何を意味わからんことを言い出したんだ?


「私のパンツいる、ってきいてるんだ。美少女の脱ぎたてホカホカ、貴重なパンツだぞ? 優也に服を貰ったお礼だ、あげようかと思ってな……すぅーーー……はぁぁん、美少女の匂い! ん~、我ながらいい匂い……んっ」

 自分のパンツを自分で被って興奮した様にそう言って……ああ、もう!


「お前のパンツなんかいるかよ、バーーーーカ!!!」

 喘ぎ声をあげながらパンツを被っている朱莉にそう叫んで、思いっきりドアをバン! と閉める。


 ……俺の幼馴染が残念過ぎる、やっぱヤダよ、早く更生させないと!!!



 ☆


「……ごめんね、優也君。うちの娘があんなんで」

 階下に降りるとおばさんが申し訳なさそうに頭を下げてくる。


「大丈夫ですよ、もう慣れてますから。最近段々と下品になってる気はしますけど」


「……ごめんね、ホント。そうだ桃むいたけど食べる?」


「あ。食べます! ありがとうございます……うん、美味しいです! みずみずしくて甘いです!」

 おばさんがニッコリと微笑んで渡してくれる桃を食べると甘い果汁がジュワっと口の中に広がる。うんやっぱり美味しいな!


「……んっ、んあっ……んっ」

 ……そして会談の上から聞こえてくるのは甘いけどあまり聞きたくない朱莉の声。

 駄々洩れなんだよ、もっと遠慮しろ!


「……うちの娘が下品でごめんね。でも優也君、娘のこういう声聞いたら興奮するでしょ? 朱莉とエッチしたくなるでしょ?」


「あ?」

 何言ってんだ、この人は?

 あいつの声聞いてもなんも思わないんですけど。


「優也君も興奮するでしょ、朱莉のエッチな声聞いたら……だから優也君、うちの娘の事貰ってくれないかしら? 優也君なら私たちも安心できるし、それに朱莉も安心できるし……ね? 幼馴染だし……ね?」

 パチパチ目を鳴らしながら、おばさんはそんな事を言ってきて……おばさん、それは無理です。


「ごめんなさい、俺はそう言う気分になれないんで。あいつはもうそう言う対象から外れちゃいました」


「う~ん、残念! でもこれからも朱莉の事よろしくね!」


「……それは任されました」

 幼馴染の母親の懇願の声を無視できるはずもなく、俺はそう頷いた。



 ☆


「ただいま~」

 朱莉の家で桃を貰って、あの家に長くいる意味もないので隣にある自分の家に帰る。


「ん、お兄。お帰り」


「あ、お兄さん。そ、その……お、お帰りなさい」

 その足でリビングに向かうと、中学校の制服姿の妹の冬華ふゆかと妹の友達の浜中咲綾はまなかさあやが出迎えてくれる。


「おう、ただいま。咲綾ちゃんもいらっしゃい、ゆっくりしていってね」


「は、はい。ありがとうございます、お兄さん……えへ」


「ちょっとお兄! 咲綾に鼻の下伸ばさないの、変な事考えないの!」


「考えとらんわ! そんな顔してんし!」

 いつも通り咲綾ちゃんにも挨拶していると飛んでくる冬華の嫌味に思わず強めのツッコミ。そんな顔しとらんわ、失礼なこと言うな!


「どうかね、お兄はアレだし……あ、そうだ。お兄、今日咲綾うち泊まるけど変な事考えちゃダメだかんね! 咲綾に変な事しようとした瞬間、私がぶっ飛ばすかんね!」


「そんなことするかよ……って言うか今日水曜日だろ? それなのに泊まるの、咲綾ちゃん?」


「は、はい、今日はお母さんとお父さんが仕事で、二人ともお家にいなくて、私一人になっちゃいますから……だ、だからその今日はお兄さんの家に泊らせていただきます!」


「そう言う事。だからって変な事考えないようにね」

 そう言った冬華から飛んでくるのはジトッとした怖い視線……だから咲綾ちゃんにはなんもせんって。

 でも咲綾ちゃんは家の事情で結構土日とかにお泊りに来ることは多かったけど、ついに平日にも泊まりに来るようになったか。

 まあ別に俺にそんなに影響ないからいいんだけど。


「それじゃあ咲綾ちゃん、今日は本当にゆっくりしてってね」


「は、はい! ゆっくりします!」


「ちょっとお兄!」


「だから何もしてんって!」



 ☆


「……そろそろ寝るか」

 あれから咲綾ちゃんも交えて家族みんなで夜ご飯を食べて、咲綾ちゃんのお風呂タイムには目隠し拘束されて、みんなでゲームして……何て感じで少し変なところはあるけど、概ね普通に過ごしているとそろそろ寝るには良い時間になった。


 明日も学校だし、今日もなんかあいつに色々振り回されたし……今日はゆっくり寝ましょうや。


「……ん?」

 そんなこと思って、部屋の電気を消してベッドにもぐりこんだけど、それを見計らったように窓の外からドンドンドンドンと何かを叩く音がする。

 その音は反響して、俺の部屋全体を揺らして。


「……はぁ」

 そして残念ながら俺はこの音の正体を知っている。


「こら、朱莉! お前今何時だと思ってるんだ、もう寝る時間だぞ! 近所迷惑、近所迷惑!!!」


「近所迷惑は優也の方だろ、それに私は今からが活動時間なんだ! おい優也、私は腹が減った、コンビニに付き合え!」

 ガラガラと窓を開けると、長い竹の棒を持った相変わらずの俺のTシャツ姿の朱莉が窓をガツンガツンと叩きながらそう言ってきて……俺は一般学生なの、お前とは違うの!



 ★★★

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