第18話 咲綾ちゃんは選んでほしい

「嘘つかないでください……これ、朱莉さんですよね? 朱莉さんに頼まれたんですよね、朱莉さんが欲しいんですよね……私の事は利用したんですよね?」

 咲綾ちゃんとお出かけ当日日曜日、目的地に着いたところでそう言った咲綾ちゃんは俺の方をギロっと怖い目で睨む。

 いつものおっとりとしたたれ目がそんな目に変わってるからこれは破壊力抜群、つまり怖い!


「いや、そんな事ないよ! そんな事なくてだね、その本当に咲綾ちゃんと……」


「優也さん、そう言う優しさはいらないです、そう言うのは逆に傷つくだけですから。朱莉さんですよね、朱莉さんに頼まれたんですよね? 優也さん、こういうアニメ見ないですもんね、今期はリコリコ以外見てないって言ってましたもんね?」


「え、いや、その……すみませんでした、ごめんなさい。全く持ってその通りです、朱莉に頼まれました。朱莉に行ってこいと言われました」

 ギロっと目力迫力に押し負けて、俺は正直に白状する。

 はい、そうです、その通りです。

 今期は千束が好き過ぎてリコリコしか見てませんし、それにこれは朱莉に言われたからです……で、でも咲綾ちゃんを利用したとかじゃないから!


「ふ~ん、本当ですか? 冬華ちゃんを最初に誘ってましたし……本当は女の子ならだれでも良かったんじゃないですか? 一緒について来てさえくれれば誰でも良かったんじゃないデスカ? 優也さん、ね、優也さん? 利用したんですよね、私の事? 都合のいい女の子くらいにしか思ってないんじゃないデスカ? 可愛いとか楽しい言っておけば機嫌のとれる安い女の子だと思ってるんじゃないデスカ?」


「いや、えっと、その、そんなわけじゃなくてね……痛いなぁ、咲綾ちゃんつねらないで欲しいなぁ……」


「ん~? ん~? よく聞こえませんね、わかりませんね~」

 ぐりぐりと俺のお腹をつねりながら、そう張り付いた笑顔で言ってきて。

 声も顔も見るだけなら優しいけど、でも恐怖を感じるそんな雰囲気でお腹をぐりぐりと……まいったなぁ、別に誰でも良かったってわけではないんだけど。


 冬華とか咲綾ちゃんと久しぶりにいつものお礼とかもかねてお出かけしたかったってのもあるし、それに咲綾ちゃんなら喜んでついて来てくれそうだし、理由はどうあれ楽しんでくれると思うし……ってこの言い方だとやっぱり利用してる風に思われるかも! 


 都合のいい女の子だから誘ったみたいに……いや、でも咲綾ちゃんと久しぶりにお出かけしたかったてのは本当だし、それに喜んでもらおうと思ってこのカフェの後にも色々プランを考えてたわけで、咲綾ちゃんの好きなサンリオとかカフェだけではお腹空くだろうし美味しいレストランとか調べたり……ああ、これ最初に言うべきだった!


 今から言っても言い訳してるみたいにしか聞こえないよ、どうしよどうしよ! 

 咲綾ちゃん怒っちゃてるよ、確かに朱莉との約束のために誘ったところはあるけど、でも本当に咲綾ちゃんと楽しく一緒にお出かけを……


「……ふふっ、冗談ですよ、怒ってないですよ優也さん。私はそんなに怒ってません、だからそんなにあわあわしないでください、優也さん」

 必死に色々考えながら頭を抱えていると、頭の上から咲綾ちゃんの優しい声が聞こえる。

 その声はさっきまでの怒りを孕んだ怖い声じゃなくて、本当に優しい、いつもの咲綾ちゃんの声。


「だって優也さんも私と出かけるの楽しみって言ってくれましたし、、私が楽しめるように色々考えてくれてたみたいですし。私も優也さんとお出かけするの楽しみでしたよ、形がどうあれ優也さんとお出かけできるだけで私はハッピーです、楽しいですから……それに、優也さんは私を選んでくれたんですもんね? 仲良しの女の子の中から私を選んでくれたんですよね?」

 そう言ってキリッとどこか妖艶でいつもとはイメージの違うような流し目で俺の方を見てくる。


「……うん、選んだ。咲綾ちゃんに来て欲しいと思った!」

 何だか咲綾ちゃんが急に大人っぽく見えて、ちょっとドキッとしちゃった。

 なんか大人っぽくて少しセクシーで……ダメダメ咲綾ちゃんだぞ、下手したら冬華より長い時間一緒に居るかもしれない咲綾ちゃんだぞ。


「……それなら全部許します! 優也さんが私とお出かけしたいって思ってくれてたなら、他にも女の子いるのに私と一緒に……それなら嬉しいですから! 私は優也さんに選んでもらったんですからこんな事で怒ったりしませんよ!」


「……ありがと、咲綾ちゃん」


「いえいえ! よし、それじゃあ早く行きましょう、コラボカフェで色々食べてグッズ貰いましょう! 何があるかはわかりませんけど、私はオムライスが食べたいです!」

 ポンと楽しそうに手を叩きながらるんるんと弾むようなステップでカフェの方に向かって歩いていく……ふふふっ。


「ん? 優也さん今何か失礼なこと考えてませんでした?」


「ううん、考えてない。咲綾ちゃんは可愛いな、って」


「……咲綾はそんなに都合のいい女の子じゃないです、そう言うの言われてもそんなに嬉しくないです、私は冬華ちゃんとは違うんですよ、そんなに喜ばないです、全然ですからね……ぎゅー」


「……今度は何?」


「男女ペアで行く必要があるって聞いたので、こうした方が良いかな、って思いまして。こうすれば、その……ちゃんとそう言うのに見えるかな、って」


「別に見えなくてもいいんだよ、男女なら。だから無理せずに」


「で、でも……もし……それに……」


「……わかった。でもこの格好は歩きにくいから……せめてこっちにして」


「……やっぱり優也さんはちょっと意地悪でちょっと変です。でも……嬉しいです、優也さん……えへへ」

 俺の差し出した手をギュッと握って蕩けた笑顔を見せる咲綾ちゃんと一緒にコラボカフェの扉を開く。


 開いたと同時に、元気の良さそうなお姉さんがこっちを見てニコッと微笑む。

「いらっしゃいませ~、何名様ですか~!」


「2名です……あ、コラボカフェやってるて聞いてきたんですけど」


「はい、やってますよ! うちはそんなにそんなに人気ないですけどね!」

 そうはきはきと面白そうにお姉さんが話すけど、絶対その理由は男女で来る必要があるとか言うわけわからん難易度のせいだと思います。


「それもそうですね! まあまあ、コラボカフェの方は商品を注文していただければいいとして、まずは確認の方を……はい、ちゃんと男女で来てますね! ふふっ、可愛いですね、妹さんですか? お兄ちゃんと一緒に来たのかな? 手を繋いで仲良しだね!」


「いえ、私は優也さんの……」


「あはは、まあそんなところです」


「おー、やっぱりそうでしたか! 良いですね、兄妹仲が良くて羨ましいです、もちろん兄妹でもグッズは貰えますからね! 安心してください、それではお席のほどどうぞ~!」

 営業スマイルとはまた違って、ニコニコ楽しそうな笑顔を見せてくれるお姉さんが席に案内してくれる。


「よし、咲綾ちゃん行こ……痛っ!? な、何!?」


「……何でもないです。ただなんか……したくなっただけです」


「ここお店の中だからそう言うのやめ……痛いっ!?」


「どうかされましたか?」


「いえ、大丈夫です……咲綾ちゃん?」


「……つーん」

 俺の脇をまたまたぐいぐいとつねった咲綾ちゃんはつーんとそっぽを向いたまま口を尖らせる。



「……咲綾ちゃん、そのオムライス美味しい? こっちのハンバーグはすごく美味しいけど」


「……つーん」

 注文した料理を食べてる時も俺の方を見ずに料理に集中して黙々と食べていた……何か気まずいな。それにコラボカフェの料理はなんでこんなに高いんでしょうか、財布の中身が薄くなっちゃいます!

 グッズ手に入れられたことは良かったけど出費がえぐい、そして咲綾ちゃんとの空気が軽く地獄。


「あむあむ……」


「さ、咲綾ちゃん? こっちのハンバーグ一口いる? 食べる、咲綾ちゃんハンバーグも好きだよね?」


「……つーん」

 ……女の子って難しい。


 もしかして妹、って言ったの怒ってるのかな?

 咲綾ちゃん今日の事楽しみにしてたって言ってたし、それにデートだって……でも咲綾ちゃんがお兄ちゃんとして、妹して好き、妹として見て欲しいって言ってたし……やっぱり女の子は難しいや、朱莉も冬華も日和も咲綾ちゃんも。




「……妹じゃない、って言ったのに……この前私が言ったからかな、もうちょっとの勇気出なくてあんなこと……でも察してくださいよお兄、優也さん……むー」




 ☆


「ありがとうございました~! これからも兄妹末永く仲良くね~!」

 余計なお節介をしてくれるお姉さんに見送られて、俺たちはコラボカフェを出る。


「咲綾ちゃん、この後……」


「……つーん」


「やっぱりか……」

 案の定また話しかけても咲綾ちゃんはそっぽを向いたまま答えてくれなくて。

 もうしょうがないな、この空気相当気まずいし、今日はこのまま……


「ま、待ってくださいおに、優也さん!」

 一度家に帰って帰って冬華が帰ってたら3人で遊ぼ、なんて思っていると咲綾ちゃんに大声で呼び止められる。


「さ、さっきまで無視しててご、ごめんなさい。そ、そのえっと、だって、でも……ごめんなさい、ごめんなさい優也さん! お、怒ってますよね、あれだけお兄さんが話しかけてくれたのに全部無視しちゃって、ちょっと機嫌が悪いからってお兄さんの事ずっと無視してて……ごめんなさいごめんなさい! 私が悪いです、私のせいです……でも咲綾の事を嫌いには……」

 泣きそうな顔で深々と頭を下げて、涙も交じった声で本当に申し訳なさそうに必死に謝ってきて……いやいや怒ってないし、ここ街中だよ!


「大丈夫大丈夫、怒ってないよ咲綾ちゃん! こんな事で嫌いにならないよ、全然大丈夫。冬華なんてもっとひどい時あるし!」


「……でも、私お兄さんに酷いこと……」


「大丈夫だって、全然酷くないよ、冬華に比べればましだって! だから泣かないで、可愛い顔が台無しだよ!」


「……もう、お兄さんー……んっ」

 涙で少し赤くなった顔をハンカチできゅっきゅと拭いた咲綾ちゃんはそのまま俺の裾をギュッと掴んで、小さく口を動かして。


「……本当はお兄さんともっとおしゃべりしたいです。もっと一緒に居てもっとお出かけ楽しみたいです……もう少し咲綾と一緒に居てくれますか?」


「もちろん、喜んで!」

 上目づかいでおずおずとそう聞いてくる咲綾ちゃんに、俺は大きく頷いた。



「……でもきょうのおに……優也さんはいじわるなので咲綾の行きたいところに付き合ってもらいます。咲綾が行きたいところに一緒に来て欲しいです」


「ふふっ、良いよ。咲綾ちゃんの行きたいところに行こう、俺も付き合ってもらってるわけだし!」


「……お願いします、優也さん」



 ……そう言って肩を寄せてくる咲綾ちゃんが行きたいところは動物園とか、サンリオっショップとか咲綾ちゃんの大好きなアイス屋さんとか……そう言う可愛いところだと思ってたんだけど。


「え、さ、咲綾ちゃん? こ、ここで本当にあってる? 階間違えてない?」


「間違ってないです、合ってます」


「え、嘘? だってここ……」


「合ってます、私はここに行きたいんです。優也さんに咲綾のパンツ選んでほしいんです……派手なやつでもあみあみのやつでも紐のやつでも黒でも白でも赤でも……優也さんの好きなようにしてください。咲綾の事、好きにしてください」



 ★★★

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