第23話 私とデートしてよ

「もぐもぐ……これ、衣は美味しいですね。なんというかカレー味のパリパリみたいで美味しいです」


「ですわ……でも本当にパンツはいらないですわ」


「……先生はまさか天ぷらの衣だけ剥がして食べる日が来るとは思わなかったよ。でもカレー粉の天ぷら本当に美味しい、また今度つくろ」



 ☆


「ごめんなさい、優也様……私が天ぷらなんか食べてみたいといったばっかりに……ごめんなさい、優也様……後先生もごめんなさいです」


「そ、そんなに落ち込まないで、そんなに謝らなくていいよ、日和! 衣は美味しかったし、衣は……ね、先生!」


「うん、衣は美味しかったから! だからそんなに暗い顔しなくて大丈夫よ、藤沢さん!」

 お皿の上から天ぷらが消え、パンツの残骸が残ったところで、深々と頭を下げて俺たちになきそうに謝罪をする日和を俺と先生二人がかかりで必死にフォロー。


 そんなに謝らなくていいよ、衣はカレー風味で美味しかったから!

 あの後パンツから衣だけはがしてそれだけ食べるって言う逆ダイエットみたいなこともしたし、本当に衣は美味しかったから!


「……しかし、優也様に美味しくないものを提供してしまいました。それが本当に申し訳ないですわ」


「いいって、途中から俺もノリノリでやってたわけだし」


「そうよ、藤沢さん、だから元気出して……でもこれからはこういうものを粗末にするお料理は禁止ね! 美味しくないし、ただ粗末に扱ってるだけになっちゃうから! お料理するなら無駄なく、美味しいものを作らないと!」


「……はい、ありがとうございます、先生」

 いつにもなく家庭科の先生らしい結月先生の言葉に日和が感謝の言葉を言う。

 先生は殆どずっとノリノリだったんだけど、これを言うのは野暮ってもんだ。


「それじゃ、片付けして今日は終わりにしましょ! これもまた経験ってことで、これからに活かしていけばいいから! だからくよくよしちゃダメ、切り替え切り替え、でもものを粗末にしない気持ちだけはしっかり持って!」


「ありがとうございます、先生……その、先生! また今度、お料理をつくりたいんですが一緒に作っていただけますか? その、今回のリベンジとかかねて、また何か作りたくて……もちろん、今度は変なものは入れませんわ。だから、その……」

 もじもじと声と身体を震わせながら、先生にそう言う日和。

 少しキョトンとしていた先生だけど、すぐにいつもの柔和な笑顔になって。


「ふふっ、もちろんOKよ、藤沢さん! 先生もちゃんとした料理、二人と作りたいしね! それなら何作りたい? いつがいい?」


「今週の水曜日はどうでしょうか……それで優也様の好きなお菓子は何ですか?」


「俺? ルマンド」


「……いけずですわ、優也様。わかってらっしゃるくせに……」

 俺に好きなお菓子を聞いた日和は不服そうにぷーっとほっぺを膨らませてぷいっとそっぽを向く。


 ごめんごめん、ちゃんとわかってるよ。

 俺はアップルパイが好きだよ、日和。


「もう、優也様は……日和もアップルパイ、好きです。甘くてサクサクふわふわできて、それで女の子の……あ、すみません話が逸れました。それでは先生、私はアップルパイが作りたいのですがよろしいでしょうか?」


「ふふふっ、相変わらず仲良しだね二人とも。それじゃあリベンジクッキング、明後日にアップルパイで登録しとくね! 今度は食べられないものとか持ってきちゃダメよ、藤沢さん!」


「はい、もちろんですわ……私の料理で優也様に喜んでいただきたいですから」

 俺の方を見つめる日和はそう言ってニコッと満面の笑みを浮かべた。


 ……俺も日和の作った料理、食べてみたいな。

 多分普通の料理なら喜んで食べられます!




「ところで黛君、今日は西塚さんのところ行く?」

 日和がお父様の車で帰った直後、職員室に向かおうとした先生が思いついたように聞いてくる。


 今日か、今日か……

「……今日は行かないですね。その……今日は行かないです」


「ふふっ、そっか……黛君、もし悩んでることがあったらなんでも先生に相談してね」


「……悩んでることは無いです……でも、その……大丈夫です、今日はクールダウンの日です」

 昨日の事もあるし、今日行って同じようなことされたら……ちょっと自分がわかんなくなるかもだし。

 だから今日は朱莉の家はお休みします。



 ☆


「さてと……まずは電話かけるか」

 朱莉の部屋には行かずに家に直帰した後、俺は自分の部屋で電話をかける。


「は~い、つーちゃんだよ! 優ちゃんから電話かけてくれるなんて珍しいね~、何かあった~? どうしたの、優ちゃん?」

 1コール目でスッと出てくれたスマホの向こうからは長岡紬の元気の良い声と、少し聞きなれない声が……こいつ今どこいるんだ? もう優ちゃんは諦める。


「ん? 彼氏の家だけど?」


「……あとでかけ直す」


「待って待って~! 大丈夫、今聞かせてよ~! 優ちゃんなら大丈夫だって~、私は今すぐ優ちゃんの声、聴きたいし!」


「いや、その……まあお前が良いならいいか」

 普通に考えて彼氏の家で男からの電話とるのなかなかにやばいと思うんだけど。

 まあでも、現在3股中という噂がある長岡紬だし……いいか、本人も言ってるし。


「良いんだよ~、優ちゃんなら! ところでところで、本当に何があったんだい、優ちゃん?」


「……日和に何か吹き込んだだろ、お前」


「ん、ひよりんに? 何の話?」


「いや、今日日和が『パンツの天ぷらが作りたい!』とか言ってたんだけど、あれってお前が何か吹き込んだんじゃないの? 日和は自分の意志で、って言ってたけど実はお前が裏で糸引いてたんじゃないの?」


「え、何それ、知らない。知らないんだけど、ていうかひよりんからもそんな話聞いてないんだけど。ていうかパンツ食べたの、流石に食べてないよね?」

 スマホ越しに聞こえる声はキョトンとしていて、本当に知らないように困惑しているような心配してるような声で。

 あ、本当に長岡紬は関わってなかったんだ、こりゃ失礼しました。口に含むまでで食べてはいませんぜ。


「も~、本当に失礼だよ優ちゃん! 私は別に怒んないけど! でもパンツ食べたいなんて思ったことは無いよ」


「日ごろからそんな言動してるお前が悪い。でもごめんな、ありがと。それじゃあ切るぞ」


「ちょっと待ってよ、優ちゃんもっと話そうよ~! せっかく優ちゃんから電話かけてきてくれたのにこんな淡白な会話じゃもったいない~! もっと話そうよ~、優ちゃ~ん!」


「……お前今彼氏の家いるんだろ? めんどくさいことになったら嫌だからもう切ります、バイバイです。また明日な、長岡紬」


「も~、しょうがないなぁ、優ちゃんは! それじゃあね、バイバーイ!」

 そのどこかきりたんな声とともに電話が切れる。

 ものまねのクオリティは断然日和の方が上だな、これじゃ。


 ……しかし彼氏の家にいる時に男からの電話に普通出るもんかね?

 長岡紬らしいっちゃらしいけど……なんかその辺の感覚、俺にはよくわかんないや。


「ふわぁぁぁ……」

 それになんだか眠くなってきたし。

 取りあえず、ご飯が出来るまで俺はぐっすり眠らせていただきましょうかね、眠れば朱莉の事ももうちょっと整理できると思うし。


 明日には会えるくらいには整理できると思うし。

 だからおやすみなさい……zzz




 ―今日は優也来ないのかな? 今日は来てくれないのかな? 


 ―優也もそう言う気分の日あるよね! 私と会いたくない気分の、私と会いたくない……ヤダな、そんなのヤダ、やっぱり毎日会いたいよ。毎日会いに来て欲しいよ……明日は会いに来てくれるよね、優也? 


 ―えっちでさばさばな昔の優也が好きな私じゃなくて、今の優也が好きな、昔みたいに優也に甘えていられる私でいるから……だから会いに来てよね、絶対。


 ―今日は優也のパンツで我慢するから……明日は本物の優也に会いたいな。




 ☆


 日常ってのは何もイベントがないとさくさくさくさく進んでいくものである。


 今日も朝起きて、冬華に色々言われながら学校に行って、日和に「優也様」とべったりしてもらいながら色々話したり、長岡紬に昨日の事を聞かれてからかわれたり、校庭に現れた季節外れの超巨大カブトムシを和大含む男友達数人で全力で捕獲に行って、結局にげられたり……そんな当たり前の時間を過ごしていると、あっという間に放課後になった。



「お、黛君、今日は西塚さんのところ行ってくれるの? お菓子は用意してるけど行ってくれるの?」


「はい、今日は行きます。行ってきます」

 そして今日も今日とて放課後は朱莉のためのお菓子を貰うべく結月先生の下へ。


 昨日は夜もぐっすり寝たことで気分転換ばっちり、朱莉の家に行けるメンタルは整っております! あれは多分気の迷いというか、エロゲにああいうシチュエーションがあっただけだと思うし、だから気にしない!


 朱莉のアレを見たのも……小学生の頃はよくお風呂一緒に入ってたし! だから全然気にしない、気にしちゃダメなことだよ!!!


「そっか、そっか。それじゃあ、これあげるね。今日のお菓子はバナナケーキ! 牛乳と一緒に食べると美味しいよ!」


「いつもありがとうございます、先生! それじゃあ行ってきますね」


「ありがとうはこっちこそだよ、黛君。それじゃあ行ってらっしゃい!」

 ふるふると優しく手を振る先生に俺も手を振って、いつも通り(今日は日和が病院で早退したから実はいつも通りじゃない)廊下を歩く。


 もし今日も朱莉があんな感じで甘えてきたら、それは……昔の朱莉に、俺と長岡紬と一緒に学校に通ってた、まともで可愛い頃の朱莉に戻ってくれたという事で!

 だから、その……変な気分になるまでは甘えさせよう、そしたら多分また一緒に学校に行けると思うから!


 そんな事を考えながら学校を出て校門へ向かう。


 人でごった返す校門の前に、ひときわ異彩を放つこの学校とは違う制服が見えて……

「……あれ? 冬華?」


「……お兄、学校お疲れ様」

 なんで冬華がいるんだ? 俺の学校に冬華が来るなんて初めてだよな、なんでここに?


 そんな風に頭に?マークを浮かべているとてくてくと冬華が俺の方に近づいてくる。

「……お兄、日曜咲綾とデートしてたでしょ?」

 俺の前に立った冬華はギロっと俺の方を睨みながらそう言って……え、何で知ってるの!?


「……ベツニシテナイデスヨ」


「とぼけないで、咲綾から聞いた。咲綾すごく嬉しそうに話してくれたよお兄とデートしたって……その後失言のように口を塞いでたけど」


「……」

 言っちゃったか、咲綾ちゃん口滑らしちゃったか。

 いや別にそれは良いけど、でもどうしようこれ怒ってるよね? 冬華怒ってるよね!? 顔が怖いし、それに……ごめん、でもそんないやらしい意味じゃなくてですね……


「……別に怒ってない。お兄と咲綾なら別にいいし、咲綾も安心だと思うし……それでさ、お兄⋯⋯私ともデートしてよ」


「……え?」

 ギロっと俺の方を睨んだままの冬華から出た少し寂し気な言葉は、俺の予想とは全然違うものだった。



 ★★★

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