第24話 冬華とデート!?
「お兄、私ともデートしてよ」
「……え?」
ギロっと俺の方を睨んだ冬華がどこか寂し気な声で言った言葉は俺の想像とは180度違うような言葉で。
え、デート? 冬華が俺とデート……なんで?
「なんで、って別にいいじゃん。私とお兄は兄妹なんだから……お兄の本当の妹は私なんだから別の何の問題もないでしょ?」
「いや、そうじゃなくて……」
「何? 咲綾とはデートしたのに私とは出来ないって言うの? お兄は私のお兄でしょ? だから私とデートしなさい、命令!」
不機嫌そうに怒ったような声でそう言いながら、俺の方をビシッと指さしてきて。
いや、別に冬華とお出かけすること自体は何の問題もないんだけど、普段の冬華なら絶対にそんな事言わないだろうし、むしろキモいとか言う側だし、なんか裏があるって言うか怖いって言うか……どうしたのそんな急に?
「どうしたもこうしたもない! お兄は私とデートすればいいの! 今日は私とデートすればいいんだからつべこべ言わずについてこい! 行くよ、お兄!」
やっぱり不機嫌そうにそう言った冬華はその勢いのまま俺の右手をギュッと握って……!?
「ちょ、冬華!? は、離せよ、どうしたんだよ本当に!」
「ダメ、手離したらお兄逃げるでしょ! だからこのまま行くの!」
「逃げないよ、別に……俺は急にそんな事言いだしたお前が気になってだな」
「うるさい、何でもいいでしょ! お兄は私の事もっと見ろ、もっと考えろ!」
「どういうことだよ……」
相変わらずギロっと不機嫌そうに俺の方を睨んだまま、周りの視線も気にせずにずんずんと手を握って歩いていく。
なんでこいつ今日こんなに不機嫌なんだよ……そしてなんで俺とデートしたいなんて言い出したんだよ? デートするなら彼氏と……
「お兄、後ろじゃなくて隣歩け! なんか私が強引に引っ張ってるみたいでヤダ!」
「いや、実際そう……はい、ごめんなさい、隣歩きます」
「初めからそうしろ……あとお兄も私の手もっと握れ。もっとギュッとしろ」
「……はいはい」
……本当にどうしたんですか冬華さん?
☆
そのまま冬華と手を繋ぎながら少し歩いてついた先はカラオケ店。
「お兄、学生証。私ゴールド会員だから私が受付してくる」
「お前そんなにここ利用してんの……?」
俺カラオケなんて友達と数回しか行ったことないんだけど。
何なら高校に入ってからまだ2回しか行ってないんだけど。
「彼氏とよく来るの、そういう所詮索しないでいい! 受付してくるからちょっと待ってて」
「そう言うなら手離せよ」
「……一緒に付けついてこい、バカ!」
……本当に今日の冬華はよくわからん。
なんか情緒がおかしいというか、普段では考えられない言動をしてるというか……ホントわかんないな、今日の冬華。
でも従わないと怒られそうな雰囲気あるし、ちゃんとついてきますか。
「あら、冬華ちゃんに豊君、今日もデート? 相変わらず手を繋いで仲いいね……あれでも今日の豊君、ちょっと雰囲気と制服が違うような?」
受付のカウンターの前に立つとにこやかな表情の店員さんが冬華に向かって楽しそうに話しかける。
本当に冬華よく通ってるんだな……そして冬華の彼氏は豊って言うんだ。兄ながら初めて知った。
「今日は事情があって……学生二人、フリータイムでお願いします」
「はいはい、いつものね。それじゃあ、12番の部屋ですよ~、今日も仲良くね!」
俺にコップを手渡した店員さんがそう言ってにこやかスマイル。
……それよりこの会話からするに俺の事冬華の彼氏と勘違いしてるな、そんなに顔が似てるのかな?
「なあ冬華……」
「……私先に行ってるからお兄はジュース入れてきて。私のお兄なんだからジュース入れてきて」
「……あのなぁ。今日もコーラか?」
「うん、よろしく」
そう言って一度12番の部屋の方に向かった冬華だけど、でもすぐにピタッと立ち止まって俺の方に戻ってくる。
「……んっ。やっぱり一緒に行く、お兄と一緒に部屋まで行く」
そしてさっきと同じように俺の手をギュッと握って。
「……本当にどうしたの、冬華? 今日の冬華なんか変だぞ?」
「うるさい……お兄はもっと私の事見ろ!」
見ろって言われてもなぁ……少し不機嫌そうで様子がおかしい以外はいつも通りの冬華なんだよなぁ。
「……お兄の鈍感、あほ……でもそう言うとこもお兄、私のお兄」
「……どう言う事?」
やっぱり今日の冬華様子がおかしい、色々言動もおかしい……学校で何か変なものでも食べたんだろうか?
☆
「……冬華、暑い。それに耳が痛い」
「うるさい、お兄、我慢しろ! 黙って私の美声に酔いしれろ! うぃーあまーべりっく!」
「……確かに歌上手だけど。でもこの距離はうるさいって……」
爆音で曲が流れる少し広めの部屋で、俺の腕を取ってぴったりと密着した冬華がほっぺをぷくーっと膨らませながら、何かをぶつけるように大声で歌を歌う。
冬華は子供のころから歌うまいしからそこは良いんだけど、距離が近すぎてうるさいし、普段は絶対に腕絡ませたりなんてしてこないし。まだ5月で空調も微妙だからかなり暑い。
そしてマイク離してくれないのもちょっとしんどい、俺だって歌いたい!
「……それじゃあデュエット! お兄と私の二人でデュエットしよ!」
「別にいいよ、俺一人で歌うよ」
「ダメ、デュエット! 二人で歌うの、お兄と二人で一緒に歌うの! 曲は私が入れる!」
「……なんたる横暴、これが理不尽。まあ冬華がそうしたいならいいけど」
なんかでも根本の部分はいつもと同じ感じだな、いつもの冬華と同じ感じ。
少しだけ安心……いや、安心はできないな、彼氏にもこんな感じなのかな?
「……よし、これ歌うよ。お兄、一緒に歌お」
そんな事を考えていると、左手一本で器用にタッチパネルを操作していた俺にマイクを渡しながら画面を指さす。
表示されているのはLucky Comes True!
「……これ二人で歌う歌じゃないよね? 確実に一人用だよね?」
「でもフクちゃん好きだよね? この曲も好きだよね? だから一緒に歌ってくれるよね?」
「なんで知ってるんだ、それ……まあ歌えるけど」
「よし、決定! それじゃあ始まるよ!」
その声とともに、耳に残るリズムが部屋の中に流れる。
「……占って進ぜましょう! はいっ! ……ちょっとお兄もちゃんと歌ってよ! 私はお兄と一緒に歌いたいの!」
「……じゃあもっと歌いやすい曲にしてくれない?」
「ダメ……この曲、好きなんだもん」
ピタッと身体をくっつけて、どこか熱っぽい表情でそう言う。
この曲高いし早いし歌いにくいんだよな……まあでも妹の頼みだし付き合いますか。
☆
「ふふっ、お兄の裏声久しぶりに聞いた。ちょっと気持ち悪かった」
二人でデュエットが終わった後、隣でくっつく冬華がそう言う。
「ほっとけ、フクの曲はこう歌うのが一番なんだよ……それじゃあ腕離してもらえるかい、冬華?」
「なんで? 良いじゃんべつに腕組んだままでも? 何が嫌なの?」
俺の言葉に敏感に反応した冬華がじろっと黒い目で睨む。
何それ怖い、その顔怖い。
「そんな顔で見るなよ、ジュース取りに行くんだよ、無くなったから。離してくれないと動けないだろ?」
「それじゃあ私も一緒に行く。お兄と一緒にジュース取りに行く」
「冬華ほとんど飲んでないじゃん。一人で行くから離れて」
「ヤダ、お兄と行くもん。お兄についてくもん、お兄と一緒に行くもん」
離れて、という風に腕をぐいぐいと動かすけど冬華は離れずむしろもっと濃厚に絡みついてきて。
俺が腕を動かすたびにそのほそっこい身体をぐいぐいと押し付けてきて。
「もう離せって!」
「ヤダ、お兄と一緒に行くって言ってるじゃん!」
「だからジュース入れに行くだけだって! それくらい一人で行かせてくれ!」
「ヤダヤダ、お兄と一緒が良いの、一人は嫌なの! お兄も私を一人にするの……お兄も私の事拒絶するの? お兄も私と一緒、嫌なの? 私と一緒じゃダメなの? 私はそんなダメなの?」
「……冬華?」
さっきまでの強気そうな表情とは一転して悲しそうな、寂しげな表情を浮かべて。
震える身体を俺の腕に預けながら、見上げる瞳は潤んで今にも泣きだしてしまいそうで、壊れてしまいそうで。
「……冬華、彼氏さんとケンカした?」
「……気づくの遅いよ、バカお兄……ホント鈍感バカ……でもやっぱりお兄だ……私だけのお兄ちゃんだ」
震える声でそう言った冬華が、左手を俺の腰にギュッと回した。
★★★
長くなったので今日はここまで。
感想や☆やフォローなどしていただけると嬉しいです!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます