第14話 日和ちゃんはえっち検定をし、引きこもり幼馴染は少し不機嫌になる

「ねえねえ優ちゃん? さっきひよりんと何があったの~?」


「……なんだよ、長岡紬。その呼び方で呼ぶなっていつも言ってるだろ」

 朝のHR終わり、日和と何か話していた長岡紬がテトテトニヤニヤと俺の方に歩いてくる。

 そして俺の声を聞いてさらに顔をニッコリゆがめて。


「え~、昔からずっとこうだったじゃん! 小さい頃からずっと! 優ちゃんも昔みたいにつーちゃんって呼んでいいんだよ~?」


「俺ら中学からの付き合いだろ、それにそんな呼び方で呼んだことねえし、呼ばれた記憶もあんまりないぞ」


「も~、ケチだな~……それじゃあひよりんと何があったかだけ教えてよ~? なんだかひよりん泣いてたみたいだったし、優ちゃんのハンカチ使ってたし……ねえねえ、何があったの? 良いニュース? 悪いニュース? 優ちゃんの彼女が泣いてるんだもん、そりゃつーちゃんも気になりますよ~」


「なんで俺のハンカチ知ってるんだよ……何もなかったぞ、日和とは。お前が期待してるようなことは何もなかったです」


「うゆゆ~、そうか……って日和? 日和って呼んだ? ついに名前呼びになったのか~、優ちゃ~ん! 一歩前進だね~!」

 そう言って俺の脇をくいくいと押してくる。

 ああもうめんどくさい、日和と仲がいいからさらにめんどくさい!


「やめろ、からかうなよ長岡紬……前進はしたかもだけど、それだけだかんな」


「ふふふ~ん、私はそれで満足なのです! それでは私はひよりんのとこ行ってこよ~、っと! じゃあね~、優ちゃん!」


「……だからそれで呼ぶな、って何度も言ってるだろ」

 ニヤニヤと手を振る長岡紬にため息をつきながら、俺はその後姿を眺める。


 少し歩いた先にある日和の机で、俺の時と同じように何やら楽し気に話し出して……あいつはホント、昔からあんな感じだな。

 あんまりからかうのはやめて欲しいです、後朱莉にたまには会いに来い!




「ひより~ん、優也君と何があったの?」


「……優也様と色々約束しましたわ。色々約束……優也様と仲良くなるために。仲良くなって、日和の事もっと知ってもらって……それから優也様と色々出来たら嬉しいですわ」


「……それが一番だよ、ひよりん!」




 ☆


「ゆ、優也様、今から少し時間ありますか?」

 放課後、結月ちゃん先生のところに行って今日のお菓子(イチゴのクッキー☆)を貰って帰ろうとしていると目の前にスッと現れた日和に声をかけられる。


「それは用事次第かな? お出かけとかだと、ちょっと難しいかもだけど」


「い、いえ、そんなえっちな事ではないですよ! も、もっとおしとやかな事です!」


「ふふっ、お出かけは別にえっちな事じゃないと思うけど」


「え、あ、そうですか、おしとやかへの道は難しいですね……」

 ふわわとした声で少し頭を抱える日和。

 大丈夫だよ、そんなめったで直接的なことじゃない限り、えっち判定は出ないよ。


「そ、そうですか……あ、用事、忘れてました。その、今日優也様としたいことと言うのは、そのお勉強です! えっと、さっきの国語の授業で少しわからないところがありまして、それで国語が得意な優也様に少し教えて貰おうかと……だ、大丈夫ですか、優也様? えっちじゃない、ですよね?」


「うん、大丈夫えっちじゃない。国語の勉強教えて欲しいんだね、良いよ! それじゃあ図書室に行って勉強する?」


「い、いえ教室、教室が良いと思いますわ! 皆さん部活行ったり、お家に帰ったりで……私と優也様の二人きりで、みっちりお勉強が出来ますから……えへへ」

 そう言った日和はもじもじと照れたように笑いながら指をこねこね。

 少し顔を赤くしながら、俺の方をちらちらと上目づかいで見つめてきて。


「……日和、それはちょっとえっちかも」


「ふええ、ほ、本当ですか……おしとやかの道は難しいですわ……そして、そのえっちが出ちゃったので今日はもう帰ります、さようならです優也様……」


「待って、嘘嘘大丈夫。えっちじゃないよ、全然大丈夫! だから一緒に勉強しよ、ちゃんと教えてあげるから」


「……優也様はやっぱりいじわるです、いけずです……お勉強はしっかり教えてくださいね、優也様。お願いしますね、優也様」


「うん、もちろん。それじゃあ、教室行こっか!」


「はい、優也様……にへへ」

 ぷくっと少しだけほっぺを膨らませて、でも嬉しそうにはにかむ日和に俺も首を大きく縦に振って教室に向かう。



「……作者の気持ちなんてわかりませんわ。人が何考えてるか知るなんてすごく難しいことですわ」


「そんな事言わないで考えてみよう! 現代文意外と楽しいよ、それに赤点取ったらめっちゃ怒られるんでしょ?」


「……優也様はいけずです、日和にあんまり優しくないです……でも、優也様がそう言うならもうちょっと頑張れます、頑張ります」


「よし、その意気だ! 頑張れ、日和!」


「優也様がそう言ってくださるなら日和は空でも飛べます、頑張ります……でもやっぱり人の気持ちはそう簡単にはわからないですわ……」

 現代文が苦手でぷしゅーと頭から煙が出そうになっている日和を励ましながら、しばらく二人での勉強会を続けた。



 ☆


「朱莉、俺が来たぞー優也だぞ? 開いてんの、返事がないなら勝手に開けるぞ?」

 ひーひー苦しみながら、それでも何とか国語の課題を終わらせてそのまま分かれて朱莉の家。

 おばさんにいつも通り挨拶して部屋をノックするけど、こっちもいつものように返事がない……俺もいつも通り勝手に入るか。


「おーい、朱莉……って今日もエロゲじゃないんだ」

 部屋に入るとこれまたいつも通りに椅子に座った朱莉がしていたのは、いつもと違うネットゲーム。


「ん、優也か、今日もお疲れ……私だってネットゲームをやりこみたい時期があるんだ……ところで優也、今日なんか来るの遅くなかったか? いつもはもっと早く来るのに、なんで今日はこんなに遅いんだ?」

 俺の声を聞いてくるっと振り向いた朱莉が、ムスッとした表情でだぼだぼの俺のTシャツの袖をくるくると振り回して不機嫌そうに聞いてくる。


「いつも俺のTシャツだよな、お前……あれだよ、普通に友達と色々してたんだ。お前と違って俺は普通に高校生だからな、そう言う事もしますよたまには」


「優也のTシャツはすごくいいから私はこれ以外あんまり着ないぞ。それより用事って何だ? 私より大切なことか?」


「そりゃもちろん。お前とはいつでも会えるし遊べるけど、高校生の時期に友達と色々するのは限られた時間でのなんちゃら、ってやつだからな」


「何だその複雑な答えは……まあいいや、今日もお菓子持ってきてくれてるだろ? 一緒に食べよう、今日のはなんだ?」


「お、お前が一緒に食べようと提案してくるなんて珍しいな。今日はクッキー☆だ、イチゴ味でこだわってるって」


「たまにはいいだろ、たまには! そう言う気分の日なんだ、今日は。優也にも優しくって、そう言う日! そしてクッキーは私も大好き、ちょっと準備するから待ってて」

 ぷーぷーと膨れながら、でもいそいそと部屋の隅から段ボールを持ってきて、「つくえ!」という風に自慢げにドーン、と置く。


「……この段ボール大丈夫? 衛生的に大丈夫?」


「大丈夫だ、私の部屋にあったものだぞ?」


「だから心配なんだけど……まあいいや」

 色々言いたいことはあるけど、でも我慢してクッキー☆を段ボールの上に置いて、二人合わせていただきます。


「ん、やっぱりゆかりちゃんの作るお菓子は美味しい。もっとたくさん食べたいくらいだ」


「ゆかりちゃんじゃなくて結月ちゃん先生、もっと言えば今村先生。たくさん食べたいなら学校来いよ、結月ちゃんも歓迎してお菓子いっぱいくれると思……」


「ヤダ、学校はヤダ」


「……強情な奴め」

 食い気味に否定する朱莉に少し恨み節。

 なんて反応速度だ、学校という言葉に過敏すぎるだろこいつ!


「強情で結構だ、私が学校に行けない理由は色々あるからな。例えば優也が……」


「ん、俺? 俺が何かしたか?」


「……うるさい、何もしてない! 優也のばーかばーか! ラストのクッキー優也にあげるから食べなよ、ばーか!」


「……怒ってんのか優しいのかどっちだよ、ていうかなんで俺は怒られたんだよ。まあいいや、それじゃあラス1いただきます」


「うん、私があげたんだからしっかり味わえばか優也!」


「俺が持ってきたんだけどねぇ……うん、やっぱり美味しい」

 子供のようにバカバカと連呼する朱莉の理由もわからないまま、それでもありがたいので最後の一つを口に放り込む。

 優しい甘さのイチゴの風味が口に広がって、やっぱり先生のお菓子作りは絶品だ、って実感する。


「そうだろ、美味しいだろ!」


「……なんでお前がいばってんだよ、朱莉」



 ☆


「……ところで優也、今日一緒に色々した子ってどんな子なんだ? 男か女か?」

 クッキーを食べ終えていつも通りベッドで漫画を読んでいるとテーブルの朱莉から質問の声が聞こえる。


「珍しいな、そんな事聞くなんて。朱莉には別に関係ないだろ?」


「関係ないけど、関係あるし! 優也と仲いい子、って気になるじゃんやっぱり。その女の子だったら……いないみたいだけど、彼女かもだし」


「なんだよ、お前らしくもない……女の子だよ、クラスメイトの女の子」

 昨日パンツを渡してきた、という情報は伏せて朱莉にそう伝える。

 それ言うといじられそうだし、ややこしくなりそうだし。


「ふーん、そうか、女の子か……優也、私のパンツ見るか?」


「……はぁ?」

 何言ってんだ、こいつ?

 あっけらかんと、さも当然のように……急にどうしたんだよ、パンツ見せるって……今日もトランクスなのか、俺の履いてるのか?


「違うわ、今日は可愛いの履いている! 今日は可愛い女の子パンツ履いてるから……だから優也、私のパンツ見たいかな、って。今日は優也に優しくするって言ったし、だから優也が女の子パンツ見たいなら見せてあげてもいいよ、って。私のパンツ、優也に見せてもいいよ、って」


「……気遣いどうも。でもいらない、お前のパンツは目に毒だし、それに俺はそんなパンツは好きじゃないし」

 Tシャツの端を掴んで、準備万端! という風に言ってきた朱莉にそう答えて、俺はもう一度壁際を向く。この話、日和にもした気がするな、今日2回目。


「むむむ、優也……そい!」


「おわっ……な、何!?」

 壁際を向いたまま漫画を読んでいると急にベッドに大きな衝撃が走り、ぐわんぐわんと大きく揺れる。


「優也、優也……えへへ、優也」


「……な、何だよ、急に」

 振り向くとベッドにダイブしたであろう朱莉が、俺の隣に寝転がってぶかぶかのTシャツの首元で口を隠しながら萌え袖で笑っていて……え、何々急に何!?



 ★★★

 感想や☆やフォローなどしていただけると嬉しいです!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る