第26話 3つのりんごとHB

 ―優也、今日も来なかったな。今日も来てくれなかったな……会いたかったけど、会えなかったな。


 ―本当に私の事嫌いになっちゃったのかな? やっぱり甘える私は優也嫌いなのかな、昔とおなじでやっぱり……ヤダぁ、嫌いになっちゃヤダよ、優也、やだぁ……会いに来てよ、ダメなとこは直すから……優也が好きになってくれるように頑張るから、頑張って直すから……だから会いに来てよ、嫌いにならないでよ……ゆうやぁ……


 ―今日も我慢する。優也のパンツで我慢……えへへ、優也のパンツ私が履いたら優也と私の匂いが混じってすごく嬉しい気分になる。優也と私が一つになってるみたいで、優也と私が大好きしてるみたいで……すごくハッピーになる、嬉しくなる。


「んんっ、あっ、んっ……ゆうや、ゆうや……ゆうやぁ……」

 ―明日は会いに来てよね。絶対絶対会いに来てよね、ゆうや……



 ☆


「お兄、一緒に学校行こ! 私と一緒に学校行こ!」


「ちょっと待てって、冬華! まだ準備できてない!」


「もうお兄遅い! 可愛い妹待たせるな!」

 朝から元気な冬華が玄関前で地団太を踏みながら、俺に向かって文句を言う。


 あの後家に帰って冬華が豊さんと電話をする時間までずっと二人でゲームをしていて。

 お母さんとかお父さんとかにはいつの間にそんなに仲良くなったのよ、とあきれられたけど、なんか二人ともすごく嬉しそうだったな。


「OK,冬華準備できたよ。よし行こうか」


「うん、行くよお兄……えへへ、お兄と一緒に登校っていつぶりかな? 去年は同じ中学通ってたのにほとんど一緒じゃなかったし……うふふふっ、久しぶりにお兄と一緒に登校出来て私は嬉しいよ!」


「あはは、そりゃよかった。俺も冬華と仲良くできて嬉しいよ」


「それは私も! それじゃあお兄行くよ……今日は咲綾がお家来るけど、お兄は私だけのお兄って事、忘れちゃダメだかんね!」

 そう笑顔で言った冬華がビシッと俺に向かって指を差し向けた。



 ☆


「優也様、おはようございます。今日もいい朝ですね」

 冬華とは中学校の前で別れて、そのまま一人で歩いで自分の学校。

 行ってないけど一応朱莉の事報告しようと家庭科室の方に歩いていると廊下の端っこからぴょこっと可愛く顔を出した日和に声をかけられる。


「おはよう、日和。確かに良い朝だね、めっちゃ晴れてる」


「はい、お天道様燦燦でいい気分です……と、ところで優也様、今日の放課後の事は覚えてるでしょうか?」

 今日の放課後と言えば……あ、アップルパイだ!


「はい、正解です。今日の放課後優也様の大好きなアップルパイを作ります……という事でじゃじゃーん、です」

 弾むような声でそう言った日和はカバンの中から何かを取り出す。

 そこから出てきたのは袋に入った二つの赤い甘そうな球体で。


「あ、日和りんご用意してくれたんだ!」


「はい、優也様に喜んで頂けるよう最高級のりんごを用意しました。一つ味見させていただきましたが、蜜がたっぷり甘くてトロトロで本当に美味しかったです。これなら優也様にも満足してもらえると思います……どうでしょうか、優也様」

 二つのりんごを両方のほっぺにぴたっとくっつけて、ふんすふんすと少し自慢げな表情で笑う日和。


 ふふふっ、俺のためにそんな良い物用意してくれたのは嬉しいな……そしてその顔めっちゃ可愛いな。


「日和ありがとう! こんな良いもの用意してくれて俺はすごく嬉しいよ!」


「えへへ、優也様に喜んで頂けて日和も嬉しいですわ……って優也様? どうされたのですかそんなお顔を近づけて、は、恥ずかしいですわ……ひゃうっ!?」

 慌てた様子であわあわする日和に顔を近づけて、そのまま耳にひゅーと息を吹きかける。

 可愛い鳴き声でビクッと身体を震わせた日和の顔が一気に真っ赤に染まって。


「ひあっ、くぅうんっ……どどどどうされましたか優也様!? ななななんですか、どういうことですの優也様!? き、昨日の⋯⋯」


「ふふふっ、日和の顔真っ赤だ。それに熱い……可愛い完熟りんごが3つだね」

 日和のほっぺに手をやってまっすぐその透き通った瞳を見つめる。

 真っ赤な顔は完熟したりんごのようにさらにその赤さを増していき、熱もぐんぐん帯びて行って。

 蜜でトロトロのりんごみたいに蕩けた可愛くふわふわな表情に変わっていって。


「ふええ? あうぅ、どどどどういうことですか……? 優也様、普段はそんな、こんな事……あわわ、ど、どうされましたか、何か、その……そんな見つめないでください、その日和、もう……」


「ふふっ、ただの気分だよ。今日の日和、すごく可愛かったから……今もすごく可愛い。すごく可愛くて、だから……ふふっ早く家庭科室行こ、それ冷蔵庫入れるんでしょ? りんごも蕩けたら食べれないから」


「き、気分、か、可愛い……や、やっぱりいけずですわ優也様は……でも」

 恥ずかしそうに耳まで真っ赤にして震えていた日和がぴとっと身体をくっつける。


「……でも、こういう優也様様も好きですわ。こういう積極的な優也様も好きです……もっと優也様の事好きになってトロトロになってしまいますわ」

 俺の肩に身体を預けた日和が蕩けるような甘い声で幸せそうにそう呟いた。



 ……俺だって好きになっちゃうよ、日和の事。




 ☆


「よーし、それじゃあアップルパイ作るよ! アップルパイは先生の得意料理だからね、大船に乗ったつもりで……あいてっ!?」

 ポーンと胸を張った先生がそのまま身体をテーブルにぶつけて少し悶絶。

 乗ろうとしていた大船、すでに沈没しかけてますけど大丈夫ですか?


 なんやかんやあって放課後、日和と先生と3人でアップルパイづくり。


「えへへ、優也様……今日は日和頑張りますから。楽しみにしてくださいね。そしてもしよければ3つ目のりんごとして日和の事を……す、すみません優也様。少しはしたなかったですわ」

 隣で身体を引っ付けながら恥ずかしそうに顔を覆う日和は、朝の一件もあって今日はなんだか条約締結前みたいに積極的で……あれ今冷静に考えたらすごく恥ずかしいというかナルシスト感あって気持ち悪くて痛い黒歴史的言動だったんですけど、どうにか取り消せませんかね?


「ダメです、日和は嬉しかったんですから。優也様が日和の事、求めてくださったみたいで……なのでもっと求めてもらうためにアップルパイ、頑張りますわ」

 ……まあ、日和も喜んでるしめっちゃ可愛いし今日はこのままでいいか。

 美味しいアップルパイも食べれそうだしね!


「よーし、やる気みたいだね二人とも! それじゃあアップルパイづくりだけど、生地を作るのは面倒だし時間がかかるのでパイシート、用意しました!」


「パイシート? ブラジャーの事ですか?」


「違う、違うよ藤沢さん! 今日はお料理に下着は使いません! パイシートはね、アップルパイとかそう言うパイを作る時に使うシートなの! 普通に売ってるものだし、これがあればすごく便利になるよ! だからブラジャーじゃないです、アップルパイの基礎みたいなものだよ、ものりす!」

 月曜日パンツで今日がブラジャーとかどんな世界観での料理だよ。

 でも、そんな感じでブラジャーの事呼ぶ島があるって聞いたような……乳バンドだっけ?


「もう、黛君ものらないで、ブラジャーの話はもういいの! 今からお料理作るんだから下着の話はNGだよ! パイシートは一旦冷蔵庫に入れてまずはリンゴを切っていこう! アップルパイのりんごはね、皮むかなくていいんだよ!」

 少し怒ったようにぷくぷくしながら、冷蔵庫から日和が持ってきた甘そうなりんごを取り出す。


「りんご用意してくれてありがとね、藤沢さん! という事で芯抜きサクサクしていこうと思うんだけど……二人は包丁を使うときの手はどうすればいいかわかるかな? 家庭科の先生としてこれは大事な復習です!」

 ででーんと胸を張りながらなぜか自慢げにそう言う先生だけど、そんなの小学生の時からさんざん言われてるから知っている。


 包丁を使うときの手はもちろん……

「にゃーさん!」


「ん猫ちゃん猫ちゃん!!」


「……二人とも合ってるけど微妙に違うかも。にゃーさんは招き猫だし、なんで藤沢さんは鶴見中尉の真似……ていうか似てるね、そのものまね」


「はい、お父様が大好きなマンガですので練習しましたから……優也様はどうでしたか? 私の声真似、いかがでしたでしょうか?」


「……めっちゃ似てた」

 日和声帯広すぎだろ、普段のお清楚で透き通った声からは考えられない声だし……どんな声でも出せるんじゃないの、これ!!!




「ところで藤沢さん、藤沢さんはおっぱい何カップあるの? 先生はEカップだけど、藤沢さんも結構大きいよね?」


「ふえっ!? せ、先生? ど、どうされたのですか、急に?」


「……先生、俺もいるんすよ。ていうか普通にセクハラですよ、それ」

 最近の先生なんかやっぱりおかしくない?

 普通に自分の胸のサイズ公開してたし……てか先生やっぱりすごいな!


「いやー、さっきブラジャーの話してたし? 藤沢さんスレンダーなのにマシュマロボディだから気になっちゃって……それに黛君も気になるんじゃないの?」


「……まあ、ちょっとは。少しは気になりますけど」

 日和は着やせするタイプなのかぎゅーって抱き着かれたときには結構むちむちふわふわで胸の感触もぽよぽよ柔らかくて……比較対象が朱莉とかのつるペタ一族だからかもしれないけど、なんだかすごく心地いいし。

 それに男として気にならないってのも嘘になるし。


「ゆ、優也様まで……わ、わかりました。優也様も喜んでくださるなら、日和そのくらいの情報は言わせていただきます」


「いや、俺は別に……」


「大丈夫ですわ、優也様。いずれ優也様にも知っていただくことですから……日和はDカップですわ……す、すりーさいずはその……ぺ、ペロリームと同じ数値ですわ……こ、これでよろしいでしょうか、優也様?」

 少し恥ずかしそうに、でもちょっと嬉しそうな上目づかいで俺のズボンをギュッと握りながらそう言って……ペロリームの数値って何!? ケーキみたいにふわふわって事!?


「おー、H82B86!」


「せ、先生、そんな具体的に……!」


「あ、ごめんつい……じゃあ先生も教えとく! 先生はユレイドルと同じ数値だよ!」

 ……そんな事言われてもわかんないって! 先生ポケモン廃人だったんですか? 



 ★★★

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