第20話 お昼寝幼馴染は履いてない

「優也さん、今日はその……あ、ありがとうございました! すごく嬉しかったです、すごく楽しかったです! それにお揃いのキーホルダーも買えましたし……えへへ、本当に嬉しかったです!」

 夕焼け眩しい5月の空の下、咲綾ちゃんがそう言って嬉しそうにぺこりと頭を下げる。

 咲綾ちゃんの一手一足にカバンについている大きなシナモンロールと今日買った小さなシナモンキーホルダーがふんわり揺れて……ふふふっ、喜んでもらえてるなら良かった!


「俺も楽しかったよ! 今日は一緒に来てくれてありがと、おかげでコラボカフェのグッズまで手に入って大満足だよ!」


「……でもそれは朱莉さんにあげるんですよね? 私と一緒に遊びには行ったけど、でも結局は朱莉さんにあげるんですよね? 朱莉さんのためなんですもんね?」


「いや、それはそうだけどさ、でも咲綾出かけたのは本当にすごく楽し……」


「もう、冗談ですよ優也さん。私も楽しかったし文句ないです! それに私もグッズ貰いましたし……実はこのアニメ、結構見てたりしますから! だからすごく嬉しいんです、全然怒ったりしてませんよ!」

 そう言ってカバンからとりだしたコラボグッズを夕焼けに赤く染まるほっぺの前でちゃりちゃりといたずらに鳴らす。


「あはは、脅かさないでよ咲綾ちゃん」


「えへへ、優也さんの反応面白くてつい……それでは優也さん今日は本当にありがとうございます! またいつか会う日まで……具体的には多分水曜日あたりにお邪魔すると思います! その時も仲良くしてくださいね、優也さん……その時はお兄さん、ですけど!」


「うん、わかってる! それじゃあまた水曜日かな? バイバイ、咲綾ちゃん!」


「はい、サヨナラです優也お兄さん! また遊びましょうね!!!」


「うん、また遊ぼう!!!」

 ぶるんぶるんと大きく手を振る咲綾ちゃんに俺も大きく手を振り返して夕焼けに真っ赤な街の中をテクテクゆっくり歩く。


 今日はちょっとびっくりすることも多かったけど、でも咲綾ちゃんが楽しんでくれたみたいで良かったな……それじゃあ後は朱莉に今日の戦利品渡して家でゆっくりしますか!




「えへへ、えへへ……えへへ」


「どうしたの、咲綾ちゃん? 今日はご機嫌だね~」


「えへへ、お母さん! 聞いてよ、今日お兄さんとデートだったんだけど、お揃いのキーホルダー買ったんだ! それに色々いちゃいちゃ出来たし……えへへ、最高の日曜日だったよ!!!」


「お~、それは良かったね咲綾ちゃん! 咲綾ちゃんは優也君の昔から大好きだもんね~! お母さん的にも優也君なら安心だし、早めにハートキャッチするんだぞ!」


「うん、そうする……そうしたい! 待っててね、優也お兄さん!!!」



 ☆


「おーい、朱莉入っていいか? 返事しないなら勝手に入るぞ?」


「……」

 今日も今日とておばさんに挨拶して朱莉の部屋の前、いつも通りにノックしてもやっぱり返事はなし。

 こいつに挨拶するって言う文化はないのかしらん?


「うへへ、ダメだよ~、優也~」


「……っておいおい。寝てるじゃねえかよ、何やってんだよせっかく来てやったのに」

 ガチャっとドアを開けると、そこにはいつも通りゲームをしている朱莉じゃなくてベッドでぐーすか気持ちよさそうに俺のTシャツで眠っている朱莉が目に入る。

 ほれぼれするように大の字にででーんと身体を大きく広げて、くーくー寝言を言いながら惜しげもなく生足を蹴りだして……せっかく渡しに来てやったのに何寝てんだよ!


「おい、朱莉起きろ。朱莉、朱莉!」


「うへへ、優也こんなとこじゃダメ……もっとちゃんとしたところで……」


「どんな夢見てんだよ……おい起きろ、起きろ朱莉」


「も~、優也ダメだって……優也、ダメそんなとこ……ダメだよ、優也……えへへ、優也……」


「朱莉、起きろ! 俺が来てやったんだぞ、優也だぞ! 起きろ!」


「ううっ、優也そんなのお口はいらない、でも優也が言うなら……うえっ、変な味……でも好き……うへへ、優也……」

 ……本当にこいつどんな夢見てんだよ、こいつは!

 夢の中でそんなに名前呼ばれると、何というかこの前の事も相まって……ちょっと変な気持ちになるじゃん!

 なんかその、言ってる内容も相まって……マジで変な気分になるから早く起きてくれ!!!


「朱莉、朱莉起きろ! 朱莉!」


「ゆうやぁ~……ってあれ? 優也は……って優也だ! 優也~!」

 必死に身体を揺り動かすとキョトンと蕩けた瞳で朱莉が目を覚ます。

 そしてキョロキョロと寂しそうな声で周りを見渡した後、俺にギュッと飛びかかる様に抱き着いてきて。


「……ちょ、おま! だ、抱き着いてくんじゃねえ!」


「えへへ、良いじゃんゆうやぁ~! ゆうやぁ~! ゆうや、優也!」


「朱莉、ストップ! 朱莉!」


「ぬへへ、良いではないか〜! 良いではないか〜⋯⋯優也、ゆうやぁ⋯⋯んちゅ⋯⋯んっ、あっ、んっ⋯⋯」


「お前これ現実! 現実だから……は、離れろ! よいしょ! 起きろ朱莉……うーぱーん!!!」

 まだ寝ぼけた声のまま、俺に身体をぎゅっぎゅと押し当てて甘い声で名前を囁く朱莉を強引に引っぺがして、顔の前でパーンと一発手を叩く。


 その音にビックリしたのか肩をビクッと震わせたあと、朱莉がぱっちりと、今度は完全に目覚めた瞳と薄紅色のほっぺで俺の方を見つめて。

「……あれ、優也? なんでいるの? それに私が優也の……も、もしかして優也私が寝てる間に我慢できずに……そ、そう言うのはちゃんと……」


「お前から抱き着いてきたんだろ、この妖怪寝言マシーンめ! おはよう、朱莉!」


「あ、それはごめん……って妖怪寝言マシーンってなんだ! おはよう優也!」


「はい、良い挨拶、おはようございます! 俺がいる理由はアレだよ、お前に頼まれてただろ、コラボグッズ。あれ貰ってきてやったからそれ渡そうと思ってな……ほら、これ? 朱莉、お前確かこのキャラが好きなんだよな?」

 どこか恥ずかしそうに、でもしっかりとツッコミと挨拶をこなす朱莉にゴソゴソと鞄を漁りながら今日貰ったグッズを渡す。

 途端に朱莉の表情がパッと明るくなる。


「おお、優也ありがとう! 私はこのキャラが大好きなんだ、良く知ってたな!」


「お前がたまに言ってたからな。まあ喜んでもらえたなら良かった」


「うん、ありがとう! ホントありがとう優也……えへへ、嬉しいな! 本当にありがとね、優也!」

 ギューッとコラボグッズを抱きしめながら、嬉しそうな満面の笑みで俺の方を見つめてくる。

 全く、いつもこの笑顔ならもうちょっと可愛いのに……いや、最近の朱莉なんだか可愛いからちょっと困るかも。


「ん、優也なんか失礼なこと考えてる?」


「考えてない、考えてない」


「ホントに、怪しいな~……まあいいけど! ところで優也、これ誰と行ってもらってきたの? 冬華ちゃん?」


「ううん、冬華は誘ったけど来なかった。咲綾ちゃんと一緒にいってきた」


「咲綾ちゃんってあの咲綾ちゃん?」


「うん、あの咲綾ちゃん、浜中咲綾ちゃん。それ貰えた立役者みたいなもんなんだから後でお礼しとけよ。連絡先は持ってるだろ?」

 実は咲綾ちゃんと朱莉は少し仲が良かったりする……と言っても朱莉が引きこもる前の中学生と小学生の時代だけど。

 あの頃は朱莉と冬華も交えてよく4人で遊んだ記憶がある……まあ最近は会ってないんだろうけど。


「もう2年も私会ってないぞ、絶対咲綾ちゃんも忘れてる……けどありがとうは言いたいかな」


「うん、言っといた方が良いぞ」


「うん、言っとく……ところで優也、お礼がしたい。パンツ見せてあげる」


「……なんでそうなるんだよ」

 長岡紬も朱莉もだけどなんで中学の時の同級生は俺がパンツ大好きだと思ってるんだ? 俺そんな事一言も言った覚えないけど。


「まあまあ遠慮するな。美少女の起きたてほやほやパンツだぞ?」


「遠慮とかじゃない、いらない」


「そう言わずに。私が出来るお礼これくらいしかないし……それ!」


「ちょ、バカ見せん……!?」

 そういつも通りにニヤニヤしながら俺のTシャツをバサッとめくりあげた先に会ったものはいつものパンツ……ではなくて色白で平坦なお腹から続く一直線の秘境への禁断コース。


 大胆にあらわにされた鼠径部と内ももの間には小学生のころと変わらない滑らかつるつるな無毛地帯が広がっていて、でも小学生のころとは違ってぷっくりと色づいたそこはしっとり濡れて透明な糸を引いていて……っておいおいおいおいおいおいおい!!!


「朱莉! おま朱莉! パンツ! パンツ履いてない! なにも履いてない!!!」

 履いてねえじゃねえか!!!

 あの時はパンツでシャレになったけど今回はマジでシャレになんない、何やってんだお前……マジでマジで!

 それは! やばい!!!



 ★★★

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