第10話 『妹』の咲綾ちゃんと日和ちゃんは積極的

 ……一緒に行く、って言えば良かったな。

 優也も何があっても気にしない迷惑じゃないって言ってくれたのに……でもやっぱり怖いよ、昔みたいに言われるの怖い。夜じゃないと、お昼は怖いよ。


 みんなが私の事あんな風に言うのが、引きこもった時みたいにあんな風に……「あんな奴やめとけ」とか「地味で大人しいし面白くない」とか「何もできないバカ」とか……そんな事言われたくないもん。


 そんなこと言われて、また失望されて、優也が会いに来てくれなくなったら、優也が私の事本当に……やっぱり行けない、今の私じゃ優也と一緒にお出かけなんて出来ない。

 今の私じゃ、何が何だか分かんない私じゃ優也と一緒の立場なんて無理だ。


「……んっ、優也……」

 履いていた優也のパンツを脱ぐ。

 1日私が履いていたせいで大分私の匂いに染まっちゃってるけど、でもまだ優也の匂いが残っていて、優也がまだ残っていて。


「んっ、優也優也……あんっ、優也、優也……ゆうやぁ……」

 もう私の事、絶対に裏切らないでよね……毎日絶対に会いに来てよね、ゆうやぁ……



 ☆


「お兄さんは最高のお兄さんです……だから私もお兄さんの事、好きです。お兄さんの事、咲綾も好きですよ」

 俺にもたれかかるよに、小さな体を預けるようにしながら。

 温かい体温と少し火照ったとろんとした瞳で俺の方を見つめてそう言って。



 ……え?


「さ、咲綾ちゃんそのそれはどういう……」

 ……ちょっと話が吞み込めないぞ!? 

 藤沢さんとか朱莉が言うなら、わかるけど、でも咲綾ちゃんだし、それにこんな急に……ど、どう言う事!?


「そのまんまの意味ですよ、お兄さん……私も冬華ちゃんもお兄さんの事、大好きですよ。お兄さんは良い人ですから、だから大好きですよ」

 相変わらずとろんとした瞳で俺に寄り掛かりながら。

 熱い息を吐きながら、身体をすり合わせて……こ、これって、その……


「さ、咲綾ちゃん、その俺は……俺は咲綾ちゃんの……」


「……ん? ちょ、ちょっと待ってください! なんか私変な事言ってませんでした!? なんというか、その言葉足らずと言うか、好きなのは本当ですけど、でもその、えっと……」


「さ、咲綾ちゃん?」


「いえ、その好きなのは本当です、私もお兄さんの事好きです、でもそれは冬華ちゃんと同じでお兄ちゃんとして、その兄弟愛的な意味での好きであって、でも私はお兄さんと本当の兄妹じゃないから、だから私の好きは冬華ちゃんより特別というか、でも違くて本当に兄妹的な意味での、でもでもでも私の好きは……」


「ちょ、咲綾ちゃん落ち着いて! 何言ってるかわかんないから、一回落ち着こう、ほら深呼吸深呼吸! すーはーすーはー!」

 あわあわ焦ったようにわちゃわちゃと、聞き取れないような早口でまくる様に赤い顔でいう咲綾ちゃんに取りあえず深呼吸。

 咲綾ちゃん取りあえず落ち着いて落ち着いて!


「でも私はお兄さんの事が……すーはーすーはー」


「よし、Ok,それじゃあ牛乳。咲綾ちゃんの飲みかけだよね、牛乳は飲むと落ち着くから一回飲もう」


「あ、は、はい……んっ、んっ……ぷはっ、ふー」

 テーブルの上にあった飲みかけの牛乳を渡すと、咲綾ちゃんはそれをコクコク美味しそうに喉を鳴らしながら飲む。


「……んんっ! ご、ごめんなさい!」

 しばらくして落ち着いたのか、俺にもたれかかるようにしていた身体を少し離して、ぺこぺこ申し訳なさそうに頭を下げる。


「あはは、謝らなくて大丈夫だよ咲綾ちゃん。もう落ち着いた、大丈夫?」


「は、はい、落ち着きました……そ、そのお兄さんに話したかったのは、その、えっと、あの……ふ、冬華ちゃんと一緒で私もお兄さんの事を本当のお兄ちゃんみたいに思ってる、ってことです!」

 まだ少し焦りがあるけど、でもさっきよりは落ち着いて。

 赤く染まった温かいほっぺで俺の方を見つめてそう言って。


「あ、そう言う事か、そう言う事ね。ごめんね、急に言われたからちょっとびっくりしちゃった」


「は、はい、そう言う事です、そう言う事なのでお兄さんは謝らないで大丈夫です……そ、その私一人っ子で、しかもお父さんもお母さんも、ずっと働いてて家にいないことが多かったんです」


「うん」


「……そ、それで私ずっとお兄ちゃんという存在に憧れてて、いつも一緒に居てくれて、私の寂しい時にずっと一緒で、私と遊んでくれて、私に優しくて甘やかしてくれて……そんなお兄ちゃんがずっと欲しかったんです……んっ」

 そう言うと咲綾ちゃんは一口牛乳を飲んで、また俺の方に身体を近づけてきて。

 ふわっと柔らかい匂いとか温度を近くに感じて。


「……だから、私お兄さんが一緒に居てくれて嬉しいんです。お兄さんは私に優しくて、寂しい時も一緒に居てくれて、一緒に遊んでくれて、冬華ちゃんがいなくても私と二人の時でも、今みたいにいつもと同じように接してくれて……理想なんです、私の。だからお兄さんの事を本当のお兄ちゃんみたいに思ってます」

 恥ずかしそうに途切れ途切れの言葉だけど、でも伝わって。


「あの、だから私もお兄さんの事が好きなんです……そ、その冬華ちゃんと一緒で、お兄さんの事を本当のお兄ちゃんだと思ってて、それで、だからお兄さんの事が好きで……冬華ちゃんと同じで、お兄さんの事が大好きなんです、お兄ちゃんとして、それ以上にも……」

 熱い顔から出てくるクルクルと回るような言葉は少し聞き取りづらいけど、でもなんだか嬉しいことを言ってくれているのだけはわかる。


「えっと、そのお兄さん、だからその私の好きはでも、その……」


「ふふっ、ありがと、咲綾ちゃん。俺も咲綾ちゃんの事本当の妹みたいに思ってるよ。咲綾ちゃんはよく家に来てくれるし、それに……冬華より咲綾ちゃんみたいな可愛い子が本当の妹だったらいいな、って思ったことも何回もあるくらいに」


「……そんなのずるいです、急にずるいですよ、お兄さん! 急にそんなこと言わないでください!」


「あはは、ごめんね。でも思ってるのは本当だよ、咲綾ちゃんも俺の本当の妹みたいに思ってるのはホント。だからこれからも遠慮しなくていいよ」


「……そ、それじゃあ、聞きたいことあるので、聞いて、いいですか?」


「うん、どうぞどうぞ」


「……私の事、す、好きですか? その、えっと……い、妹としてでいいので、でもやっぱり女の……い、いえ妹として! 妹として私の事は、そのあの……す、好きですか? 咲綾の事、好きですか? い、妹として!」


「ふふっ、それはもちろん。咲綾ちゃんの事ももう一人の妹だと思ってるし、大好きだよ。もちろん、冬華の事もね……あ、でもこれは冬華に内緒ね、絶対怒られるしキモがられるから」


「冬華ちゃんにはも、もちろん内緒です、お兄さんとのヒミツまた増えちゃいましたね……そ、その私もお兄さんの事、大好きです……あ、えっとお兄ちゃんとして大好きです! だ、だから、その……私たち兄妹としてなら、えっと、その……りょ、両想い、デスね……あ、あはは」

 もじもじと震えながら、そう言っててれた顔ではにかむ。

 ふふっ、なんか変な感じだけど、でも咲綾ちゃんが俺の事そんなに信用してくれてるなんて嬉しいな。


「は、はい。お兄さんは優しくてカッコいいので。だからお兄ちゃんとして、私は……お兄さん、さっき遠慮しなくていい、って言いましたよね?」


「うん、遠慮なんていらないよ。変なことは言わないで欲しいけど」


「い、言いませんよそんな事……それじゃあ、お兄さんに甘えていいですか? 本当の兄妹みたいに甘えても良いですか……そいっ」

 俺の返事も聞かぬまま、小さい掛け声とともに俺の膝の上にちょこんと座って、頭を胸に摺り寄せてきて……!?


「さ、咲綾ちゃん? 今度はどうしたの?」


「……私の読んだ漫画では妹がお兄ちゃんにこんな風に甘えてました。妹が膝の上に乗って、お兄ちゃんが妹の頭を撫でたり、後ろからギュッとしたり……私もそう言う事、やって、みたいです……お兄さんと咲綾でやってみたいんです、私たち両想い兄妹、ですから……両想い、なんですから」

 顔は見えないけど、耳まで真っ赤にしてっぽつぽつとそう言って……悪いけど、これはちょっと……


「普通の兄妹はこんなことしないよ、ましてや高校生にもなって。それに俺たち本当の兄妹じゃないからこれはもっとまずい」


「……さっき本当の妹って言ってくれたじゃないですか。それに私はまだ中学生です、大丈夫です……あと、まずくもないです。咲綾的には大丈夫です」


「中学生でもやらないよ。それに俺的には不味いの、だからダメ、降りて、咲綾ちゃん。見つかったらやばいし、俺怒っちちゃうかもよ、怒られるかもよ?」


「……むー……お兄さんはケチです」

 素直に膝からは降りてくれたけど、でも不満そうに口をとんがらせてそっぽを向いて……膝の上は色々まずいからダメなんだよ、男的にも!


「……そ、それなら、ここでならいいですか? 膝の上じゃなくて、お兄さんの隣でなら、頭なでなでしてくれたり、ギュってしてくれますか?」


「……ハグはダメだけど、頭撫でるくらいなら」


「……そ、それじゃあ、お願いします⋯⋯咲綾の頭、撫でて欲しいです」

 そう小さく言って、俺の方に頭を近づけてきて。

 期待するように目を閉じて、りんごみたいになった小さな頭をくいっと俺の方に寄せて……しょうがないなぁ。


「まったく、冬華にもしたことないよ……よしよし、咲綾ちゃん」


「えへへ、お兄さん、気持ちいいです……えへへ、嬉しいです、私が初めてなんですね、お兄さんの」


「変な言い方しないの」


「……えへへ」

 咲綾のサラサラの髪を撫でると、蕩けたような嬉しそうな可愛い笑みを浮かべてくれて……楽しんでくれてるならそれが一番かな?

 咲綾ちゃんが嬉しそうならそれが一番……距離が近すぎるのも考え物だけど。




「えへへ、お兄さん……えへへ……」


「もう、咲綾ちゃん近すぎだよ、ちょっと離れて……そうだ、咲綾ちゃん日曜日空いてる?」


「ぬへへ、良いじゃないですか、両想いなん……って日曜日? 日曜日ですか、空いてると思いますよ!」


「あ、良かった。それじゃあ一緒にお出かけしない? ちょっと行きたいところがあるんだけど、ついて来てくれたら嬉しいな」


「……もちろんです! お兄さんについてきます、お兄さんと一緒にお出かけ、嬉しいですから……も、もちろん冬華ちゃんには内緒、ですよね?」


「うん、怒られちゃうかもだからね。だから内密に……時間とかは後で連絡するね」


「はい、わかりました……ふふっ、またお兄さんと咲綾の二人だけのヒミツ、増えちゃいますね!」



 ……ホントはお出かけに誘われたい、って軽い気持ちでこの話始めたんだけど。

 でもお兄さんに大好きって言えたし、お兄さんも大好きって言ってくれて、両想いで、それに頭撫でてくれて、当初の目的も……大成功です、妹としては大成功だ!


 だから今度のお出かけでは一人の女の子として……浜中咲綾としてお兄さんに大好きになってもらいたいです。

 男と女として……黛優也さんと浜中咲綾として両想いになりたいです!




 ☆


「……という事で朱莉はまああんま変わんないです、外の世界に興味はあるけど、出るのはヤダ、みたいな感じですね」


「う~ん、そっかぁ……難儀だね、西塚さんも」

 次の日の朝、いつも通り先生に朱莉の事を報告。

 結局、朱莉からは一緒に行くって連絡は来てないし、あんまり報告することもないんだけど。


「それじゃあ、失礼します」


「うん、授業頑張ろうね~!」

 先生の言葉を受けて、俺は家庭科室を出る。


 ……授業の前に俺は片づけなきゃいけないことがあるんだよな。

 カバンの中にはパンツの入った紙袋、昨日考えた怒る時の言葉。


 これをみんなには見つからないように、藤沢さんと二人で……

「優也様! 優也さまー!」


「ぶへっ!?」

 そんな事を考えながら歩いていると、背中に強い衝撃が走る。


「……藤沢さん?」


「うふふっ、優也様、待ちきれなくていっちゃいました……昨日はお楽しみでしたか、優也様? 今日は私とお楽しみ、しましょうね?」

 振り向くと藤沢さんが何やら不穏なことを言いながら、俺の腰にギュッと抱き着いていて……ここ廊下だから、みんな見てるよ藤沢さん!!!



 ★★★

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