朱莉の過去 前編 優也の価値
《朱莉視点の話です》
「朱莉ちゃん、お前もっとしっかり話せよ、何いっとるかわからんで!」
「え、あ、その……ご、ごめんね」
「もう、そんなすぐ謝るな!」
「……はい」
私は昔から人と話すのが苦手で、人見知りで全然友達が出来なくて。
すぐにどもってしまって、周りの人を困らせてしまって。
「もー、かんちゃん朱莉困らすなって! そんなきつく言ったら朱莉もびびって声出せなくなるやん!」
「げー、優ちゃんだ~! いつもタイミングいいな、優ちゃんは……我はさらばなり~! 優ちゃんにはかなわんから~!」
「全く、いつもいつも……大丈夫、朱莉? 何もされなかった?」
「う、うん……アリガト優也、いつもごめんね。ホント私のせいでいつも迷惑かけて、優也には……ごめんね、いつも優也には迷惑かけちゃってる」
「大丈夫、大丈夫! 俺は朱莉の親友で家も隣だから! だから全然迷惑じゃないよ、朱莉が困ってる限りずっと俺が守るし駆けつける! だから朱莉は気にするな!」
でも小学校に上がった時に隣に引っ越してきた優也は私の事をずっと守ってくれて、私の事を助けてくれて。
私がどれだけ迷惑かけても、どれだけ私のせいで大変の事に巻き込まれても嫌な顔一つせずにいつもニコニコ私のそばで笑ってくれていて。
「ありがと、優也……本当にありがとう、優也」
「もう、そんな湿っぽくしないでよ……ほら、朱莉今日も一緒に遊ぼ? もしよかったら朱莉のしたいことしよ! 今日は冬華もいないし二人で遊ぼう!」
「……うん! 私も優也と一緒に遊びたい! そ、それじゃあ私の家でオセロして、それからそれから……!」
「うんうん、朱莉のしたいこと何でもしようね!」
そんな優しくて、私の事を一番みたいに考えてくれる優也の事を。
優也は友達が多くて、色々な人と仲よくなれるタイプで、人見知りで友達も少ない私とは正反対なタイプだったけど……でも、私のそばにずっといてくれて、すごく仲良く遊んでくれて、いつも守ってくれる優也の事を。
「……ん、朱莉? 俺の顔に何かついてる?」
「うんん、何でもないよ優也……ふふふっ、優也……ぎゅーっ」
「……ちょ、あ、朱莉!?」
「えへへ、優也……うふふっ、優也温かい、気持ちいい……優也、好き……」
そんな優也の事が大好きになって、ずっとずっと一緒に居たいと思って。
このままずっと優也と一緒に居て、お付き合いして、結婚して子供が出来て……そんな未来を夢描いて、その未来をずっとずっと信じていた……中学2年生のあの時が来るまでは。
優也が私の事を「いらない、邪魔だ」というまでは。
☆
「あれ、優也どこだろう? 一緒に帰るって約束したのに……どこ、優也?」
夏休み前日、1学期最後の学校の日。
優也や優也繋がりで仲良くなった紬ちゃんと一緒に遊ぶ予定が結構入った楽しい楽しい夏休みの前日……紬ちゃんは優也と仲もいいし、もしかしたら恋のライバルになるかもしれない人だけど、でも可愛いし、一緒に居て楽しいし大好きな友達!
長ったらしい校長先生と担任の先生の話を聞いて、その後他の先生の用事をこなして教室に戻ると、一緒に帰ると約束していた優也がいなくなっていた。
普段なら私の事待っててくれるのに……今日は一緒に帰って冬華ちゃんと3人で遊ぼう、って話してたのに。
「優也、優也……あ、優也……っておっとっと」
しばらくキョロキョロと優也を探していると、廊下の袋小路で優也が男の子の友達と話しているのを見つけた……優也の男の子の友達、ちょっと怖いから苦手。なんか私の事睨んでるようなこともあったし、なんかあたりきついし少し苦手……でも優也と帰りたいからここでちょっと聞き耳はたてちゃいます。
「……で、優也あの話ちゃんと話考えたか? あの夏休みに遊ぶ、って話。みんなで海に行く、って話……連れて行く女の子、もう決めたか? 一緒に行く女の子、ちゃんと決めたか?」
ピタッと耳を壁につけて少し待っていると、優也の友達の声が聞こえる。
そっか、優也たち海に行くんだ、しかも女の子と……私聞いてないんだけど、もしかして私以外に好きな女の子がいて、その子と……
「うん、もう決めたよ。朱莉と紬、この二人と一緒にいくつもり……まだ誘ってないけど」
「……ふふっ」
……でもそんな心配をよそに、優也は元気よく私と紬ちゃんの名前を言ってくれて……えへへ、嬉しいな、優也と一緒に海行けるなんて……やっぱり優也好き。
少し心配しちゃったけど、でも優也が誘ってくれるみたいで良かった……こうなると水着とかも新しいの買わなきゃだね!
多分紬ちゃんと新しいの買いに行くけど、紬ちゃんは私と違ってえっちな雰囲気でおっぱいも大きいからセクシー系の水着選ぶと思うし、私は可愛い系かな! 優也に喜んでもらえるように可愛い系の水着、ちゃんと選ばなきゃ! えへへ、優也はどんな水着が好きかな? どんな水着なら優也が私の……えへへ、優也、優也!
「……またあの二人? たまには違う人も連れて来いよ、マジでセンスないよなお前。そう言うとこだけは、マジでお前ダメだと思うわ。みんな言ってるけど、マジでそれ、お前の最大の欠点だわ」
そんな事を考えながら、むんむん暑い夏の廊下にさらに身体を熱くしていると、呆れたような優也の友達の不機嫌そうな声が聞こえる。
「……どういうことだよ、それ? 何の話?」
「だってさ、あの二人控えめに行っても変な二人だぜ? 特に西塚さんなんて暗いし地味だしコミュ障だし、全然友達いないし。優也以外と話すとき以外いっつもどもって何言ってるかわかんないし、とろいし仕事も運動も何も出来ないし。それに俺とか満とかでちょっといじってあげてもへらへら笑うだけで何も面白くないし」
「……何が言いたいんだよ?」
「だから、お前と西塚さんじゃ釣り合ってない、って言ってるんだ……言っとくけどお前のためだぜ? お前は友達も多いし明るいから、あんな地味で暗い女の子じゃなくてもっといい女の子誘った方が良いぞ? あんな奴と一緒に居たらお前まで誤解されてしまう。お前はあんな陰キャじゃないのに、そんな風に誤解されるの嫌だろ? みんなそう言ってるぜ、お前は西塚さんと関わらない方が良いって」
優也の事をたしなめるようにその男の子はそう言って。
私の事をけなしながら、優也にはもっといい人がいるって……暗いのは自分でもわかってるけど、みんなそんな風に思ってたの? 私の事そんなダメな子、って、優也の迷惑って、私がいると優也が誤解されるって……
「あのな、朱莉はそんな……!」
「それに長岡さんもだ。お前って長岡さんが好きなんだっけ?」
「……なんだよ、それは今関係ないだろ! 確かに俺は紬の事が好きだけど、紬の事が大好きだけど! でもそれは今関係なくて、今は朱莉の話だ! 朱莉はなお前達が思ってるよりもずっと……!」
……え、優也今なんて言った?
なんだか頭がくらくらしそうで、目の前が白くなってきたけど、でも一瞬現実に引き戻される言葉が……え、優也は紬ちゃんが好きなの? 優也は紬ちゃんが好きで、それで私は……え? え?
「あ、やっぱりそうか。優也は長岡さんが好きなのか……それもセンスないって言うか何というか……やっぱりお前、そう言うとこダメダメだよな。お前の欠点だと思うわ、優也の女の子の見る目の無さ」
「……どういうことだよ! 今そんな話してないだろ! 今は朱莉が……」
「そんな話してたじゃないか、そんなカリカリするなよ事実言ってるだけなんだからさ、むしろ感謝してほしいくらいだぜ、お前の価値下げないようにしてるんだから……で、さっきの話だけど長岡さんって彼氏いるらしいぜ、他の学校に。しかもとっかえひっかえ飽きたら捨ててるみたいだし……とんでもない悪女でビッチだぜ、長岡さんは! そんな子に引っかかるなんて、お前は本当に見る目ないよな!」
「……何言ってんだよ、お前! 紬はそんな奴じゃない! あのな、俺の好きな紬はそんなことしてない! だって紬は、あいつはいつも俺たちと……!」
「はいはい、弁明ご苦労様。恋は盲目、って言葉知ってるか? それだよ、それ。だって男といっぱい遊んでないとあんなこなれたエロい雰囲気出せないだろうし、それに他のやつらも言ってるし……お前の意見なんかより、こっちの意見の方が信用できるんじゃね? こっちの方が世論じゃね?」
「……そんな不確定な情報に、噂に踊らされるなよ! 紬はそんな女の子じゃない! 紬はな、確かにそんな雰囲気だけど、でも本当は……」
「おーおー、騙されてる奴の言葉は怖いねぇ、聞く意味がないねぇ、盲目だから! お前ひとりの意見で、みんなの意見が覆ると思うか? そんなお前だけの意見に俺は騙されない……つまり西塚さんは陰キャだし、長岡さんはクソビッチだ。これは事実、そうだろ? だからお前は女の子の見る目がない、って言ってんだ! 絶対にこんな女の子よりいい子いるぜ? あんな陰キャとビッチよりさ? 委員長とか、そういう子の方が絶対に良いって!!!」
「……」
心底ばかにしたような声に優也が黙る。
何も言えないように口を噤んで……違う、紬ちゃんはそんな子じゃない! もっと純粋で、男の子と付き合ったことなんてなくて……でも、優也は紬ちゃんの事好きだから、これ言ったら優也が紬ちゃんと……ううっ、どうしよう、どうしよう?
もし優也がこの人の噂信じたら紬ちゃんから手を引いて、それで優也と私は一緒に……でも優也に私は迷惑になるから……ど、どうしたらいいの? 私は一体、どうしたら……私がいない方が……でもそれでも優也は……
そんな風に私が白い視界の中考えている間にも二人の会話は続く。
「なあ、何黙ってんだよ優也? 核心突かれてびっくりしたか? やっぱりそうだよな、あの二人絶対にお前とは合わないからな! あんな二人じゃお前の価値も下がるからな!」
「……」
「おい、なんか言えよ! お前もそう思ってるんだろ、西塚さんの事邪魔でいらないとか長岡さんの事クソビッチとか思って接してんだろ!!! 二人とも迷惑なんだろ、本当は!!!」
「……わかった。俺の気持ち、言うよお前に」
「おー、ようやく言うか! 早く聞かせろ、お前の本音!!!」
男の人は大きく声を出しながら優也の事を威嚇して。
ビックリするような大きな声で優也を𠮟りつけるように……やっぱり私は優也の邪魔なのかな? やっぱり優也に私は迷惑で、だからいない方が……で、でも優也の気持ちが、これで優也の気持ち聞けたら……
「……確かに紬はえっちだ。いろんな男を誘うような服着てるし、それで男も群がるから確かに、その、えっと……び、ビッチだ。ビッチでやばい奴だ」
……え?
「おー、やっぱりそうだよな! それでそれで?」
「朱莉も暗くて地味で、いつもドジばっかりで、俺以外と話せなくて、何かトラブルあったらすぐに俺に助けを求めて、俺の事ずっと頼りっぱなしで……そ、その正直迷惑だ……迷惑で邪魔だと思ってる。朱莉の事はその……む、昔からじゃ……邪魔だと思って、いなければいい……なんて、思ってる」
その男の方をしっかりと見ながら優也はそう言って。
まっすぐと力強い目線でそう言って本音を漏らすようにそう言って。
……そっか。優也も私の事そんな風に思ってたんだ、優也も私の事邪魔だって、いらないって、嫌いだって、いなければいいって……やっぱり優也もそんな風に思ってたんだ。
「……!!!」
……ごめんね、優也私のせいで。
私のせいで優也の青春邪魔しちゃってたんだね、優也の迷惑も気持ちも考えずに私は優也に付きまとって……ごめんね、本当にごめんね。
ずっと優也が優しくしてくれるし、優也が一緒に居てくれるから勘違いしてたけど、そりゃそうだもんね……優也みたいな人がこんな地味で暗い女の子、好きになるわけないもんね。ずっと迷惑だと、邪魔だと思ってたんだね、私なんかに付きまとわれて……ごめんね、優也、私なんかがずっと……
……優也の事ずっと好きだったのに、ずっと一緒に居たかったのに、でも優也は……私なんていない方が良いのかな?
優也は私を見たらもし邪魔でも迷惑でも昔からの惰性で仲良くしてくれるかもだけど……でも優也にそんな気を遣わせたくないし、悲しくなるだけだし、優也には優也の……やっぱり私はいらない子だ。誰にも必要とされない、この世に居てはいけない存在なんだ。
「あれ、朱莉ちゃんどうしたの? なんで泣いてる……まさか優也君と何かあった?」
「あ、紬ちゃん……あのね……私、いない方が良いのかな? 私ってこの世に存在しない方が良いのかな……いるだけで迷惑になるし、邪魔になるし……私ってやっぱり邪魔な存在なのかな?」
「……え、どうしたの朱莉ちゃん? 何、急に何!?」
「ごめんね、紬ちゃんも私なんかと……ありがと、紬ちゃん。大好きだったよ、楽しかったよ、紬ちゃんと遊べて……じゃあね、バイバイ!」
「ちょ、朱莉ちゃん!? 朱莉ちゃん!?」
何か言っている紬ちゃんに背を向けて、涙を拭きながら廊下を一気に走る。
……もうこのまま死んじゃったほうが良いのかな?
……でもそうしたら優也が無理にでも悲しまないといけなくなるし、嬉しいはずなのに仲がいいと周りが思ってたから……それはダメだ、また優也の迷惑になる。
それなら私は……部屋から一歩も出ないようにしよう。
「やっぱり優也もそう思ってるよな! それなら他の女の子に……」
「……なんて言うと思ったか? 俺があんなふうに言うと思ったか、あの二人を悪く言うと思ったか? こう言えば満足か、お前は! こんな感じで満足か!!!」
「……は?」
「今言ったことも、お前が朱莉と紬に行った悪口も全部嘘っぱちだ、そんな事実どこにもない、俺はそんな風に思ったことない! 朱莉も紬もそんな女の子じゃないし、迷惑とか邪魔とかなんて一度も思ったことない!!! あんな可愛くて魅力的なのに邪魔なんて思うかよ!!!」
★★★
結局過去編。優也君の話もします、また後で。
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