第28話 ぽやぽやぽかぽか日和ちゃん
「……ふえ……外暗い、部屋も……寝ちゃってた、私?」
何だか幸せだったような夢から目覚めると暗い現実、真っ暗な部屋。
スマホを見るともう夜の10時……どれだけ寝ちゃってたんだろう、私? というかこんな時間だともう優也……
「くちゅ……濡れてる、びしょびしょ……寝ながらシちゃってた、もしかして?」
優也が、と思って立ち上がろうとすると脚の間に冷たい感覚。
指をやってみるとひんやり色々なところがぐっしょりおもらししたみたいに濡れていて……これ寝ながらしちゃってるな、絶対。
思い返してみるとそんな夢だった気がするもん……優也と一緒に大好きするそんな夢……やっぱり優也に会いたい。こんな時間だけどやっぱり優也に会いたい。
今すぐ窓から飛び出してそしてそのまま優也のベッドにダイブして、それでそれで優也と一緒に……
「ゆう……ああ、でも……」
でもこんな時間じゃ優也に迷惑、だよね。
この前夜に出かけた時も優也なんだか怒ってたし、竹やりでつんつんするのも嫌いだからやめろ、って言ってたし……こんな時間じゃもう絶対、ダメだよね。
優也に嫌われちゃって本当にもう私と……ダメダメ、そんなの絶対にヤダ。
絶対にヤダもん、優也がまた私の事大嫌いに……そんなの絶対に嫌だから。
それに優也今、誰かと話してるみたいだし……だから今はダメ、きっと明日は優也は私に会いに来てくれるから。
絶対に明日は会いに来てくれるもん、だって優也私の事大切言ってくれたもん、大切な幼馴染だって、大切な人だって……だから絶対に会いに来てくれるもん。
「優也好きだよ、大好きだよ……ずっと見てるよ……だから明日は会いに来てね」
月明かり差す窓越しに見える優也のシルエットに思いをはせて、そのままもう一度ベッドにもぐる。
夢の中だったらいつだって会えるもん、優也にどんな時でも夢の中なら会えるから……でも本物にもやっぱり会いたい。本物の優也にも会いたいよ……
「えへへ、優也様……えへへ、なんだか恥ずかしいですわ……でもすごく嬉しくて幸せな気分ですわ」
「そっか……俺だってそんな気分だよ、ありがと、日和」
「もう、優也様……ふふふっ、優也様。日和は今幸せです……優也様に包まれて」
☆
「お兄、今日も学校一緒に行く……ってもう準備してる。お兄にしては珍しい」
朝、ドタバタと階段を降りてきた冬華が俺の姿を見てクルリと大きな目をまん丸にする。
今日は咲綾ちゃんはいなくて冬華一人、にしてもその反応は酷くない?
「だってお兄大体私より準備するの遅いし……あ、もしかして私に合わせてくれた感じ? 私と一緒に学校に行くからお兄もそれに合わせて早く準備してくれた感じ?」
「まあそんな感じかな。ほら、冬華遅くならないうちに早く行くぞ」
「えへへ、何だか愛されてるみたいで嬉しいですな……うん、お兄早く行こ! 今日もお兄と一緒に登校出来て私は嬉しいです! ほらほらお兄、レッツゴー!」
「ドンキ……ふふっ、バカなことやってないで早く行くよ」
「お兄が勝手にやったんでしょ! もうもう! お兄お兄!」
少し不服そうに、でも楽しそうに笑う冬華にわき腹をつんつんつつかれながら、ガチャっとドアを開けてそのまま明るい外の世界へ。
チラッと隣の家の朱莉の部屋を見上げると、今日も電気がついてなくて……あれ、本当にどうしたんだろう?
「お兄お兄……お兄? どうしたの、朱莉姉の事気になるの? ほぼ毎日会ってるでしょ、お兄?」
「いや、そう言えば今週は色々あって会ってないような……今日会いに行ってやるか、久しぶりに」
なんか本当に色々あって今週朱莉に会ってないや、まだ一回も。
気持ちも完全に落ち着いたし、そろそろ会いに行かないと先生も心配するだろうし、朱莉もちょっと心配してるかもだし。
「ふーん、そっか。でも今日は朱莉姉に会いに行っちゃダメだよ」
「なんで?」
「今日は家族でご飯行く、ってお母さん朝言ってたでしょ、聞いてなかったの? それで、その前にお兄と私の夏服とか色々買い物にも行くから今日は学校終わったらすぐ帰ってきて、ってお母さん言ってたよ!」
「ああ、そんな事言ってたような……」
朝は基本的にボーっとしてることが多いから全然話聞いてないんだけど、確かにお母さんそんな事言ってたな。
という事は今日も朱莉とは会えない感じか……まあ一週間くらいどうにでもなるだろ、これでもし学校に来てくれるような気分になればもうけもんだし!
「もー、しっかりしてよね、お兄! という事で今日も朱莉姉に会わないでまっすぐ帰ってくること! そして私の服を選ぶこと! 私を可愛く着飾ってね!」
「OK、了解。でも服は自分で選んだほうが良いんじゃない?」
「ううん、豊君とのデート用だからお兄にも選んでほしい! ほら、男の人の意見も聞きたいしね、良いでしょお兄?」
「そう言う事ね。わかった、それならいいよ」
「えへへ、ありがとお兄! それじゃあ早く学校行こう、みんなが待ってるよ!」
そう言って少し早足で歩き出す冬華の後ろを俺はゆっくり追いかける。
今日も普段通りのいい朝だ、天気も良くていい気分!
「もうお兄、私の隣! お兄は私のなんだから隣歩け!」
「あはは、ごめんごめん。もうちょっとゆっくり歩いてよ、冬華」
「……それもそうだね。その方がお兄との時間も増えるし!」
☆
今日も今日とて冬華と中学校で別れ、自分の学校へ。
「ゆ、ゆうやさまおはようございます。いい朝でふね……ふえっ」
「大丈夫、日和? なんか調子悪くない?」
今日はマジで報告することがないので普通に教室に向かおうとしていると、なんだかいつもより顔の赤い日和に声をかけられる。
それにちょっとふらふら危ないし、顔もとろとろだし……昨日夜遅くまでしすぎたかな? いや、でも昨日は11時には終わって寝たはずだし……
「えへへ、大丈夫ですよ、優也様。日和はいつも通りげんきですわ、全然大丈夫、優也様にあえて嬉しいだけですわ……ぷへっ」
「それは嬉しいけど、でもなんか調子悪そうだし。本当に大丈夫、風邪とか引いてない?」
「だいりょーぶですよ、優也様。日和は元気です、今日も優也様と一緒に過ごして、夜も一緒に……うきゃっ」
真っ赤な顔でぽやぽや湯気を発した日和が、ふらふら俺の方に寄ってきたと思えば、そのまま俺のお腹にぺこっと倒れこんできて。
少し荒めの息をハァハァと吐きながらキュッと俺の方に倒れてきて。
「日和大丈夫じゃないでしょ? 保健室行こ、かなり調子悪いでしょ?」
「ぬへへ、優也様のお腹、優也様の匂い……大丈夫れす、日和は今日も優也様と一緒、何ですから……あれれ? 優也様が二人います? なんだかすごく幸せ空間です、優也様が二人……えへへ、日和は今、幸せ、優也様に囲まれ……ぺくっ」
「幻覚まで見えてるし、絶対大丈夫じゃないじゃん。日和、ちょっと失礼」
「えへへ、優也様が両方から日和を……ふええ、何ですか優也様? その、おでこ触るのは失礼ではないですけど、ちょっと恥ずかしいです……優しくしてくださいね、優也様」
ふにゃふにゃ気合の抜ける声でそう言ってうーん、と目を閉じて可愛くおでこをちょこんと突き出してくる日和のおでこに手を当てる……って熱っ!?
「ふへ~、優也様どうされました? なんでそんなにおろろいておられますか?」
「日和、すごい熱! 良く学校これたね、めっちゃ熱いよ風邪ひいてるよこれ!
ほら、早く保健室行くよ!」
「ぬふふ、大丈夫ですわ、優也様……日和は優也様にかこ、まれれ、幸せな、だけ……ふへっ、だからだいりょうふでふ!」
「もう呂律も回ってないし! 早く保健室……ああ、もうこのままでいいや! ごめんね、日和このまま移動するよ!」
「ん~ん~……優也様、ゆうやさま……んにゅにゅ……」
おでこからすごい熱を発しながら、でもぷえぷえと笑顔で俺の方を見てくる日和は離れてくれそうにないので、仕方なく身体に引っ付けたまま保健室に向かう。
「えへへ、優也様と繋がってますわ……つながったまま……えへへ、ぷわー」
「日和、変な事言っちゃダメ、安静にして。元気になったら何でもしてあげるから、だから今は保健室、早く行くよ」
「みゅー……」
変な鳴き声をあげながら、みゅーと俺の身体にへばりついた日和を抱えて、保健室に急ぐことにした。
「ほーん、やっぱり優ちゃんは……ふふっ、そっか」
☆
「風邪だ、酷い風邪。もう今日は帰んな、親がいないなら私が病院連れてってやるから、早く病院いけ。風邪薬とか色々貰ってこい、安静にしろ」
何とかかんとか急いで保健室に到着すると、俺の身体に引っ付く日和の顔をちらっと見ただけで先生がこの一言。
そうだよね、やっぱり風邪だよね……診察してないけど絶対にそうだよね。
「ふええ、ゆうやさま? どうされましたか? ここは?」
「日和、保健室。日和風邪ひいちゃったみたいだからベッドで寝てなさいだって。今日はお父様家にいるの?」
「ぴえっ……やです、優也様と離れたくないです……一緒が良いです」
俺の胸でキョロキョロと周りを見渡した日和にそう言うと、悲しそうな顔でもう一度ギュッと俺に抱き着く。
確かに身体が弱ってるときほど誰かと一緒に居たい、みたいなのはあるよね……でも今は日和が一大事、ぽかぽか身体全体が熱を帯びてる日和の事が一番大事!
「ダメだよ、日和今は離れて。風が悪化して日和がもっと苦しむの嫌だから……だから今はベッドで安静しときなさい。お父様いるんだったらお父様を呼んで」
「……優也様……でも優也様と会えなくなるのもっとやですから従いますわ。優也様の言う通り、ベッドでおねむします……お父様は今日もいますわ」
「OK、ありがと日和。それじゃあベッドまでは一緒に行こ、一人で歩くのしんどいでしょ?」
「はい、ふらふらですから……そのまま優也様と一緒におねむしたいですけど……」
「だーめ、うつっちゃったら大変だし、それに今から授業だし。だから日和はゆっくり一人でお父様が来るまで待ってて」
「みゅー……わかりました、優也様」
へぐっと頭を俺に押し付けながら、真っ赤な熱い身体の日和をそう納得させて一緒にベッドの方へ。
「ううっ、優也様……くーくー」
コトンとベッドに寝かしてあげるとそのまま小さく可愛い寝息をすぐに立て始めて……やっぱりすごくしんどかったんだな、日和。
あとは先生に頼んでお父様に連絡を……
「……なーに神聖な保健室でいちゃついとんじゃお前たちは」
「……別にいちゃついてませんよ」
連絡してもらおう、と思ったときに背中の方から鈍い声が聞こえる。
振り向くとジト目の先生がこっちを睨んでいて……やだなあ、そんな事してませんよ。
「どう考えてもいちゃついてたやろがい、お前達……保健室はやり部屋ちゃうぞ! そんなことしてたら猛省服着せるぞ、お前達」
「そんなこと思ってませんよ。ていうか、なんすか猛省服って?」
「その名の通り反省を促す服だ、たまに旦那にSMプレイの時に着せられる。黒い衣装で、それで胸の部分が……」
「あ、良いです、やっぱり聞かなかったことにします。それじゃあ、日和の事頼みますよ、先生! 日和のお父様に連絡、お願いします!」
なんかよからぬことを口走りそうになっていた先生の言葉を止めて、そのまま保健室から出て行く。
日和大丈夫かな、大分熱凄かったけど……取りあえずゆっくり安静にして欲しいな!!!
「ん~、優也様……ちゅぱちゅぱ……」
「……もうちょっと寝かしといてやるか」
「えへへ、優ちゃんおめっとさん! おめっとさん、優ちゃん!」
「……何、長岡紬? どうしたの?」
「いやー、ね! 海斗君も颯君もそう思うでしょ!」
『おう優也は羨ましい! すごい!』
「……何の話?」
☆
「ねえ、お兄早く! 早くこっち来て、私の服選んで!」
「わかってるって、選んであげるって!」
学校を終えて、朱莉の家に寄らずにそのまま帰って冬華と母さんと服屋(父さんは後から合流)
日和からは大分ましになりました、というLIMEが来たし、安心しながら買い物とご飯が楽しめるね!
「ねえお兄、これどっちが私に似合うと思う? どっちの方が可愛い?」
「う~ん、どっちも可愛いけど左かな? 左の方が冬華に似合うと思うよ、可愛くなるし豊さんも喜んでくれると思う」
「もー、お兄ったら! そんな可愛いって言わないでよ、私の事好きすぎかよ……えへへ、じゃあこっちにするね! えへへ、久しぶりにお兄と買い物、楽しいね!」
そう言ってニコッと可愛いスマイル。
確かに冬華との買い物久しぶりだけど、これも悪くないな!
「……また来ない……」
「……優也が悪いんだからね⋯⋯優也が、悪いんだから⋯⋯」
★★★
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