第12話 プロフェッショナル パンツの流儀〜高校生・黛優也〜

「嬉しいですわ、優也様……こんな積極的に、二人きりになれる場所まで……感激です、優也様。私は覚悟も準備も出来ております……改めて、日和の事を美味しく召し上がってください、優也様」

 二人きりになった家庭科室で、身体に絡みついた藤沢さんが、熱い息で、甘い声で耳元で囁く。

 熱くなった身体は妖しい熱気を帯びて、ゆらゆらと揺れる碧い瞳にふわふわ身体が思うように動かなくて。


「……藤沢さん、そう言う事じゃなくて! その、これ返したかったの!」

 ……少し雰囲気に吞み込まれそうになったけど、でも何とか踏ん張ってカバンの中から袋に入ったパンツを取り出す。


「もう、優也様! こういう時はムードを大事にしてください、だから日和を……って何ですか、これ? もしかして私に……嬉しいですわ、優也様! 日和にこんなプレゼントを……感激です、優也様! あ、開けていいでしょうか、優也様?」


「うん、良いよ。開けて」


「ゆ、優也様! 私本当にうれし……あえ?」

 怒ったような顔から一転、俺から袋を受け取って嬉しそうに顔を綻ばせてさっさと袋を開けた藤沢さんだけど、中身を見てその顔が困惑に戻る。


「……な、何でしょうか? これ昨日の……」

 目まぐるしく表情を変えた藤沢さんがおずおずと俺に聞いてくる。


「うん、昨日の。これ、君のでしょ? だから返そうと思って……あと何もしてないからね!」


「だ、大丈夫ですわ優也様。このパンツは優也様に差し上げるつもりだったのです、だから返していただかなくて結構ですわ。むしろ優也様に受け取ってほしいです……運命である私がいない時でも日和の事、近くに感じて欲しいですから。我慢でない時にはこれで日和の事を想って満足していただきたいですから」


「いや、大丈夫大丈夫! パンツを貰うなんておかしいし、これは返す! それに、俺は別に……」


「……優也様はこのパンツは嫌いでしたか? 満足できなかったとおっしゃってましたし……そ、それでは今履いてるのを差し上げます! 昨日の夜から優也様の事を考えてとろとろになった日和の脱ぎたてほかほかのパンツを……」


「ストーーーップ!!! ストップ、止まれ止まれ! いらないから、俺はパンツいらないから! だからストップ脱ごうとしないで! 俺は別に生パンツは好きじゃないから!!!」

 思いついたようにスカートの中に手を入れて、パンツに手をかける藤沢さんを慌てて止める。何してんの、話がまたややこしくなってるよ!


「……何故ですか、優也様? 殿方はパンツが大好きと聞きました……今日のパンツは黒あみあみの紐のパンツですわ。八木に選んで頂いた殿方が喜ぶパンツですわ……このパンツでも満足していただけませんか?」


「……う、うん! そう言う問題じゃないから!」

 ……なんだそのエロいパンツは!

 実物見てないけど言葉聞いてるだけですごいじゃん、絶対エロエロじゃん……で、でも今はそう言う問題じゃない、そう言う事じゃないの!


「……優也様、何故ですか? 殿方はみんなパンツが大好きと言ってましたのに……優也様は嫌いなのですか? それとも生の身体を味わえなければ満足できない……優也様やはり日和と一緒にとろとろに……優也様今すぐ……!」


「はーい、ストップそれ以上はダメ! あとその男はみんなパンツが好きっての誰に言われた? 誰に吹き込まれた?」


「……教えませんわ、シークレットですわ、ヒミツですわ! 自分ですわ、自分で考えましたわ!」


「……長岡紬か? 藤沢さん、長岡紬に聞いたのか?」


「お、教えませんわ! ヒ、ヒミツですわ、ノーコメントですわ! ししししりませんわ、そんな事! いじわる優也様は好きじゃないですわ、そんな事聞く優也様は酷いですわ!」


「そっか、長岡紬か……あんにゃろ」

 余計な事しかしないな、あのパンツ大好きビッチ女の子! 

 最近朱莉にも会いに来てないし……後で絶対怒ってやる、長岡紬相手でも怒ってやる……でも今はこっちの話!


「ねえ、藤沢さん、ちょっと話聞いてくれる?」


「……つーんですわ」


「藤沢さん?」


「つーんですわ……いじわる優也様は好きじゃないです、名前を呼んでくれない優也様も好きじゃないですわ……そんないじわるな人の話は聞きませんわ」


「……ハァ……日和、ちょっとだけ話聞いてくれる?」


「何でしょうか優也様! 優也様、日和は優也様の話なんでも聞きます、聞かせてください優也様!」

 エサを欲しがる犬みたいに、俺が名前を呼んだと同時にはふはふ嬉しそうに目を輝かせる。

 ちょっと怖いし、あれだけど今だったら話ちゃんと聞いてくれそうだ。


「あ、あのさ、ひひ日和。日和は好きなものとかある?」


「優也様」


「……そ、そっか、ありがと……で、でも俺以外がいいな……ほ、ほら食べ物とかで好きなものってある?」

 ……不意打ちで言われると結構効くな、これ!

 わかってたけど、でもそんなまっすぐな目で嬉しそうに言われると……その、可愛いし照れちゃうし、聞いたの俺だけどずるいよそれは!


「あ、食べ物ですか……す、好きな食べ物も優也様、ってのはダメでしょうか?」


「……俺は食べ物じゃないよ?」


「でも日和の事美味しく味わってくださるって……」


「そんな事言ってないよ、俺は。それにその言い方だと食べる側じゃん」


「日和の事食べてくださるんですか、優也様! 優也様の口からも聞けて……日和はすごく嬉しいです! 優也様日和を……」


「だぁぁー、そう言う意味じゃない! 言葉のあややじゃん、トラップじゃん、そう言う意味じゃなから脱いじゃダメ! もう真面目に答えてよふじ……日和!」

 ハァハァと荒い息で服を脱ごうとする藤沢さんを止めて、少し大きな声で叫ぶ。

 その答えはダメだよ、何が君をそんなに駆り立ててるの? 運命って何の事なの本当に!?


「きゅ、急にそんな大きな声で名前……きゅんきゅんしちゃいます、いろんなところが……優也様、私は大まじめです、だからとろとろな私を……」


「ダメだよ、ダメだって! 今はそう言う話じゃないの、そう言う話はもっとちゃんとしたところで……と、取りあえず俺の質問に答えて! まじめに、真剣に!」


「優也様はやっぱりいけずです……日和は春巻きが好きです。具だくさんで美味しい春巻きが好きです……でも一番好きなのは優也様です」

 顔を紅潮させて、とろんと蕩けた物欲しげな上目づかいで俺の方を見ながら甘い息遣いでそう言って。


 汗ばんだ身体にピッタリと張り付いた服は体のラインを強調していて、そこからちらりと妖艶に光る鎖骨が、くぼみが、我慢できないように少し開いた真っ赤な口内が、小さく整った歯が、ごくりと飲み込むとろとろの喉が……


「……そ、そっか春巻きが好きなのか! そ、それじゃあ春巻きの食品サンプルは好き? 食べられない食品サンプルは好き?」

 ……あっぶねぇ、思わず流されるところだった!

 ダメだダメだ、ちゃんと理性保たないと! 藤沢さん流石にちょっと可愛すぎだよ、エロ過ぎだよ……耐えろ耐えろ、今じゃないんだ!


「ゆ、優也さまぁ……しょ、食品サンプルは好きじゃありませんわ。食べれませんもの、本物じゃないですから……だから優也様、私も本物の優也様を……」


「そ、そうだよね! 食品サンプルの春巻きは好きじゃないよね! だ、だからその、えっと……それと一緒! それと一緒なんだよ、パンツもね!」

 ……そんな悲し気におねだりするような表所もずるい!

 やばいってもう……やばいってもう!


 そんな俺を惑わす魅惑の表情七変化を見せる藤沢さんの顔は今度は困惑の表情に変わって……今の顔でその顔はえろえろ破壊力抜群! 耐えろ耐えろ俺の理性!

「ど、どう言う事ですの優也様……優也様はパンツを食べたいという事ですか? もし優也様が食べたいとおっしゃるなら食べさせてあげますよ……てんぷらかしゃぶしゃぶかどちらが……」


「ちちち違う! そ、そう言う事じゃない、そう言う事じゃないの! その、本物じゃないとダメって事! パンツも本物じゃないとダメって事!」


「……だからどういうことですの、優也様? 日和のパンツは本物です、本物の脱ぎたてほやほやパンツですよ……はぐらかさないでください優也様、日和は本当に……」


「そうじゃない、そうじゃない……俺はね、パンツは女の子が履いて本物になると思ってるの。人が履くことでパンツは本物になるって思ってるの」


「……?」

 どこか泣きそうな顔でキョトンと首を傾げる藤沢さんをまっすぐ……直視は奇美医師からちょっと目線の端にとらえながらジョブズする。


「パンツってのは女の子が履かないとダメなんだ、履いている時にパンツは本物になるんだ。確かに女の子が履いたパンツ、脱ぎたてのパンツ、それはすごく価値がある。それも素晴らしいと俺は思う」


「で、では日和のパンツも……」


「でも、ダメなんだ。女の子が脱いだパンツは、女の子から離れたパンツはもう死んでるんだ、生きてないんだ。女の子が履くことでパンツは生きる、そしてその価値を最大限に高める、本物になる……パンツってのは履いてないとダメなんだよ、履かないパンツはただの屍なんだ、布切れなんだ。パンツは女の子が履くことによってはじめてパンツに昇華するんだ、履くことでパンツはその価値を高めるんだ」


「……そ、それなら今パンツを見せればいいですの? 私の履いているパンツを見せれば……優也様が望むなら今すぐ……」


「待って、そうでもない。だからスカートめくらないで、それ見たらホントに……こほん。そ、その、見せるのも違うと思うんだ」

 あわあわとギュッとスカートのすそを握る藤沢さんを止めるながら、何とか本音を押し殺して続きを話す。


「パンツってのは本来は人に見せるものじゃないからさ。パンツってのは隠れてるものだから、見えないものだから……見えないからこそ価値を発揮するんだ、本物になるんだ」


「……つまり見たいという事ですよね、優也様? だから日和が……」


「待って、ストップダメまくらないで! 俺が言いたいのはパンツってのは、だと思うんだ」


「……わかんないですわ。優也様の言ってることよくわかんないですわ!」


「うん、実は……こほん。つまり俺が言おうとしてることは、パンツを積極的に見せられてもそれはダメ、って事だと思う! 女の子の方から積極的に『見ろや!』って感じで見せてくるパンツより、風に吹かれて意識外から見えるパンツとか、何かの拍子にチラッと見えてしまうパンツとか……そう言うチラリズムと言うか、意識してないパンツの方が俺は良いと思うんだ。パンツは見せるものじゃない、隠れてるものだから……だから意識外のチラリズムが一番パンツの価値を高める【本物】だと思うんだ。パンツ以外にもえっちな事すべて、それが一番だと思うんだ」


「……?」

 ……なんか自分でも何言ってるかよくわかんなくなってきたけど、困惑する藤沢さんの気持ちが痛いほどわかるけど。

 まず何の話でこんな話してるのかもよくわかんなくなってきたけど……でもそう言う事だから! だから、その……パンツは受け取れません!


「……優也様の言ってることわかるようでよくわかんないです……そ、その取りあえずですが優也様は私のパンツは嫌い、ってことですか? 積極的なパンツはいらないし邪魔だ、ってことですか?」


「いや、嫌いまでとは言ってないけど……その、あんまりパンツとか渡したり、そのえっと……えっちな誘いというか? そ、そう言うのも自重はして欲しいな、って思ってる感じ! だから、そのえっとね……」


「……わかりました。つまりその……優也様は私の事、嫌いってことですか?」


「……え?」

 涙を大きな瞳にいっぱいに溜めて、溢れんばかりの泣きそうな声で藤沢さんがそう言った。



 ★★★

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