第18話 吸収スキルのランク
「もしよければ、琴美と呼んでください!」
「じゃあ」と坂本琴美が手を振った時、ちょうど昼休憩の終了を告げる予鈴が鳴る。
浅岡と坂本兄が知り合いみたいだし、どっちも坂本になっちゃうので区別する意味でも名前で呼んだ方が分かりやすいか。
彼女も区別をつけるという意味合いで名前で呼んで欲しいと言ったのだろう。
「じゃあ、放課後」
「うん。歩きながらでいい。一つだけ聞いておくよ」
「何だ?」
「君のことだ。父親に正体がバレてるだろ」
「ぐ……ご名答」
「丁度良かったんじゃないか? 『次』とピラーが関わるのなら君の父にも協力を仰ぐべきだ」
「浅岡がいれば別に」
「手続き的なことをするにしても未成年だと限界があるんだよ。帰る前にどこまで君の父親に話をしたのか教えてもらえるか?」
「全部」
「君の母親のことも?」
「うん」
「分かった。なら、君の父も交えて話をした方が良さそうだね」
「父さんは休みだったと言ってたから、今日なら自宅にいるかも」
元々父は今晩起きていれれば話をしよう、とか言ってたな。
すぐに父にメッセージを送ると、彼からも浅岡と喋りたいと考えていたらしく渡りに船と即返信が来た。
そんなわけで放課後は浅岡に家へ来てもらうことになったのだ。
◇◇◇
玄関のところでちょうどこちらを振り向いた日本人形みたいな着物姿の女の人と目が合ってしまう。
誰……この人。まさか、父の愛人?
いやいや、まさか母が仕事のうちに白昼堂々と何てことはないはずだ。
年のころは20代半ばくらいだろうか。
閑静な住宅街で着物姿となれば、非常に目立つ。誰かが見ていればすぐに「滝さんのお宅に」と噂になる。
……まあ、あの父とどうこうってのはなさそうだ。
ああ見えてセールスウーマンなのかも。変な壺を買わされてないだろな、父よ。
会釈をし、彼女とすれ違う。
「……あなたが」
「え?」
彼女が何か言ったような気がしたけど、まあいいか。
向こうも立ち止まろうとはしていないようだし。それくらいなら直接見なくても気配で分かる。
「ただいまー」
妹はまだらしい。
父はソファーでだらけていた。さっきの着物姿の女の人は愛人じゃあないことが確定だな。
さすがにこの姿で愛人と会っていたとは考えられない。
「おかえり、蓮夜」
「たぶんあと30分くらいで浅岡が来るから」
了解とばかりに寝そべったままぶらりと手をあげる父。
これがピラーではシャキッとしているんだから、実際見るまで信じられなかったよ。
浅岡がやって来たら、父が車を出すからと外に出る。
「なんで車?」と思っていたら浅岡が「家族のことを考えてじゃないの?」と呆れたように言われ、ハッとなった。
確かに確かに。
「よお、マスター。奥の部屋空いてる?」
「空いてますよ」
てな感じで落ち着いた喫茶店のようなところに入る。
奥の部屋とやらは地下にあり、個室になっていた。これなら誰かに会話を聞かれることもないだろう。
少し狭いのが難点だが、隠れ家ぽくてこれはこれで悪くない。
「浅岡くん。このたびはうちの馬鹿息子の世話をしてくれてありがとう」
深々と父が頭を下げる。
対する浅岡は「いえいえ」と恐縮したように会釈をした。
「お世話になりました」
俺も礼を言ったら、二人に笑われる。
な、なんだよ。
「もう一人が浅岡くんと聞いてなるほど、と膝を打った。君も能力者だったんだね」
「はい。フェイクセンスというスキルを持っています。戦闘能力は皆無ですが」
「あの影が浅岡くんか。姿を消したりと蓮夜のサポートを?」
「いえ。蓮夜。君の父に吸収スキルのことは伝えていないのかい?」
「昨日は『過去の未来』のことが大半で……」
「分かった」と頷いた浅岡がこれまでのことを説明し始める。
「ご存知のことと思いますが、蓮夜のスキルは『吸収』です。これがまたとんでもスキルだったんです」
「ソロで55階を突破するんだ。A……いやSランクにも匹敵するスキルと見ている。これがFランクというのも不可解だ」
「僕も同じ見解です。まずは吸収スキルについてどのような能力なのか説明いたします」
「ありがとう。浅岡くん」
俺、俺のスキルだよね。俺が説明した方がいいんじゃないかと思ったが、敢えて黙っておくとしよう。
浅岡が喋りたがっているしね。ふふん。
「吸収スキルはモンスターのフェイタルポイントという弱点が見えます。そこを突くと一撃で倒せるだけでなく、相手の力を吸収します」
「とんでもねえな。どんなモンスターも当たれば一撃か」
「力の吸収は文字通りです。レベルアップでの能力アップとは根本から異なります。モンスターのステータスの25パーセントを吸収します。更にモンスターのステータスが蓮夜より高い場合はモンスターのステータスの数値までステータスアップします」
「……無茶苦茶だ」
父がコーヒーに入れようとしていた角砂糖を落とす。
「それだけじゃありません。モンスターの持つスキルをも吸収します。今のところモンスターのスキルを保持できる数が5までと決まってます。新しく吸収したモンスタースキルが既存に上書きされる形です。上書きされたくないスキルはロック可能」
「てことは姿と音を消していたのもモンスタースキルか」
「はい。蓮夜の場合は各種魔法スキルのように一人で色んなことができます。5つまでの制約がありますが」
「……想像以上にやべえな。蓮夜。昨日も聞いたが、本当にいいんだな。本来なら俺が何とかすべきなんだが、すまん」
「うん?」
突然話を振られてついていけない。
「お前の進む道は血生臭い探索者でいいんだな。ギルドの事務とかの仕事をするという道もある」
「救いたい。母さんを。俺なら救える可能性があるのなら、全力で挑みたい」
真っ直ぐ父を見つめ、ゆっくりと頷く。
過去の未来から舞い戻ったのは家族を救うため。
救うと言えば何だかカッコいいけど、これは俺自身の幸せのため。自分本位の気持ちから来ているもので、献身的とかそういうものでは決してない。
自分の欲望と幸福を満たすため。人のためにという高尚な気持ちではないと言い切れる。
だからこそ、やれる。
俗物たる俺にとってこれほど分かりやすいことはない。
だから、縋る。
「浅岡。これからも頼む」
「乗りかかった船だって言ったろ。改めて言わなくても問題ない」
「父さん。父さんも協力して欲しい」
「当たり前だ。俺もお前と共に行くぞ。だが、今すぐじゃない」
父と一緒のパーティか。楽しいかも。
「君が喋るより僕がまとめた方が早い。君の父と今後のことについて意見のすり合わせがしたい」
「うん」
頷くと浅岡がタブレットをテーブルの上に置く。
「まずこれまで通り、隠せるうちは君の正体を隠しておきたい」
「俺も同意見だ」
浅岡の意見に即父が同意する。
「母さんと涼香に心配をかけたくないしね」
「母さんと涼香に知られても、俺が母さんを説得する。気になっていることがある。恐らく浅岡くんも同じだろう」
「ランク問題かな?」
「お、蓮夜も分かっているじゃないか。そこが引っかかる。変な圧がかかったら目標達成に支障が出る」
過去の未来で「原初の塔・死」へ挑んでいる時にも思ったことだ。
吸収スキルがFランクなんてとんでもない。誰も到達したことがない階層まで行くことができたんだぞ。
アジア最強のパーティが「四人」で挑んで100階のところを、300階まで行った。
戦いの相性というものもあるので、一概にどっちが上かということは決められないけど、いくらなんでもFランクじゃない。
吸収スキルがFランクと判定されたのには何か裏がある、と勘繰られても仕方ない状況だ。
「何か裏がある」のなら、警戒するに越したことはない。というのが、父の意見だろう。
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