第51話 殴り込む準備だ
「う、うーん」
プスプスと頭から煙が上がりそうだ。
こ、こんな時は。
「浅岡……まとめて……頼む」
危険はないと判断し、ログハウスの窓を少し開けて浅岡とも通信していた。
彼は二頭身の影を出して俺たちの話を聞き、琴美と情報共有していたのだ。
俺の願いに影は器用に腕を組み「仕方ないね」と言いつつも解説してくれる。
「僕たちから見て別世界……「シャングラ」は地球よりも好戦的で他の世界……今回の場合は地球を取り込もう画策している」
「そこは理解した」
「シャングラは90パーセントの領域を支配する帝国とその他に別れている。ラージャナさんの国パールトは世界喰いの被害にあいシャングラで帝国への抵抗活動をしている」
「う、うん」
「ここからが僕たちの話になるんだけど、ここまではいいかな?」
「もちろんさ!」
こら、そこでため息をつく動きをするんじゃない。本当に芸達者だな、浅岡の影。
「地球がシャングラの法則に書き換えられる前に原初の塔全てを消滅させれば僕たちの勝利だ。ただし、一時的に、だね」
「おう?」
「原初の塔を消滅させても、帝国が再び僕たちの世界に楔を打ち込んで来たらまた原初の塔が生まれるだろ。だったら、元を断たないとだ」
「確かに。あ、ああ。それでシャングラに乗り込もうって話をしていたんだな」
「分からずに聞いていたのかい……。原初の塔を全て消滅させた瞬間にラージャナさんたちの力を借り、向こうの世界と繋ぐ。そして、帝国の世界浸食のシステムを破壊する」
「おお。完全勝利だな。うんうん」
「本当に分かっているのかい……。地球で言うならアメリカより巨大な国相手に戦うんだよ。それなら、原初の塔が出て来るたびに潰した方が楽だと思うんだけどね。僕としては」
「その時に俺たちが戦えるか分からないじゃないか。あと、その世界を繋ぐってのはいつでも閉じることができるのかな?」
「そこも聞いてなかったのかい。閉じることは可能。だけど一度閉じると再び原初の塔が出現し消滅させるまで不可能。更に、閉じなくても二年で自動的に閉じてしまう。元々歪んでいたものを維持しているだけだからね」
さすが浅岡。何とか理解が進んだぞ。
仕組みはまるで分からないけど、原初の塔を放置しておくと地球がシャングラに取り込まれるみたいな状態になってしまう。
直接帝国とやらが地球に襲い掛かればいいんじゃね、と思うのだけど、法則とやらが邪魔をして出て来れないんだってさ。
シャングラ内での支配領域によって原初の塔へ与えることのできる影響度も変わり、帝国は実体が進出できないものの人類に囁くくらいはできるらしい。
この辺の線引きは全く分からない。
ともあれ、俺たちを邪魔してきた組織Xは帝国と繋がっていて、シャングラに地球が取り込まれた後の地位やら何やらを約束されていたのではないか?
もしくはテクノロジーやらスキルやらを供与されていて原初の塔のクリアを阻むようになったのかも。
その場合、組織Xは帝国も知らず、彼らの真の目的も知らない道化か。
こっちの方が可能性が高そうだな。組織Xとコンタクトを取る気は毛頭ないから、知ることもないだろう。
「一つ疑問なのだけど、繋がった場合、俺たちがシャングラに生身の体で乗り込むことなんてできるの?」
「可能です。それが原初の塔のリスクです。地球に直接進出できないこともリスクの一つです」
俺の質問にラージャナが即答する。
「クリアされると一方的にシャングラに乗り込まれる、ってことだと、結構大きなリスクだな」
「ですが、通常『原初の塔』をクリアするにはモンスターが溢れる世界であったり、あなた方の習得したスキルを元々使える世界でないと非常に困難です」
「更に帝国がちょっかいをかけて、人類が一枚岩になることを妨害してくるんだもんな」
「一方的に侵略された人類に協力を要請することは虫のいい話だと分かっています。ですが、どうか」
ラージャナの懇願に対し、俺の腹は決っているが、みんなはどうなんだろう?
口火をきったのは父だ。
「日下さんを始め、探索者のレベルアップをしないとだな」
「幸い、ボスが倒せるかどうかで悩む必要はなく、僕たちのタイミングでピラー全消滅に持っていけますね」
父の発言に浅岡が続く。
うんうん。原初の塔・真実にはボスがいない。ラージャナの好きなタイミングでクリアにすることができる。
残りの原初の塔は先に俺たちで消滅させて……五本首の竜がトラウマだけど……。
「蓮夜くん。モテモテになるネ。ぱわーれべりんぐ。得意技だネ」
「先輩! 自分もレベル上げに協力します! お任せください!」
紬がにいいっと笑い、いつの間にかログハウスから出てきていた琴美は拳をぎゅっと握りしめてやる気を見せる。
聞くまでも無かった。
ここまで一緒に来た仲間たちならそう言うと思ったよ!
「よっし! 300階を下るのは億劫だけど、先にトルコと……ええと、どこだっけ」
「エジプトだヨ。ダーリン」
「そう。エジプト!」
「その前にちゃんと宿題を終わらせろよ」
父よ。この期に及んで宿題とか。紬も「やーい、やーい」とはやし立てるんじゃない。
「窓から外へ出ることができます」
ラージャナがそんなことをのたまい、腕を振ると外へ続く窓が開く。
「じゃあ。飛び降りるか! 琴美!」
「はい! お任せを!」
「ダーリン。私もしがみつくー」
「ちょ、おま。父さんと浅岡と一緒にログハウスの中にいろって」
後ろから抱き着く琴美に対抗するかのように、前から抱き着いてきやがった。
そのままよろけるように窓から外へ。
真っ逆さまに落ちていくがふわりと体が浮く。琴美の重力だ。
「よおおっし。このまま海まで行こうぜ!」
エイミングを発動!
待っていろ。残りの原初の塔たちよ。
この時俺は、帰りを待っている米軍のことなどすっかり忘れていたのだった。
第一部完
第二部、、、異次元へ殴り込み……。
一旦ここで区切りとなります。第二部開始は未定になっております。申し訳ありません!
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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ピラー・リベンジワールド~最強スキル「吸収」で死の運命を覆し家族全員を救い完全勝利するまで~ うみ @Umi12345
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