第20話 浅岡レベリング
帰宅後、さすがに授業中睡眠だけでは足りなかったらしく、風呂に入ったら強烈な眠気が襲って来て泥のように眠ってしまう。
妹に「お兄ちゃんー」と起こされ、のろのろと準備をという体たらく。
ボーっとしてたらあっという間に昼になり、インスタントピラーに挑んでいた。
「父さん。仕事は?」
「知らなかったのか。明日から遠征だ」
「まさか翌日に行動を共にするとは思ってなかったよ」
「俺が浅岡くんに頼んだんだ。お前は……そうだな。ひたすら、狩れ」
「……はいよ」
俺も土日は遠征だと浅岡から聞いている。
学校が終わってから行ける範囲には適切なインスタントピラーが無くてさ。
50階を越えるであろうインスタントピラーなんてなかなか出現しない。
となると既存でクリアされていない高層インスタントピラーに挑むのがよいと浅岡の言葉である。
そんなわけで近場のインスタントピラーにやってきたわけだが、浅岡が待っていて遅れて父までやって来た。
このインスタントピラーは高さからして10階にも満たないくらいかな。
「滝さんにどこに挑むんだと聞かれてね。予想階層は8から10だと伝えたら、僕のレベルを上げた方がいいと。それで付き合ってくれることになったんだよ」
「父さんが浅岡を護ってくれるというわけかな」
「そういうこと。僕の場合、非戦闘系スキルだからレベルがあがってもステータスは1しかあがらないはずだ」
「1でも大きいって。一般の人はオール1が平均だからな」
「別に身体能力を向上させる気はなかったんだけど。ステータスがあがるとスキルの性能があがるかもって滝さんの勧めでさ。そんなわけで頼むよ」
「任せろ。ガンガン狩る。父さん。浅岡のこと、任せるよ」
グッと親指を上げた父がニヤリと笑う。
その笑み、すげえ似合ってない。
壁の色は薄い赤。となると一階はゴブリンか。
一週間前にゴブリンに殺されかけたのが遠い昔のことのようだ。
「蓮夜。パーティ登録をしたか」
「問題ないです。滝さん」
いくら俺でもパーティ登録を忘れるなんてことはない。
パーティを組めばモンスターを倒した時の経験値を分け合うことができるのだ。ただし、一定の距離以内にいること、とか細かい制約がある。
ピラーの外で待っていてもらうのが一番安全なのだが、さすがにそれではレベルを上げることができないのだ。
そもそもレベルって何だよ、という話だけど、ゲーム的な要素が組みこまれているピラーならではか。
俺一人だと見逃しやミスで浅岡に攻撃が行ってしまうことがあるかもしれない。それを父がカバーしてくれるとなればこちらとしては願ったり叶ったり。
ちなみに父とはパーティを組んでいない。浅岡のレベルを上げるに父をパーティに加えたら効率が落ちるからな。
「蓮夜。一応姿を消しておくか?」
「心配ありません。エントリーされているのは滝さん個人と影兎だけです」
「なら問題ないか。行け、蓮夜。馬車馬のように働け」
「はいはい」
言われなくともやりますとも。
レッツ、パワーレベリング。
ゴブリンの群れ発見!
『スキル「エイミング」を発動しました』
投げナイフを連続で投擲し、全てがゴブリンらのフェイタルポイントに突き刺さる。
接敵し、数秒立たぬうちに都合6体のゴブリンらが光の粒と化す。
「実際に見ると凄まじいね。蓮夜。やっぱり、吸収によるステータスアップは君本人のみだね」
「そっか。残念」
もしかしたらという思いはあったが、モンスターの能力を吸収できるのは俺だけみたいだ。
ガンガン階層を進んで行く。
お次はレッドキャップ4体か。手数が多く厄介な相手だったが、今となっては俺と速度が違い過ぎる。
レッドキャップが弓を放つ前ににじり寄り、フェイタルポイントを切り裂く。返す刀でもう一体。
くるりと反転し右、左のナイフで残りを仕留める。
9階がボスでゴブリンサムライという刀を持ったゴブリンだった。
こいつと初めて戦った時は投擲したナイフを見事に刀で弾き飛ばしたり、接近しようにも俺よりリーチの長い刀で切り伏せられたりと大変だったよなあ。
最後は肉を切らせて右胸にあるフェイタルポイントを突き刺し倒したんだっけ。
ステータスアップの恩恵は大きく、技術の差を圧倒的なスピードでねじ伏せる。
「ふう……レベルは上がった?」
「ありがとう。おかげで7まで上がったよ」
そんなこんなでこの日のインスタントピラーも無事クリアして帰路につく。
◇◇◇
やって参りました。土曜日です。
現存する高層インスタントピラーの二本がここ恐山付近にある。ツインタワーとか呼ばれていたりして、一本が出来てからもう7年くらい経過しているとか聞く。
もう一本は2~3年前だったっけ? 浅岡から聞いたけど、忘れた。
俺は7年物の方に挑む予定だ。予想される階層は60~70階と高さも十分。
もう一方のインスタントピラーの予想階層は50~55と富士樹海のインスタントピラーと同じくらい。こちらには父の所属するギルド「屠龍」が挑むんだって。
遠征ってここだったのかよ、って話だけど、今回はクリア目的じゃないと父が言っていた。
ここは富士樹海と違って観光地化されていなくて、来るまでが中々大変だったんだ。父に送ってもらうわけにもいかないし、タクシーを走らせ近くまで来てからは徒歩だったよ。
屠龍はヘリだってさ。顔バレしたくないという制約がなければ……愚痴っても仕方ない。目の前のピラーに集中だ。
『父さんたちと出会ったりはしないよな』
『問題ないよ。もう一本はここから5キロくらい距離があるからね。ちゃんとマスクをしているかい?』
浅岡にメッセージを送るとすぐに帰って来た。
彼はホテルの一室からバックアップしてくれることになっているので、この場にはいない。
いつもの影はインスタントピラーに入らないと出せないみたいなので、こうしてスマートフォンのメッセージでやり取りしているというわけさ。
俺も同じでピラーの中じゃないと隠遁を使えないから、不気味なウサギマスク姿ってわけだよ。
幸い人影もないので、今のうちにインスタントピラーに入ってしまおう。
あ、隠遁を使ったら結局喋ることができないのか。誰もいないといいなあ……。
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