第30話 宮島インスタントピラー
広島県の宮島は元々観光名所として名を馳せている。
特に有名なのが嚴島神社の海に浮かぶ大鳥居であろう。
しかし、今は一般観光客が訪れることが禁止されている。そう、ここに俺たちが目指す日本最高層のインスタントピラーがあるのだ。
推定階層は何と95~105階と言われていて、クリアするのが困難だと言われていた。
厄介なことに宮島インスタントピラーは先日事件が起こった恐山インスタントピラーと出現時期が一ヶ月しか違わない。
しかも古い方が宮島だ。
つまり、いつインスタントピラーからモンスターが出てきてもおかしくない。
そこで、全国ギルド協会とトップ3ギルドが宮島インスタントピラーをクリアしようと呼びかけた。
攻略の中心となるのは、先日、「原初の塔・死」の最高到達階層を更新したトップ3から選抜された精鋭である。
すなわち、ヒノカグツチの日下風花と神楽湊。ホライゾンの敦賀京介。天竜の中朝陽の四人。
更にトップ3に所属する紬以外のAランクスキル持ちの二人と戦闘経験豊富なバフと回復魔法を使うことができるメンバーがバックアップとして参加する。
それだけじゃない。メインとバックアップをサポートすべく、トップ3のギルドメンバーのうち8割と、父さんら中堅上位ギルドのいくつかからも精鋭がピラー入りする予定だ。
回復魔法を使うことができる者だけでも4名はいると聞く。
かつてない規模のギルド合同パーティに世間が大騒ぎしているのは言うまでもない。
ただ、いつモンスターが出て来るか分からぬ状況のため、一般の人は宮島に入ることができなくなっている。警官がバリケードを張って、目を光らせているのだ。
とは言え、きっちりと動画撮影がされていてリアルタイムで動画サイトを通じてテレビでも放送されている。
撮影しているのはそれぞれのギルドだ。動画収入は重要な収入源だからね。仕方ないよね。
「二人……でいいのでしょうか」
「問題ない。見えないだろうが影兎がついているからな」
不安ありありのフルフェイスの女の子に父が口笛を吹く仕草をする。
仕草だけで音は出ていない。彼は口笛を鳴らすことができないからな。
フルフェイスがきょろきょろと辺りを見回すが、「真・隠遁」で姿を消している俺を見ることは叶わない。
彼女は屠龍に鞍替えしたんだと父から聞いた。
なので今一緒に行動をしているというわけさ。俺が付かず離れずで彼らについていっているのは俺の希望である。
メインパーティとバックアップパーティ以外は50階まで進むことになっていて、そこでベースキャンプを作るんだそうだ。
50階の理由はトラップがあるから。ぞろぞろと大人数で50階以上を進むとトラップに引っかかってパーティが分断されてしまったりする。
だからこそ、メインパーティもバックアップパーティも4人組だ。
他の探索者は50階まで食糧を運んだり、攻略組が休むことのできるように安全の確保を行う。
50階までは到着すればいいだけなので、父に万が一のことがあってはならないと思い、同行することを願い出たんだよ。
父本人にね。
彼が上手く調整してくれて、俺と彼らが一緒に進めることになったってわけさ。
『丁度いいじゃないか。琴美と滝さんの両方を護ることができるんだから』
『琴美? 坂本琴美?』
『そうだよ。あのフルフェイスの子。琴美だよ』
『あ。そういや。父に護られてとか言ってた』
『いくらなんでも抜け過ぎだよ。50階上の君の行動を復習しておいた方がいい』
『あい……』
などと浅岡とスマートフォンでやり取りするくらいに何もすることがない。
低層階だと父もフルフェイスこと琴美も楽勝の様子だったからね。
それにしても、琴美って面白い戦い方するよな。
『琴美の能力って何だろ』
『重力と聞いているよ』
彼女の重装備は自分のスキルで『軽く』しているのかな。
戦い方も豪快。
薄紫のオーラみたいなものが浮かぶと空間が歪み、モンスターを押しつぶす。
俺のモンスタースキルと組み合わせれば一気に広範囲の敵を仕留めることができるかも。
今はパーティを組むわけにはいかないのでイメージトレーニングしかできないのが歯痒い。
父は父で使い勝手の良いスキルだ。
「発動 スリーアローエクスプレス 力。続いて、敏捷」
赤色のオーラと緑色のオーラが父を包み込む。
すると父の動きが目に見えて変わる。言葉通りとするとステータスの力と敏捷が爆発的に増えたのだと思う。
更にあのスリーアローエクスプレスって琴美にも付与することができるらしい。
俺にかけてもらえれば、苦戦するような敵でも戦いやすくなりそうだ。
35階からは主に俺がモンスターを打ち払い、父と琴美には一体に対して二人で当たってもらえるようにして進む。
そんなわけで、危なげなく50階まで到着する。
ここから手筈通りに進まねば、俺のことが衆目に晒されてしまう。
「真・隠遁」状態で集まった探索者たちの中に紬がいることを確認して……いたいた。
そこからスマートフォンで紬とやり取りをしつつ、移動する。
誰もいないところで彼女と合流しパーティを組み彼女にも「真・隠遁」をかけ姿を消してもらう。ここまで順調。
探索者たちの集まっている場所に戻ると、相変わらず紬の姿がそこにあった。
あの紬は偽物である。
元々、体調が優れないことを伝えている……と聞いている。
ペタリとへたり込んだ偽物の紬は首を振り探索者の輪から離脱するように日下風花から勧められた。
嫌がるそぶりを見せる彼女を日下風花が睨み、彼女に付き添われて階段を降りる。
そのまま彼女らについていき、更にもう一つ階層を降りたところで道を外れ周囲には彼女らと俺たちしかいなくなった。
そこで偽物の紬の姿が消える。
偽物の紬は日下風花の魔法で作り出した幻だったのだ。これで誤魔化せるのかと不安だったが、日下風花は階層を移動する魔法も使えるらしく後はうまくやるとのこと。
「もう行っていいわよ。私たちもバックアップパーティもすぐに出るわ」
彼女も紬と同じように姿を隠した俺の姿が見えるらしい。
視覚を補う魔法でも使っているのかな?
何で日下風花がと思うかもしれない。今回の絵図を提案したのは彼女からだ。
ほら、彼女はステータスを見る魔法を使えるだろ。彼女は最初に俺と接触した時に俺の実力に気が付いていたんだ。
次にインスタントピラーの前で会った時に俺の成長具合に驚き、そこから秘密を知る者同士ってことで紬とも繋がって……恐山で一緒に攻略したのなら彼女と行けるように、って色々動いてくれた。
「ふいい。デートするにも大変だネ」
「俺もまさか紬とまた一緒に行動するとは思ってなかったよ」
「風花さんのおかげだネ! ダーリン」
「……」
「つれなーい」
「進めるだけ進もう。ソニックスクリーンで防ぎきれなくなる手前で止まるから言ってくれよ」
「はあい。でも正直、どこまで大丈夫か分からないんだヨ」
「えええ。何階まで行ったことがあるの?」
「んー。89階かな?」
「89階を目標にしようか」
52階までささっと進んで一度隠遁を解いた。
そうそう、紬に対して敬語を使うのを止めたんだ。彼女もその方がいいって言うしさ。
彼女は音を出さないとスキルが使えないから、他のパーティと接触しないように一息で進んできたのである。
「じゃあー。行くゾー」
えいえいおーと元気よく右腕を上げる紬であった。
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