第29話 原初の塔「塔を登りし者に叡智を授けん」

「原因は分かったけど、どうやって治療していいのか皆目見当がつかない」

「スキルを消すスキルなんてものがあればいいのだけど、聞いたことが無いね」


 土曜日の早朝から俺と浅岡は新幹線の中である。

 飛行機の方が早かったんじゃ、と思ったが、紬にグリーン席のチケットを貰ったからせっかくだしと新幹線にしたのだ。

 グリーン席、超快適です。ありがとうございます。


「スキルがバグった状態なんだよな……」

「体に悪影響を及ぼすスキルもあるってことだね」

「スキル起因だとすると、現代医療ではどうしようもないよな。スキルって。どっから来ているんだろうな」

「目に見えるものではないからね。目に見えるものとしてはピラーが関わっているだろう、と言われている」

「モンスターが外に出る事態になったけど、外にいる俺たち人間にピラーが影響を及ぼしてるじゃないか。元から外に影響を及ぼしていたんだな」

「それだよ。蓮夜」

「え。それって何?」

「ピラーのことはピラーに、だよ」


 はて。浅岡は何を言っているんだ?

 スキルはピラーが関わっているとして、それが母のスキルを何とかすることとどう繋がる?

 すぐに問いかけようと思ったけど、彼は眼鏡に指先を当て何やら思案顔。

 きっと彼の中で考えをまとめているのだろう。

 ガタンガタン。

 無言になると、新幹線の走る音が耳に届く。


「蓮夜。君は『原初の塔・死』に登ったんだよな」

「まあ、過去の未来の話だけど」

「うん。原初の塔が世界に5本あることは知ってる?」

「流石の俺でも知ってるわ! それぞれ「生」「老」「病」「死」「真理」と入口に刻まれているんだろ。「死」は実際に見たぞ」

「文字も刻まれているのを知っているかい?」

「……」

「まあ今更驚かないさ。君のことだからね。原初の塔には一言メッセージも刻まれている。『塔を登りし者に叡智を授けん』とね」

「あったっけ……」

「これが写真」


 パッと浅岡がスマートフォンをこちらに向ける。

 原初の塔の入口の写真か。

 どれどれ。

 『*』『********』

 文字が刻まれているけど、全然読めない。


「これ」

「そう写真だと読めないんだけど、実際に見たら『誰でも』読むことができる」

「確かにこいつは叡智だな」

「スキルの仕組みなり、消す方法なりはピラーがもたらしたこと。ならば、ピラーに聞くしかない。だけど、インスタントピラーをクリアしたところで青い宝石が手に入るだけ」

「確かに。モンスターでさえも痕跡を残さず、もって帰れるのは青い宝石だけだよな」

「モンスターを外に持ち出せるのかはやった人がいそうだけど、どうなんだろうね」

「ゾッとするわ……」

「あはは。冗談だって。モンスターを外に出すと『消える』んだよ。例外はモンスターが自ら外に出た『あの事件』だけさ」


 そうだったのか。

 よからぬことを考える輩がモンスターを外に持って出て、地下闘技場でモンスターバトルとかやっているのかとドキドキした。

 他にもお金持ちのお屋敷で主人がワインを転がしながらモンスターに人を食わせたりなんてことも。

 よかった。不幸な人はいなかったんだ。

 

「蓮夜」

「ん?」

「変な妄想に華を咲かせるのはいいけど、話を戻すよ」

「お、うん」

「原初の塔には『授ける』と記載されているんだよ」

「天才現る! そうか。原初の塔をクリアすりゃいいのか」

「待て。蓮夜。299階まではともかく300階にまだ行かせるわけにはいかない。君は『敗れている』だろ」

「で、でも」

「自分の命と引き換えに、と思う気持ちは別に構わないけど、最悪全部の原初の塔をクリアしなきゃならないかもしれないんだよ。クリアしてもヒントを得ることができない可能性もある」

「ダメかどうかは全部クリアしてからまた考えればいい。そうか……そうだよな」


 原初の塔か。ピラーのことはピラーでと言った浅岡の言葉の意味がやっと分かった。

 シンプルな展開で助かる。

 片っ端から原初の塔をクリアしていけばいいだけ。

 その時、脳裏にアイツの姿が映る。

 5本の首を持つ漆黒のドラゴン。あの時は濃密な死の気配に逆に喜色が浮かんだほどだ。

 だが今は違う。

 本能的な恐怖に自然と全身が震えた。

 あれと……生き残ることを前提にしてあれに勝つ……想像ができない。

 漆黒のドラゴンと同クラスのモンスターが他の原初の塔の300階にもいるってことだよな。

 そこで俺は更に恐ろしい想像をしてしまう。

 

「五本の首を持つ漆黒のドラゴン。あいつがラストだよな……」

「ボス部屋だったんだろ?」

「確かにボス部屋だった。でも、まだ『上』があったりしないよな」

「行ってみないと分からない。僕の個人的な見解だけど、300階が最上階でドラゴンがボスだと見ている」

「その心は?」

「まだ突拍子もない推測だから語るにははやいかな」


 そう言って浅岡は口をつぐんでしまった。 

 無理に聞いても喋ってくれなさそうだな。推論で俺の気持ちを揺さぶりたくないという彼なりの優しさなのだろう。

 なので、これ以上この件については突っ込むのをやめた。

 

「原初の塔・死なら今でも挑めるんだよな?」

「うん。だけど、君のことが知られるのなら他の原初の塔の方がいいんじゃないかと思っている」

「ん。あ。ああ。分かった」

「クリアできないにしても、君が行けば『新記録確実』だ。原初の塔の中なら邪魔してくる輩もいない。外に出たら色んな者が接触してくるようになってしまうからね」

「じゃあ。どこがいいかな?」

「名前からの推測でしかないけど、連夜はどこがいいと思う?」

「そうだなあ。真っ先に浮かぶのは「病」。次点で「真理」かな。字面だけだと」

「そうだね。どっちが入りやすいか、滝さんにも相談してみる。もう一つ、どうやって300階を突破するのかも考えなきゃね」


 課題は沢山あるな……。

 「原初の塔・死」は日本にあるので、エントリーさえすれば特に問題ない。場所も静岡県だし近い。

 「原初の塔・病」と「真理」はどこにあったんだっけ。

 

「もうすぐ広島に着くよ。まずは目の前のインスタントピラーに集中しようか」

「だな」

「立ち回り方は頭に入っているかい?」

「なんとか」

「下手に動くと一躍時の人になってしまうから、注意してくれよ。一発目の原初の塔計画も頓挫する」

「そ、そうだな」


 や、やべえ。浅岡に送ってもらったメモを見ておこう……。

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