第9話 昼食ブリーフィング

 翌日はあっという間に昼休憩になった。

 昨日のことがあってか、授業中はぐっすり眠ってしまったからな……。当たり前のように授業を受けるってことも幸せなことなんだって分かってはいるのだけど……睡魔には勝てなかった。

 昨日と同じ場所で浅岡と共に昼食である。

 

「冷えてもファミチキはうまい」

「それは良かったね」


 浅岡の視線が冷たい。

 眼鏡がキラリと光った気がする。

 インスタントピラー挑戦に関し、彼の協力なくしては挑戦さえできなかった。感謝感謝である。

 

「何から喋ればいい?」

「聞きたいことは色々あるけど、昨晩の挑戦はどうだった?」

「モンスターのステータスと特徴をもらったじゃないか。しかし、数字で見るものと実際体験するのじゃ随分違うと思った」

「それはそうだろう」

「昨日の中だとレッドキャップだな。奴の魔法には面食らった」

「火属性魔法だっけ」

「うん」


 レッドキャップのステータスに火属性魔法(低級)と記載があったから、ゴブリンシャーマンと同じだろと安易に考えていた。

 それが通常の火球と爆裂火球の両方を使いこなしてきたのだ。

 一方で俺も火属性魔法(低級)を使えるのだから、それくらい分かるだろと言われるかもしれない。

 ところがどっこい。火属性魔法(低級)の「スキル」を使用するとファイアという魔法になる。

 この辺の仕様がどうなっているのか分からん。人間に火属性魔法というスキルがあったりするからかもしれない。

 もう一つ、数値だけじゃ分からないものが「スキル準備時間」だ。

 魔法を含むスキルを使用する際には一定の待機時間があるものとないものがあるし、精神力を消費するものとしないものがある。

 精神力ってのは曖昧で、連続使用すると頭が割れるように痛くなったり……な奴なのだ。

 

「――といったことを感じたな」

「なるほどね。やはり、実際に見ないことには分析も厳しいか」

「浅岡も一緒に来る?」

「そうだね。君の足手まといにならないように同行しよう」


 お次は浅岡からの疑問へ回答するターンとなる。


「魔法はどう対処した?」

「斬った」

「斬った……斬れるものなのか、魔法って」

「斬れないものもあると思う。火球はいける。爆発する奴は斬ったらダメージを受けてしまう」

「……無茶苦茶だよ。モンスターのスキルを使うことができるのと、もう一つなんだっけ……」

「フェイタルポイント」

「そうその致命的な弱点というもの。通常の弱点とは異なるのだよね。これも吸収スキルの効果と」

「そそ。フェイタルポイントを突けば一撃で敵を仕留めることができるんだ」


 浅岡が教えてくれたモンスターの弱点は文字通り相手の装甲が低い(防御力が低い)箇所だ。

 対してフェイタルポイント――致命的な弱点は一撃死させることができる箇所になる。

 俺が何も知らず弱点を聞いてモンスターを攻略しようとしたところで、ゴブリンに勝てはしないだろう。そもそも弱点であってもゴブリンの装甲を貫けないかもしれない。

 だが、フェイタルポイントは違う。ゲーム的に表現したら1ダメージでも与えることができれば、相手を始末できる。

 

 浅岡は眼鏡に触れ、何か思いついた様子だった。


「なるほどね。吸収スキルとはフェイタルポイントが見えるスキルじゃないかな」

「お、おお。俺もそうじゃないかと」


 浅岡がモンスタースキルの核心を突いてくる。

 『吸収条件を満たしました』という脳内メッセージを覚えているだろうか。 

 フェイタルポイントを突いてモンスターを倒さないと、モンスターの力を吸収することができないんだ。


「だからと言って僕にフェイタルポイントを突いてモンスターを倒させよう、なんて考えなくていい。恐らくフェイタルポイントを突けるのは君だけだ」

「そうなのか。やってみないと分からないじゃないか」

「危険に過ぎる。僕のスキルを知っているだろう? ランクE。一般人と同じ身体能力さ」

「それでもスキル持ちならレベルやステータスも備えているよな?」

「そうだね。まあ、この話は一旦保留にしよう。君から伝えたいこともあるんだろ? 昼休みは有限だ」


 あれ、さっき、「同行する」って言ってたよな。それならゴブリンを弱らせてから浅岡にフェイタルポイントを突いてもらえばいいんじゃないか、という疑問が頭をよぎる。

 ま、まあ。そのうち。

 確かに俺からも浅岡に伝えたいことがある。


「浅岡。昨日からの俺、様子が変だっただろ?」

「君なら自分から言ってくれると思っていたよ。そうだね。とても『変』だ。入院で人生観が変わったとかじゃない。だけど、変は変だけど、難しいな。『人が変わった』のではなく、君は君なのだけど、うーん」

「突然大人びたとか?」

「それはない」

「え、えええ……」


 聡明な浅岡のことだ。俺がいつもの俺じゃないことを彼なりに分析していたに違いない。

 父を救う、その先母を……とまで考えると浅岡に事情を知ってもらえたら相当心強い。

 正直に話をして彼が離れて行ってしまう懸念もあるが、それなら俺がそれまでの男だったってこと。別の道を模索して必ず父を救う。

 

「一昨日に変な夢を見たんだよ。やけにリアルな夢を」


 そう前置きして俺は浅岡に一度目の人生を語り始める。

 父がピラー遠征で亡くなり、憔悴した母が病におかされ俺が仕事で支えようにも能力者ということで碌な仕事にありつけず、コンビニバイトで生計を立てていた。

 十分な治療を受けることができなかったからか、母が亡くなり、家族を立て続けに失った妹は精神を病み、ついには自殺してしまう。

 そこで俺の精神ももう限界だった。

 自棄になり死ぬつもりで「原初の塔・死」へ単身乗り込み、傷づくことを厭わず戦った結果、たまたまコボルトを倒す。

 そこで、吸収の真の力に気が付く。


「そのまま登れるだけ登った結果、最後はやられちゃって夢から覚めたってわけさ」


 最後は殊更明るく言ったつもりだったが、浅岡は神妙な顔で親指を口に当て何やら考え込んでいる。

 荒唐無稽な妄想を笑い飛ばされるとか思った。

 だけど、彼はそうじゃなかったんだ。真剣に話を聞き、俺が語り聞かせた内容を真面目に考察してくれている。

 浅岡は手を口元から動かし人差し指を立てた。

 

「僕の考えを述べよう。結論から言うと、君は未来から過去へ戻った、と考えるのが一番しっくりくる」

「未来を垣間見たとかそんなところかと思ったのだけど……」

「いや、実体験していなれば君は昨日死んでいた。君も言っていただろう。モンスターのステータスを見るのと実際に戦うのはまるで違うと。君は初めて吸収して使うことができるようになったモンスターのスキルを使いこなしていた。更に実体験があったからこそ、火属性魔法(小)の思い込みがあった」

「……ぐうの音も出ない。夢だと思いたかったけど、あの体験はやっぱ」

「君が打ち明けてくれて嬉しかったよ。君がピラーへ挑むことを焦る理由も分かった。そこで質問だ。君の父が例のピラーへ挑むのはいつだ?」

「あと七日後だと思う。次のヤマがって言ってたから」

「なるほど……。いくつか教えて欲しい」


 俺の方が浅岡より数倍感謝しているよ。

 自分が彼の立場だったら、いくら友人でも俄かに信じることができない話だ。それを浅岡は即信じてくれた。


「滝。聞いているのか?」

「あ、うん。父さんの名前だったよな」


 相変わらず締まらない俺である。


※誤字修正しました。

モンスタースキル→吸収スキル

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