第48話 俺もたまには冴える

「考えてもみなよ。ピラーを作り出した『意思』があったとして、何故、ピラーを作ったのか」

「少なくとも、地球を支配したいとかそんなんじゃないよな。人類にわざわざスキルを与えたくらいだし」

「ピラーだけじゃなくスキルも与えた。人類に俺の作った遊び場をクリアしてみろ、と言わんばかりにね」

「いやいや。ピラーをゲームにたとえるとバランス調整ミスしたクソゲーだろ」

「以前君が言っていたよね。クリア不可能なものはゲームではない」

「うん。言った。常々そう思ってるよ」

「しかしそうじゃなかった。ちゃんとゲームだったわけだよ。ノーヒントな上に超絶難易度のクソゲーに違いないけどね」


 何となく浅岡の言いたいことが分かって来た。

 ピラーを作り出した何かがいるとして、俺たちを排除しようとしてきた組織とは意見が異なる。

 そこから導き出される答えとは――。

 

「ピラーを作り出した意思なるものと、ことなる勢力がある。ええと、つまり、ピラー側とでも言ったらいいのか分からないけど、一枚岩じゃないってことだよな」

「僕の個人的な考えとしては、ピラーが誕生し、人類にスキルをもたらしたのは色んな知的生命体がそれぞれの思惑を持った結果生まれたものじゃないのかと」

「人類を利用しようとか、知的生命体同士が争っていて……そのうちの一勢力が俺たちを排除しようとして来た組織と繋がっている? みたいな」

「そんなところじゃないかな。ややこしいので僕たちを排除しようとしてきた組織を組織Xとでもしようか。組織Xは知的生命体Xから何らかの利益を享受しているんじゃないかな。ピラーのクリアを阻むことを条件に」

「インスタントピラーからモンスターが出てきたのも知的生命体Xがやったのかもな」

「そうかもしれないし、知的生命体同士がピラーで競争をしているのなら時間制限があるのかもね。時間経過ごとに何かイベントが起こるとか。過去の未来でモンスターが出てきた記憶はないのだっけ?」

「多分……自信はないけど。あの頃はずっとコンビニバイトで父が亡くなったピラーについて情報を入れないようにしていたし」

「日下風花が怪我をして撤退する事件は覚えていたのにね」

「あれは父が亡くなる前だったからだよ。父さんが探索者だったから、主要ニュースくらいは見てたって」


 とっても話が複雑になってきてわけわからなくなってきたぞ。

 知的生命体……地球じゃないどこか、だよね。

 宇宙人とか表現するのも嫌だなあ。

 異界……これでいこう。異界でも国同士で戦争していて、地球に進出したい勢力とそうじゃない勢力があって争っている。

 人類に協力して異界の戦争を有利にしたいと思っている勢力もいるかもしれないな。

 異界側は無関心、敵対的、友好的の三つか。友好的はピラーをクリアして欲しい勢力。敵対的はクリアされたくない勢力。無関心は考えなくていいか。


「考えはまとまったかい?」

「まとまらん。ひょっとしたらスキルは人類にピラーをクリアして欲しい勢力がもたらしたものかもしれないな、くらい」

「推測に推測を重ねても、だね。問題は組織Xが僕らの周囲にも手出ししてくる可能性が高いということさ」

「なら、元を断つ」

「組織Xをかい?」

「いや、組織Xは降りかかる火の粉を払う以上のことをしたくない。時間が勿体ないし。なら、原初の塔を全部攻略しちゃえばいい」

「そうだね。組織Xを追い詰めたところで別の人類に囁かれたら第二第三の組織Xが生まれてしまうだろうし。厄介なことに組織Xを支持するだろう人は沢山いることだ」

「え、ええと。青い宝石がエネルギー源だからだよな」

「あとはピラーを仕事にしている探索者を始め、ピラー関連企業だよ」

「よっし。スッキリした。もう一つスッキリしたいことがあるんだよ」

 

 ピラー関連企業か。

 組織Xに組みする者も多数いそうだ。青い宝石が利益を生み出す限り、組織Xを壊滅させることなんて不可能だよな。

 今所属している者を滅しても、そこに青い宝石という果実があるからいくらでも協力する者が出て来る。

 

 んーっと寝ころんだまま伸びをしたところで、浅岡の影がクルリとその場で回転して指を3本立てる。器用に動く影だな……。


「君の母……じゃないな。『腐毒の王パロキシマスが倒されました。「病」が場から取り除かれます。「クリアボーナス」《世界の法則》一部バグが修正されました』のことかい? それとも滝さんと紬さんが転職したことかい? もしくはスキルランクFのことかい?」

「い、いっぱい出て来たな。全部気になるよ!」


 この後、浅岡と喋っていたら空が白くなってくる頃、いつの間にか寝てしまっていた。

 

 ◇◇◇

 

「ふああ」


 昨日は何を喋っていたのだっけ。後半全く覚えてないぞ。

 今晩、以前父に連れて行ってもらった落ち着いたバーみたいな店で全員集合することになっている。

 なので、夕方まで寝てしまおうとしたところ昼過ぎに何度も鳴り響くスマートフォンで目を覚ました。

 

「ふああい」

「蓮夜くん。やっほー」


 こののんびりした声は紬か。誰から電話がかかってきたのか見てなかったよ。

 彼女だと分かっていたら睡眠を優先したかもしれない。


「まだ夏休みだから学校は無かったはず……」

「登校日ならあるかもネ」

「マジか。でも、あったとしても既に終了しているさ」

「同じ学校じゃないからわからないネ。同じ学校と言えば、浅岡くんと蓮夜くんって同じ学校なんだよネ」

「そうだよ。言ってなかったっけ」

「学校で二人に会ったじゃなイ。相変わらずだネ。キミは」

「寝てたから仕方ないじゃないか」

「キミと浅岡くんが同じ高校というのが不思議だヨ」

「どういう意味だよ」

「さあ。どういう意味だろうネ。自分の胸に手を当ててみたら?」

「ぐうう」

「あ、変な事考えたでしょ。紬ちゃんの胸に当ててとか」

「考えてないから! じゃあまた夜にな」

「えー。夜まで待つ前に会おうヨ。ほら駅前のファミレスで。お昼まだでしょ」


 拒否しても結局は行くことになりそうだから、即了承して家を出る。

 到着すると制服姿の紬が手を振って俺を呼ぶ。

 登校日って自分がそうだったから、言ってみたのかよ。そんでそのまま俺の家の最寄り駅まで来たってことね。

 それなら学校のお友達とでも食事に行けばよかったんじゃ。

 

「お友達いない可哀そうな子とか思ってない?」

「思ってないよ。友達多そうだし」

「ふふー。親しい男の子は蓮夜くんだけだよー」

「嘘つきめ。父さんと浅岡とも親しいだろ」

「ぶー。蓮夜くんも言うようになったじゃないか」


 と言いつつ腕を絡めてくる紬。

 すぐに彼女の腕を払うと満足気に微笑むのだった。

 言葉で対抗できたが、スキンシップではまるで勝てる気がしない……。

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