第7話 どんどん来い!俺の糧

 勢いよく振られた棍棒を素手で受け止め、もう一方の手に持ったナイフで赤い点が浮かぶ右の首筋を突き刺す。

 光の粒と化していくゴブリン。その光が俺の体に吸い込まれていった。

 

「ふう」 


 あれから20匹ほどのコボルトとゴブリンを倒し、ステータスとレベルが満足いくくらいまで上がった。

 スマートフォンに触れ、ステータスと心の中で念じながら、極小の青い宝石を拾い上げる。

 報告が欲しいみたいだから、浅岡にもステータスを伝えておこうと思ってね。

 

『名前:滝蓮夜

 ギルド:影兎シャドゥラビット

 レベル:5

 力:142

 敏捷:52

 知性:6

 固有スキル:吸収

 モンスタースキル:恐怖耐性(小)、吠え声』

 

 ブーブーブー。

 反応が早過ぎるだろ! 待ち構えていたんだろうか。


『信じられない。しかし、ステータスを偽ることなんてできないし……そういうスキルもあるにはあるが蓮夜のスキルは『吸収』だろ』

『二階層に行く。これくらいのステータスなら大丈夫だろ』

『規格外ってものじゃないね。君の能力は。2階層の敵は三種だ』

『ゴブリンのバリエーションとオークだろ』

『その通りだ。健闘を祈るよ』

『あいさいさー』


 いよいよ二階だ。

 浅岡が二階のモンスターの情報を送ってくれたけど、以前原初の塔を登った時の体感と似たようなものだった。

 階層が上がるとモンスターの強さが跳ね上がる。

 二階のモンスターは三種いて、そのうちの一種のステータスがこれだ。

『ゴブリンアーチャー

 力:25

 敏捷:30

 知性:10』

 

 対して俺が死にかけたゴブリンはこれ。


『ゴブリン

 力:8

 敏捷:2

 知力:1』


 力の差は明らかだろ。2階にもゴブリンのようなパワーファイタータイプもいる。

 ホブゴブリンといって、そいつの力は40ときたものだ。

 クラスの連中が騒いでいた最強パーティ? が余裕でサクサク進んでいて1階登っただけで歯が立たなくなる、というのは特に驚くことでもないんだよな。


 ◇◇◇

 

 登ったところで三体のモンスターが待ち構えていた。

 1階で粘ってなかったらと思うとゾッとする。

 敵は大きさが異なるものの、一階で倒したゴブリンとそっくりだった。

 一体が杖を持ち、もう一体が弓、前衛のゴブリンは身長が2メートルほどある。武器はトゲトゲの棍棒を両手で握りしめていた。

 対する俺は左右の手でナイフを構える。

 進もうとすると、杖を持ったゴブリン――ゴブリンシャーマンから火球が放たれた。

 唸りを上げて迫る火球をナイフで切り裂き、一気に速度をあげる。ここで連携して弓を放ってこないところが、間抜けというよりゲームぽくて逆に違和感を覚える。

 俺にとっては都合のいいところなので、残念なんて気持ちは一切抱かないけどね。

 低い姿勢でナイフを振るうぞ、と僅かに動かし前衛の巨体のゴブリン――ホブゴブリンの脇をすり抜け弓を構えたゴブリン――ゴブリンアーチャーの前に躍り出る。

 アーチャーは弓を放とうにも距離が近すぎまごつくばかり。

 そんなアーチャーの左胸に赤い点が浮かんでいた。

 左のナイフで奴の胸を一突き、光の粒と化していくアーチャーには目もくれずようやく振り返って武器を振るおうとしたホブゴブリンの左脚の付け根に光る赤い点を突く。

 最後は次弾を準備中のゴブリンシャーマンの額にナイフを突き刺し討伐完了となった。

 

「ステータス差は数にも勝る」


『吸収条件を満たしました』

『レベルが上がりました』

『力アップ、敏捷アップ、知性アップ、スキル「火属性魔法(低級)」「毒耐性(小)」「エイミング」獲得』 

『ステータスが更新されました』


 ヒュン。

 安堵する俺ほ頬を何かがかすめカランと乾いた音が響く。何かが床に落ちたらしい。

 どうやら敵は俺を休ませるつもりはないみたいだな。

 今度はゴブリンアーチャーが三体。時間差でこちらに弓を放ってくる。

 左右のナイフでそれを凌ぐも、途切れなく放たれる矢に近寄る隙がない。強引に突破することもできるが……今も他のモンスターが集まって来ていないとは言い切れないよな。

 よっし。ここは。

 

「うおおおお!」

『スキル「吠え声」を使用しました』


 俺の声に僅かな間ゴブリンアーチャーの動きが停止する。

 硬直が解けた時には二体のゴブリンアーチャーが光の粒となっていた。残す一体は至近距離にあり、さくっとフェイタルポイントを突いて仕留める。

  

『ステータスが更新されました』


 いつもの脳内メッセージが流れる。

 ふう。どうやら次は来なさそうだ。

 油断なく構えていた腕の力を抜く。

 改めてステータスをチェックして――。

 

「お、おおお! エイミングじゃないか」


 こいつは使える。

 低階層で手に入るモンスタースキルだったのかあ。

 迷わずエイミングをロックする。ロックしておけばエイミングが上書きされることがなくなるからな。

 モンスターがスキルを持っていた場合、フェイタルポイントを突いて倒し「吸収」すればモンスターのスキルを獲得することができる。

 だけど、確保できるスキル数が決まってたんだよなあ。たしか10個までだっけ。

 

「よっし。準備完了。この調子なら二階でも問題なさそうだ」


 回廊を進み右手に折れたところで、ゴブリンアーチャーとゴブリンシャーマンと遭遇する。

 奴らの射程距離に入るまでもう少しある。

 ちょうどいい。ならば、行くぞ!

 

『スキル「エイミング」を使用しました』


 左右のナイフを連続で投擲する。

 距離が遠すぎるし、俺の投擲の腕じゃ遠くに投げるだけで精いっぱいだ。

 しかし、ナイフが軌道を変え、二体のフェイタルポイントに突き刺さった。

 やっぱり便利だな。エイミング。効果は必中。狙ったところに必ず中るのだ。防御されちゃったらそれまでだけどね。

 

「やば。ナイフを二本しか持っていないんだった!」


 慌ててナイフとついでに極小の青い宝石を回収する。

 

 その後、回廊をうろつきモンスターを見つけるなり襲い掛かり、次々と仕留めていった。


「こんなものかな。ステータス」


 スマートフォンに触れながら、ステータスを表示する。

 

『名前:滝蓮夜

 ギルド:影兎シャドゥラビット

 レベル:7  

 力:240  

 敏捷:120  

 知性:30

 固有スキル:吸収  

 モンスタースキル:恐怖耐性(小)、吠え声、火属性魔法(低級)、毒耐性(小)、エイミング』

 

 すぐさまブーブーブーとスマートフォンが震えた。


『後で必ず説明してくれよ』

『もちろんだ。そろそろ三階に向かう』

『インスタントピラーの高さから、三階にボスがいる可能性が高い』

『三階か四階ってところかな?』

『それくらいだね。危なくなったら逃げろよ』

『無理はしない。今のステータスなら逃走だけに集中すればどうにかなるはずだ』

『武運を祈る。三階でボスだとしたらレッドキャップかゴブリンキャプテンだと思う』


 続いてレッドキャップとゴブリンキャプテンのステータスが送られてくる。

 

『俺はモンスターのステータスを見ることができないんだけど、自分のステータスを見る時みたいな何かがあったりする?』

『いや、モンスターのステータスを見るスキルがあるんだ。僕は情報を入手しているだけさ』

『情報か……お金を使ってくれたのか、悪いな』

『5階層のモンスターまでなら探索者用のサイトに公開されているさ。ピラーに挑むと言う割に事前情報を調べなさ過ぎだよ』

『あ、あはは。い、一応、ボスのこととか、出て来るモンスターの種類のことくらいなら知っているぞ』


 呆れられたらしい。

 せっかくだから俺の知識を披露しようと思ったのに。

 浅岡なら当然知っていることだろうから、自慢にもならんか……。

 ボスはな、二階上くらいのモンスターがランダムに選ばれるんだぞお。どうだー。

 心の中で自慢してみた。少し虚しさが残った。

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