第49話 ファミレスでデザートを頼む
「蓮夜くんはどう思う?」
「うーんと」
ファミレスで注文を済ませ、料理が到着するまでの間に話題になったのは「原初の塔・病」をクリアした時に響いた脳内メッセージのことだった。
『腐毒の王パロキシマスが倒されました。「病」が場から取り除かれます。「クリアボーナス」《世界の法則》一部バグが修正されました』
だっけか。浅岡と昨日喋った気がする。
「『場から取り除かれます』は両アメリカ大陸からインスタントピラーが無くなることで、一部バグってのはスキルのことじゃないかって。母さんのステータスを見た時にスキル欄がおかしかったんだよね」
「おお。ちゃんと考えてた! 浅岡くんに聞いたんでしょ?」
「……」
「図星だナ!」
否定も肯定もしない。自由に想像してくれ。
ええと。丁度いいところに店員さんが料理を持ってやって来たぞ。
「ほら、ご注文の料理がお届けされたぞ」
「誤魔化したナ」
「熱いうちに食べないと。ドリアは熱いのがうまいんだ」
「へえ。ほれ、食べてみ」
「熱っ! 何すんだよ!」
「あれえ。熱いのが良かったんじゃないのー?」
く、くうう。
ぐつぐつしているドリアを力一杯スプーンですくって口に突っ込んでくるとは……火傷するじゃないか。
しかし、自動回復(大)の効果で即痛みは消えた。
つくづく、人間やめちゃっているよな。俺。
「そういや。ミスティックだっけ? 何か変化はあった?」
「ううん。技能の欄も空っぽだったヨ。ステータスはピラーに入らないと見えないから、今はどうなってるか分からないナ」
「そかそか。レベルが上がれば変わるかもだな」
「だネ。あ、そうだ。蓮夜くん。私も影兎に入っていい?」
唐突だな。
いきなり切り込んできたから、アイスティーをこぼしそうになってしまったじゃないか。
自分の気持ちを落ち着けるため、何食わぬ顔でアイスティーを飲む。
「大歓迎だけど。ホライゾンは? 敦賀兄妹が看板だったんだろ」
「アメリカ遠征で一時的に抜けたでしょー。このまま影兎のまま戻らなきゃ、大丈夫かナって。蓮夜くんは紬ちゃんが嫌い?」
「大歓迎だって言ったじゃないか。ホライゾンとギクシャクしたくないというのが本音だよ」
「問題ない。問題ない。ホライゾンはねえ。ヒノカグツチと合併しようって話があったの。インスタントピラーからのモンスター流出を受けて、共同戦線を張ることも増えて、じゃあいっそってなったみたい」
「それは……日本ギルド界が一強になるのかな?」
「そうだネ。今後、街の防衛に繰り出したりもあるから、他のギルドも合併が進むかも。そんなわけで、この機会に抜けちゃおうというわけなのだ」
俺としては否はない。
今後、原初の塔を挑むに紬の力は必須だ。彼女が影兎に参加しようとしまいと、彼女の力を借りねばならない。
父の屠龍と影兎は密な関係になっている。
屠龍に母と妹の護衛をしてもらったり、とか彼らには感謝してもしきれない。もちろん、彼らにはちゃんと報酬も支払っている。
浅岡と父がこの辺、調整してくれた。
ホライゾンとはこういった関係はなく、単に紬個人が影兎と共に原初の塔に挑んだに過ぎない。
ギルドに所属しているからといってソロで挑んだらダメとか他のギルドのメンバーとパーティを組んだらいけないというルールはないからね。
だけど、所属しているギルドでピラーに挑むことがあれば、そちらを優先する。
ホライゾンのギルドマスターである紬の兄は彼女に甘々らしいんで、二つ返事で遠征の許可が出たそうだけど……。
「ダーリン。ダーリンってばあ」
「ん?」
顔が近い。対面で座っているから安心していたが、テーブルの上に手をついて思いっきり体を乗り出してきているじゃないか。
油断した……。
一応俺も健康な男子高校生なわけで、紬の中身は知っていても可愛い子の息が鼻にかかると赤面してしまう。
「考え事してたでしょ。まさか他の女の子のこと?」
「いや。ギルドのことだな」
平静を装って答える。さりげなく彼女と距離を開けることも忘れてはいない。
「素で答えるなんて面白くないナ。お茶目も必要だヨ」
「デザートでも注文するか」
「もうー。あ、私はこれネ」
「しっかり頼むんだな」
「もちもち」
っち。俺の狙っていたものと同じものを紬も狙っていたのか。
しかし、ここで曲げては何だか悔しい。
店員さんを呼んで、同じものを二つ注文したのだった。
◇◇◇
「学生の本分は学校だ」
「夏休みが終わるまでまだ日数がある」
「宿題もきちんとやれよ。蓮夜以外は問題ないだろ」
「な、な、そんなことはないだろ?」
夜になり打上会場にて次の方針はすぐに決まったのだが、一人だけ酒を飲んでいた父がとんでもないことをのたまったのだ。
出席者はアメリカに一緒に行ったメンバーである。
こんな時、いつもは頼りになる浅岡は俺の盟友足り得ない。
琴美はこう見えて真面目に宿題をこなしてそうだし……と紬に助けを求めるように目を向けるが、何その笑顔。
「お姉さんが教えてあげよっか」
「宿題終わってるの?」
「進学予定のない私は宿題なんてあってないようなくらいしかないのだよ」
「俺もあってないようなものだと思う」
「そうでもないよ。蓮夜」
浅岡から鋭いツッコミが入る。
そこに無邪気な琴美が言葉を被せてきた。
「大丈夫ですよ! 連夜先輩! 船の中でやっちゃえばいいんです!」
「やらないって言ってないのに。みんな酷い。そもそも宿題の話じゃなくて、学校にはちゃんと行こうって話だっただろ」
組織Xを黙らせるためには原初の塔をクリアし、インスタントピラーを消滅させること。
なので、原初の塔に挑むことは打上早々に既定路線となった。
その場合、どこから行くのかが肝になってくる。
インスタントピラーからモンスターが出て来ることも考慮し、母と妹の安全を確保する、と言う意味では日本の「原初の塔・死」を真っ先に攻略するのがいいように思えた。
しかし、場所が日本となるとアメリカの時みたいに身元を隠すってのは難しい。
原初の塔・死をクリアしても残り3つの原初の塔がある。煩わしい雑事が発生することは必須。
それに母や妹に取材やなんやらとマスコミが殺到することも予想される。
もう一つ、俺個人として後回しにしたい理由もあった。
それは原初の塔・死の300階にいた五本首の竜のことだ。竜は自己浸食を使ってやっと相打ちに持って行けたほどの相手だった。
今と過去の未来の俺は違う。だけど、どうしてもトラウマが抜けないんだよね。
後ろ回しにすればするほど、俺たちの力は上がる。万全を期して挑みたい。
日本は無しとなったら、どこにするんだの回は全員が口を揃え「原初の塔・真理」と答えた。
真理と言うからには何か知識を得ることができそうだろ。場所もオーストラリアのウルル。別名「地球のへそ」とか「エアーズロック」と呼ばれる観光名所だったところだ。
そして、オーストラリアに向かうに飛行機ではなく船を使う。
だから宿題は船の長旅の間にしたらいいと琴美が言ったというわけさ。言われなくても宿題くらいちゃんとやると言っているのに……全くもう。
「船で行くのはいいとして、オーストラリア政府との交渉は浅岡と父さんに任せていいんだよな?」
「米政府に協力を仰ぐ。まあ、問題ないだろ」
父の言葉に浅岡も頷く。
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