第50話 いざ地球のへそへ
「それじゃあ。さっそく船のチケットを取らないとな! パスポートはもう持っているし」
「チケットもさっき予約したよ。明日の夕方。出発するから」
「え。えええ。いろいろ買い込みたいのに」
「半日あれば揃うだろ? 蓮夜の家に荷物を持っていくからログハウスの中に入れてもらえるかい?」
「私もー」
「蓮夜先輩。私もお願いします!」
構わないけど……。
急だな。準備が必要だってのに。
しかし、よくよく考えてみたら、特に準備するようなものは無かった。
アメリカに行った時と同じ装備を揃えればいいだけだし、後は旅路が長くなる分、服とかを多目に持てばいいだけ。
「蓮夜。朝からホームセンターに行くぞ」
「え。あ。そうか」
「寝袋くらいは買おう」
「うん」
父よ。思い出させてくれてありがとう。そうだった。
ログハウスの中を快適にできるのならそれに越したことはない。
◇◇◇
帰りの日数をちゃんと計算していたのか……と思ったが、帰りは米軍に協力してもらう手筈をつけたんだってさ。
また飛行機が落ちたらどうすんだよ、と不安しかない。
と頭を抱えていたら、モンスターの大群が広間に集まっていた。
「琴美」
「はい!」
『スキル「エイミング」を発動しました』
対象は琴美の出した重力の紫の雲を指定し、狙いはゴブリンキャプテンたち。
ズガガガガガ!
一瞬にしてフェイタルポイントを貫かれたゴブリンキャプテンらが光の粒と化していく。
「琴美がいたら早い早い」
「私……紫の雲を出しているだけですけど……」
「疲労したら言ってくれよ。ログハウスの中でぐーたらしてるのと交代するから。
「まだまだ平気です!」
只今、「原初の塔・真理」の70階である。
今回は琴美だけじゃないぞ。
「バッチリ護るから安心してネ!」
「敵の動きも蓮夜たちも全然目で追えないね」
「問題ないさー。目指せレベル255だよ」
「転職による技能の習得だったっけ」
そう。紬がソニックスクリーンで護るのは浅岡である。
琴美がいれば、モンスターに何かさせる前に全滅させることができていたから、今のところ彼女のソニックスクリーンは活躍していない。
もう少し進んだら、琴美も紬の後ろに移動してもらわなきゃだな。
紬は102階だとまだレベルが上がらないので、ミスティックに転職した効果はまだ現れていない。
「ガンガン進もう! あと二時間したらお楽しみの食事タイムだ」
「おー」
紬が右腕を高くあげる。
浅岡はやれやれと苦笑し、琴美はにこにこして俺たちを見守っていた。
この分だと今日中に290階付近まで到達できるんじゃないか。
いや、先に240階くらいまでに浅岡のレベルを255まで持っていって父と交代させなきゃだな。
過去の未来では自暴自棄になり一人で原初の塔に挑み、力及ばずだった。
今は違う。
頼りになる仲間たちと協力することで、精神的にも能力的にも遥かに強くなった。
彼らがいれば、全ての原初の塔をクリアするのもそう遠くない。
パシンと頬を叩き、階段を登っていく。
「真理」とは何が待ち受けているのか、不安の方が大きいが、みんなとならどんな困難でも突破することができる。
「待っていろ。真理のボス」
「少し気が早いんじゃないかな」
浅岡の鋭いツッコミに声を出して笑ってしまう俺なのであった。
夜になりログハウスでゆっくりと体を休め、ひたすらモンスターを狩り、レベル上げを行う。
琴美、続いて浅岡がレベル255に到達。順調順調。
299階のモンスターを狩りつくし、琴美と浅岡にはログハウスに入ってもらい、いよいよ300階だ。
まずは階層の確認。窓があり、仕切りが無い空間。
そして、中央にエメラルド色の長い髪の女の人が無表情で立っていた。
人間ではないことは分かる。何故なら、耳が長く毛束かと思ったが尻尾が生えていたからだ。
それ以外は人間そっくりで透き通るような肌にスレンダーな体を隠すものは何も身に着けていない。
「こらあ」
「ちょ。見えないだろ。死ぬ。死ぬからやめろ」
目を覆い隠すなんて何考えてんだ。紬の奴。
それでも一応、理性はまだあったようで、俺の前にワンタイムスクリーンを張っていた。
「人類の勇者たちよ。よくぞここまで辿り着いてくださいました」
喋った! エメラルド色の髪の女の人が。
発声は明らかに日本語ではないのだが、日本語に聞こえて来た。
この技術を俺は知っている。
原初の塔の入口に書かれている文字だ。明らかに日本語ではない文字なのだけど、自分の目で見ると日本語で理解できる。
「あなたが、全ての黒幕なのでしょうか?」
「はい。ですが、ヒランヤはあなたたちとの戦いを望んでおりません」
「戦う気はないと?」
「もちろんです。ヒランヤの影響力はとても小さく、『真理』を陣取るのが精一杯でした。あなた方にもたらされたスキルの力をもって私たちと共闘していただきたくここで待っておりました」
随分な物言いだな。
はいそうですかと受け入れる気にはなれない。
父は何かを考えるかのように目を閉じ、紬は俺の目を塞ごうとしてきたので彼女の手を払いのけておいた。
「蓮夜。まずは彼女の言葉を聞いてみよう」
「分かった。ピラーができた時からいままでのことで知っていることを順を追って話をしてもらますか?」
「はい」と肯定し、その場で両手を上げる緑の髪の人。
ふわさと髪の毛があがり、見えそうで見えなかったものが……おい! 紬。いい加減にしろよ。
「ログハウスの扉を開けてネ」
「浅岡たちには後からでも」
「扉を開いてネ」
「……目が怖い」
ログハウスを出すと紬が中から毛布を持ってきて長い耳の人に投げた。
「これは? どうすれば?」
「ここにエロガキがいて、その姿だと集中できないみたいだから、それをぐるっと体に撒いてネ」
「分かりました。仰せの通りに」
長い耳の人が毛布をローブのように纏う。
紬によるハプニングがあったが、ようやく彼女から話を聞くことができそうだ。
彼女の名前はラージャナ。彼女の住む世界は地球とは別の世界。
他の惑星から宇宙船に乗って来たのかと思ったが、そうではない。
彼女らの世界に宇宙船を建造するだけの技術は無く、「世界越え」をして地球も世界に取り込もうとしたのだそうだ。
その楔として原初の塔ができた。
ならそのまま地球を取り込めばいいじゃないかと思ったが、話はそう簡単ではないらしい。
楔を打ち込むことはできても、世界と世界を繋げるのは相当に大変なのだって。
彼女の世界の法則が混じる場所がピラーである。そうやってどんどんとピラーを増やしていき、彼女らの法則で地球を塗りつぶす計画なんだって。
しかし、取り込まれる側は取り込まれる側で拒絶反応を見せる。異物を排除せよと人間の体でたとえるなら白血球がばい菌を排除するかのように。
そこでもたらせられたのがスキル。
取り込む側としてはこのまま時間経過を待つ。取り込まれる側の俺たちはスキルの力を使ってピラーを排除するといった構図だ。
こんな対立構造があったとは……。
彼女の話はまだ続く。
ここから本格的にややこしくなってきて、思考を投げそうになったんだよな。
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