第13話 介入!

 ギルド合同のインスタントピラー攻略ってどういうものなのかと隠遁で姿を隠し遠巻きに見守っていたが、「なるほどな」と膝を打つ。


『普通はソロで30階も登れないよ』

『俺が特殊なのは理解したって』


 隠遁は俺の持ち物の姿も消してくれる。スマートフォンのバイブと音の設定をオフにすれば、こうして浅岡とメッセージのやり取りをすることに支障はない。

 浅岡の分身たる二頭身の影は俺の肩に乗りじっとしている。

 声を出すと聞こえてしまうし隠遁も解ける。なので、彼と会話できる状態にありながらこうしてメッセージでやり取りをしているわけだ。

 通常、能力者でも一般の人でも動き続けることはできない。

 人によって体力は異なるが、戦闘をしながらだったら疲れないスキルを持っていれば話が異なるものの、数階登ると疲れる。

 上に登れば登るほど敵が強くなるわけで、余計に疲労がたまるだろ。

 となったら、休息を取らなきゃならないのだけど、モンスターは待ってくれない。

 じゃあ、どうするのかというといくつものパーティを作って交代で進んで行くのだ。

 攻略パーティと休息パーティ、そして休息パーティを護るパーティと3つに分けると休むことなく進んで行ける。

 休むことなく……は少し語弊があるな。進み続けると休むパーティでも歩き続けることになるので、数時間ごとに攻略を止めて交代で完全休息する。

 俺? 俺は休む必要なんてない。

 吸収すれば体力が回復するから。モンスターを倒して行けば能力アップしながら延々と進み続けることができるのだ。

 問題になるとしたら俺の精神力くらい。

 

 今、父は攻略パーティでモンスターと戦っている。今のところ全く問題ない。

 ギルド合同パーティともなれば、1パーティの人数が5人な上に5パーティもいるんだぜ。

 聞き耳を立てていたら、うち1パーティは20階で離脱、更に30階でもう1パーティが離脱するんだって。

 そんなこんなであっという間に30階まで到達し、パーティの再構成がされた。

 父はもちろん残留。

 ここで離脱するなら彼が死亡する未来なんてなかったからな。

 もし、影兎としてギルド合同パーティに参加していたら父と同じ組になれなかったかもしれない。浅岡様様だよほんと。

 

 順調順調。

 苦戦することが何度かあったけど、父のパーティに限ってはそうじゃない。

 残りパーティの中じゃ頭一つ抜けているんじゃないかな。

 彼は豊富な経験から司令塔の役目を担い、メンバーの特性を生かして的確な指示を出している。

 本人のスキルはパーティメンバーを強化するものっぽいな。前衛の剣が光ったり、自分が放つ銃弾が光ったりしている。

 一体どんなスキルなのか聞いてみたいけど……無事、インスタントピラーを出ることが出来てからだな。

 ひょっとしたら、俺がここに来たことで運命が変わっているのかも――。

 

 なんて甘いことを考えていたことが俺にもありました。

 50階に先に進んだ攻略パーティを追いかけるように父を含む護衛パーティも50階に足を踏み入れた途端、視界が切り替わったんだ。

 攻略パーティも後から追ってきたはずの休息パーティの姿も見えない。

 幸い、護衛パーティの傍にいたからか辺りを窺う父の姿を確認できた。

 

「分断トラップだ。降りる階段を探すぞ」

「滝さん。分断トラップとは一体?」


 父が冷静に指示を出す。

 彼の発言の驚いたように質問をしたのはフルフェイスに重たそうな鎧を着ているどこのファンタジー世界から来たんだよって人だった。

 声を聞いてビックリしたよ。

 パーティメンバーのあの人……女の子だったのか。

 

「俺も経験したのは二度目だ。50階以上になると色んなトラップがある。合同パーティで挑んでも攻略しきれていないのはそういうことだ」

「『運』も必要……ということでしょうか」

「実力不足だよ。例のパーティはたった四人で99階まで到達した」

「はい……」


 落ち込むフルフェイスの女の子の肩をポンと叩きニヤリと微笑む父。

 彼なりの安心させようとする態度なことを俺は知っている。でも、初対面だと悪だくみしているようにしか見えないって何度も言ったのに。

 

「滝さん。この階層……壁がありません」

「ッチ。ダブルトラップか」


 筋骨隆々の30代前半くらいの男が掠れた声で父にそんなことをのたまった。

 顔面蒼白になった男に対し、父が舌打ちする。

 何だ。何だ。

 壁がない? そんな階層はなかったはず。

 

『君は経験したことがなかったかい?』

『分断トラップ?』

『そっちはソロの君には発動しない。壁が無いモンスターハウスのことだよ』

『あったような、なかったような』


 と浅岡とやり取りしている間にも父のパーティは小走りで進み始めた。

 迷いなく進む彼らは階段を見つけた? いや、そうじゃない。

 外壁を目指していたらしい。

 

 俺はと言えば、彼らを追いかけつつもまだモンスターの気配も遠かったもので、浅岡にモンスターハウスって何だと聞いている。

 呑気なものだと思われるかもしれないが、今の状況を知りたい。

 

『フロアに壁がない階層のことだよ。丸見えになるし、音も遠くまで届く』

『モンスターがいつも以上に集まって来るから、モンスターハウスか』

『ご名答』


 そう言えば、あったような無かったような。

 俺の場合は階層を登るとひたすらモンスターを狩り続けて一つ上の階層でも戦えるくらいまで能力アップを行う。

 俺にとってモンスターハウスは労力が少なくて済むラッキーフロアになるので、気にも止めてなかった。

 前述の通り、吸収さえしていれば体力的な問題がないからな。連続戦闘大歓迎で時間がかからず次の階層に行くことができる。

 

 なるほど。父さんは良く考えている。

 壁を背にして戦いつつ、じわじわと隅に向かっていた。隅なら後ろと右か左が壁になるので、戦いやすい。

 ある程度モンスターが落ち着いて来たら階段を探そうって腹だな。残り2パーティもこのフロアのどこかにいるはずだから、モンスターを仕留めたら手助けにもなる。

 もちろん、他のパーティもモンスターを仕留めているので時間が経てば自然とモンスターの数が減っていく。

 それでもあとどれだけ狩れば一息つけるのか分からぬ状況では精神的にも削られる。

 一撃を喰らわせ弱ったモンスターが少し後退したところを、フルフェイスの女の子が追い打ちにかかる。

 

「ダメだ! 突出するな!」


 ここはモンスターの方が上手だった。

 後退したモンスターを餌に出てきた女の子を痛撃しようと二体のモンスターが襲い掛かる。

 彼女を庇うように前に出る父。

 

「滝さん!」


 彼女の悲痛な声が響くも、襲ってきたはずのモンスターに動きが無い。

 それどころか、二体のモンスターは光の粒となって消えようとしていた。

 

 楽勝だったよ。俺に全く注意が向いていなかったからな。

 そうか。父は彼女を庇おうとして怪我を負ってしまったのか。この状況じゃ、怪我で動けなれば生還が絶望的になる。

 

「一体、何が……」


 元の隊列に戻った父が顔をしかめた。

 ここからは俺のターンだぜ。

 浅岡の影が俺の肩からふわりと浮き上がり宣言する。


「モンスターの横取りは本来マナー違反ですが、影兎。参戦します」


 彼らからは俺から離れ隠遁が解除された二頭身の影は見えるものの、俺の姿は見えていない。

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