第41話 原初の塔・病 ボス戦 その1

「素敵! ベッドを持ち込みたいネ」

「寝袋ならほらそこに」

「う。素敵なお部屋に寝袋だと却っていやーな気持ちになるネ」

「狭いよりはいいだろ」

「それを言っちゃあいけないよお。だんなー」

「どんなキャラだよ」


 頬を膨らませて指を左右に振られても元ネタが全く分からん。

 ははは、と笑うと木の香りが口の中に入ってきて、思わず頬が緩む。

 

「蓮夜。こいつはキャンプの拡張版でいいのか?」

「たぶん」

「外のモンスターが湧いてこなくなるまで倒さなくても休憩できるようになったな」

「手に入れた中では一番がこのスキルだと思う」

「確かに。こいつはいいな。男心をくすぐるログハウスだ」


 縄梯子に手をやった父がロフトへ目線を動かす。

 ウズウズしている父に向け顎を上にあげたら、さっそく縄梯子を登って行ってしまった。

 全く。どっちが子供なんだか、だよ。

 ロフト上には小窓があるらしいのだけど、外は見えないんだって。

 と、父がどうでもいい情報をくれている間にもペットボトルを開け、携帯食糧チーズ味を食べる。

 

「えー。モンスタースキル解説を始めます」

「ぱちぱちー」


 唐突に宣言したらさすがの父もロフトから降りて来た。

 

「自動回復(大)はまんまだな。自己治癒能力が激しく上がる。多少の怪我なら僅かな時間で元に戻る」

「ゾンビみたいだネ」

「言い方……。陽炎は俺の体をブレさせて攻撃を当たり辛くする。入れ替えスキル候補だな。流水は敵の攻撃を受け流す。一発限りで硬直があるのが難点だけど物理以外でも有効だ」

「一発凌いで次が来たらまともに喰らっちゃうネ」

「そうなんだよな。使いどころ次第かな。三日月は斬撃を三本同時に飛ばすスキルだ。ナイフを投げるより早い」

「その分硬直があるの?」

「俺の場合だとダガーだけど、ダガーをこう振り抜かないとダメだ。硬直はないけど動作が大きい」

「ナイフでいいんじゃなイ?」

「使いどころだと思う。ナイフと違って威力があるみたいで、ダメージが入るはず。フェイタルポイントを直接狙えない敵への牽制に使えると思う」

「う、うーん。もうちょっと頑張りましょう?」

「はは。残り二階層だけど、敵のレベルが上がるから良いモンスタースキルがあるかも、と期待しよう」


 これでもマシなモンスタースキルを選んだんだよな。

 俺の場合はさ、攻撃力アップとか魔法って微妙で。回復魔法や補助魔法は何故かモンスターは持っていないし。

 全体攻撃なんてものも、使いどころがない。

 今のところ、俺にとって最強の攻撃はエイミングで、一度に複数ターゲッティングできるエイミングとかがあれば大喜びなんだが……無いのかな……?

 耐性も状態異常以外に炎耐性とか炎無効のようなものがあれば神スキルだが、今のところ炎耐性(小)にもお目にかかってないぞ。

 原初の塔はモンスターの系統が階層ごとに違うから運悪く巡り合ってないだけの可能性も多分にある。

 別の原初の塔や250階くらいあるインスタントピラーなら状況が変わるはずだ。

 原初の塔・病をクリアしてからの話になるので、捕らぬ狸の皮算用はしないでおく。

 

 ログハウスで一晩を明かし、意気揚々と外に出る。

 モンスターが復活していたので全て仕留め、いよいよ298階へ。

 作戦通り、モンスターが出て来なくなるまで狩り続け299階へ突入した。

 

 ここでついにログハウス以来の準神スキルをゲットしたんだ。

 その名も「分身」。

 俺の影分身を作り、攻撃をトレースしてくれる。影分身だけに浅岡の影のように真っ黒なのだけど、ナイフを投げるとナイフの形をした影が飛ぶ。

 影のナイフにエイミングを付与したら、思ったところに飛んでくれるのだ。

 つまり、俺の攻撃回数が倍になった!

 難点は少しでも衝撃を受けると影が消えてしまうことと、二回影のナイフを投擲しても同じく分身の効果が無くなってしまうこと。

 もう一つ、過去の未来で最後に使ったモンスタースキル「鳴動血脈」も手に入れた。

 どんな装甲も切り裂くことができる、と脳内に情報が刻まれたが、発動には大量の血液が必要になる。

 正直、三日月の方が使えそうだったけど、スキルロックすると新たに手に入るスキルも無くなってしまうので上書きで「鳴動血脈」となった。

 戻って三日月を獲得してきても……となるほどのスキルでなかったからこのまま行くことにしたのである。

 

「いよいよだ。300階へ行く」

「ボス部屋じゃない可能性もある。登ったらまず確認だ」


 宣言すると、父の言葉が返って来た。

 彼に向け頷きを返し、今度は紬に顔を向ける。


「うん。俺も真っ先にやりたいことがある。確認は紬の能力で頼む」

「分かったー。任せて」


 両手を胸の前でグッと握りしめた紬は満面の笑顔でそう答えたのであった。

 

 ◇◇◇

 

 300階。

 予想通りボス部屋だった。原初の塔でもインスタントピラーとボス部屋の様子は変わらない。

 仕切りがなく、窓がある。流石に300階と高いだけあって窓から外を見下ろすと絶景が映るのだろう。

 見ている余裕なんて全くないのが残念なところ。

 景色を見ようなんて余裕がないと言いながら、大して危機感を覚えていないんじゃないか? 

 いやいや、決してそのようなことはない。

 ボスの余りの異常さに感覚が麻痺してしまっているんだ。

 

 胸から上は筋肉質なハゲ頭の人間の男のような姿で、下半身は蛇のようになっていて、尾が四つに別れている。

 上半身が人間で下半身が蛇……となるとゲームにも出てくるナーガというモンスターを想像するかもしれない。

 こいつはそのようなものではない。体中がボコボコと泡が立ち、表皮で弾け、ドロリとした液体が床に落ち煙を上げている。

 見るだけで鳥肌が立ち悪寒が走るのだが、不気味さなど吹き飛んでしまうほどの悪臭が何よりもきつい。

 どれだけの悪臭でも鼻が麻痺するものと聞いているけど、全く持って変わらない。


 ブン。

 腐臭漂うナーガが腕を振った。

 液体が飛び散り、咄嗟に体を引いて回避する。


「な……」


 僅かに液体が付着した部分がぶすぶすと煙をあげて腐食し始めた!

 慌てて上着を脱ぎ、放り捨てる。

 一方で脱ぎ捨てた上着はみるみるうちに腐食しつくされ泥に変わってしまう。

 一滴でもあの液体が直接肌に触れるとマズイ……。

 五本首の竜ほどの速さと力は無いようだが、漏れ出た体液だけでこれなら本体はいかほどのものなのだろうか。

 厄介なことにフェイタルポイントが見えない。床についた蛇の下か、背中側か、それとも脇の下なのか……相手を動かして探すしかないか。

  

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