第37話 レッツ、パワーレベリング 二度目
火球が重力の青い壁を突き抜けてきたところをダガーで斬って消し飛ばす。
「先輩! 魔法って消せるものなんですね!」
「魔法は対象に当たれば効果を発揮するみたいでさ。武器も体に当たるのと同じ判定になるんだよ」
「壁は判定外になるんですね」
「どんな判定がされているのか謎だよな……」
重量の壁は当初予想した通り、紬のスクリーンのようにどんな攻撃も弾くと言うわけじゃなかった。
爪とか牙とか矢といった明らかに「物理」と分かるものについては、物理法則が適用され重力によって下に引っ張られる。
しかし、火球とかブレスといったものは重力の影響を受けずに貫通してしまうのだ。
いやいや、炎であっても物理法則を受けるだろ、と俺も納得いかないのだけど、事実がこうなのだからそういうものだと受け入れるしかない。
俺と琴美が会話している間に父の持つリボルバーが火を吹く。
右のゴブリンスナイパーは眉間を撃ち抜かれ倒れ、もう一方の左肩辺りにヒットした弾丸は装甲を撃ち抜くことができず弾かれた。
続いてもう一発父が銃撃し、残ったゴブリンスナイパーの眉間にヒットする。
「蓮夜。フェイタルポイントに当たっていたか?」
「当たってるように見えたけど、微妙にズレているかも」
「実戦で使うには厳しいか。フェイタルポイントを見ながら突き刺すことができる蓮夜以外には使いこなせそうもないな」
「ダメかあ。ひょっとしたら赤い点が見えてないとダメなのかもな」
お察しの通り、ゴブリンスナイパーの左肩辺りにフェイタルポイントがあった。眉間は所謂一般的な弱点に当たる。
30階辺りなら弱点を調べることができるけど、50階以上となるとそうはいかない。
なので一般的な弱点をまず狙うんだってさ。眉間、首、あとは魔獣タイプなら毛のない部分とか。
しっかし、銃弾をあっさり弾くとは……特に頑丈そうな鎧を纏っているわけじゃないゴブリンスナイパーだと言うのに。
父の銃弾は軍が使う銃とは比べ物にならないくらい威力がある。
彼のスキル「スリーアローエクスプレス」で強化をしているからな。
スリーアローエクスプレスは武器、ステータス、耐性と何でも強化可能。ただし、同時に三つまでという制約がある。
◇◇◇
今の二人では55階が限界だった。「自分の身の安全を確保できる」という意味において。
父と琴美も階層は違うにしろ、紬と同じ問題にぶち当たる。
持っているスキルによってレベルアップによるステータスの伸びが違うのだけど、結局は同じこと。
モンスターを倒してレベルを上げる場合、自分のレベルに対し低い階層だとレベルが上がらなくなるんだそうだ。
そのため、高い階層へ挑むわけだけど対応できる階層でレベルが上がらなくなるまでがその人の限界となる。
何が言いたいかというと、モンスターが強くなる速度がレベルアップによるステータスアップより大きいのだ。
人によってステータスの伸びが異なるので、登ることのできる限界階層は異なるけど、今のところご存知の通り100階くらいが限界になっている。
俺はレベルに左右されないから、上へ上へ登って行くことができるのだが、300階での急激な敵のレベルアップについていけなくなった。
なんてバランスの悪いゲームなんだよ。ピラーって奴は。
クリア不可能なゲームはゲームですらないか。
過去の未来で死ぬ前に同じようなことを愚痴っていた気がする。
しかし、この限界を打ち破る手段はあるのだ。
身を護るだけなら更に上の階まで登ることができるからな。後は俺が敵を全滅させればいい。
紬の時と同じ手段である。
レッツ、パワーレベリング。
「蓮夜。任せておいて悪いが、状態異常には気を付けろ」
「毒・麻痺・睡眠・恐怖なら大丈夫だよ」
「残すは石化、出血、混乱か。レジストはレベル依存なのを知っているよな」
「そうだったんだ……」
「階と同じレベル以上なら8割レジストできると言われている。だが、そこでスリーアローエクスプレスだ。俺と琴美の敏捷とお前のレジストに使うぞ」
「助かる」
現在のレベルは43。
うお。レベル表記が43+21となった。スリーアローエクスプレスの効果か。
「俺のレベルが上がれば強化率もあがる」
「父さん。レベル50だっけ」
「そうだ。頼んだぞ。蓮夜」
「おう!」
55階なら全然余裕だぜ!
ガリガリ敵を倒し、登る。そしてまた敵を倒し続け、登るを繰り返した。
結果、70階まで到達する。
73階がボス部屋だったので72階で夜になるまで戦うことにした。
その結果、父がレベル75、琴美もレベル70まで上昇。ついでに俺のレベルも二つ上がった。中々上がらない俺のレベル……。
レジストがレベル依存なら、俺にとってもレベルが重要なんだよな。全耐性(大)を吸収できれば解決するけど、今のところ吸収できるモンスターにまだ出会ってない。
「原初の塔・死」で吸収することができた記憶なのだけど、どんなモンスターだったかなあ……。
「どうする父さん。クリアしないまま戻った方が良さそう?」
「クリアしてもいいんじゃないか? 黒潮ピラーは挑戦する探索者も少ない」
「影兎と屠龍合同でクリアしたことにすればいけそう?」
「いや、影兎単独にすればいい。後は浅岡くんが上手くやってくれるはずだ。恐山の時のようにな」
「分かった!」
そんなわけで黒潮ピラーは消滅したのだった。
挑んだ当初はクリアするつもりはなかったのだけど、放置し続けるとモンスターが出てきちゃう可能性もある。
影兎は既に注目されているし、72階なら影兎単独でも「有り得る話」だから問題ないと父が判断した。
これが90階を越えるのなら自重した方がいいというのが彼の助言である。
「学校で影兎の噂が聞けないのが残念ですね!」
「……夏休みでよかった」
光となって消えていく黒潮ピラーを眺めながら琴美の発言に対しげっそりする俺であった。
その後、浅岡と合流しホテルのレストランで今後の相談をする。俺の過去の未来に関することも話をする予定だったので、琴美には席を外してもらった。
父から黒潮ピラーでの成果について浅岡に伝え、彼からも現状報告を受ける。
「この場で詳しくは控えたい。東京に戻ってから蓮夜の部屋で」
「盗聴器の類いは念のためチェックしてからにしようか」
父の言葉にギョッとして思わず聞き返す。
「盗聴器……まさかそんなものが」
「有り得るぞ。影兎だけじゃなく、連夜と浅岡くんの個人アカウントへの攻撃も激しさを増している。突破できないとなると実力行使もある」
いやいや、まさか、と思ったが浅岡と父の真剣な顔から考えを改めた。
琴美と父の二人とパワーレベリングしたことで、原初の塔クリアの道筋が朧気ながら見えてきた、と思う。
運次第なところもあり、悩みどころだ。
だけど、母の容態とサイバー攻撃の様子を鑑みるに……急いだ方がいいことは分かる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます