第43話 原初のクリスタルに触れ願えば、新たな道が開かれん
「な、何とか……倒した……」
「蓮夜くん!」
「蓮夜!」
父と紬が駆け寄って来る。そのまま紬は俺の胸に飛び込み強く抱きしめてきた。
「最後、ありがとうな。よく音楽を奏でることができたな」
「あの臭いのが背を向けたじゃない。それでこっちに煙がこなくなったんだヨ」
「そういうことか。後ろに回り込んだことも無駄じゃなかったってことだな」
「そうだネ!」
紬から体を離し、父に向け手を高く上げる。
ほら。ほらほら、と目で合図するが気恥ずかしいのか上げようとした手を元に戻し目を逸らされた。
「息子が血みどろになりながら頑張ったというのに……」
切なそうな声でそう言うと、やっとこさ父がパアンとハイタッチをする。
中年がもじもじしていても誰も得しないんだから、素直に喜びを表現してくれよ。
少し弄り過ぎたかもしれない。
俺だって内心、面と向かって父に礼を言うのは気恥ずかしくてさ。それで、思いついたのがハイタッチだったのである。
「蓮夜くん」
父と俺がやんやと攻防をしている間に光と化した腐臭漂うナーガの跡に巨大な青い宝石が出現していた。
その宝石は地面から浮かんでおり、長さは約1メートル。上部と下部が円錐状になっていて、中央は円柱という形をしていた。
宝石……と呼ぶより青いクリスタルと呼んだ方がしっくりくる。
とてもゲームぽい形をした宝石なんだもの。
宝石の出現と合わせてクリアの証である扉も現れた。
「ふう……」
扉に手をかけようとしたら父にガシッと腕を掴まれる。紬にまで「違う違う」と首を振られてしまった。
クリアしたら扉を開ける。これが俺のジャスティス。
「ダメだよー。こんな大きな青い宝石をそのまま外に出しちゃ」
「ログハウスの中に運んだ方がいい。あの空間はお前以外開くことができないからな」
パーティを組んでかつ俺が許可すればその限りではないと注釈がつくが、ログハウスの中はどれだけ凄腕の盗人でも侵入することができない。
確かに、この青い宝石のサイズはかつてない大きさだ。
これまで俺が見た中で一番大きい青い宝石は親指の先程度。299階の雑魚モンスターから拾ったものだ。次がインスタントピラーのボスが落としたものだったと思う。
並べて見比べたわけじゃないから、290階以降の雑魚モンスターが落とす青い宝石の方が大きいかもしれない。
ところが、原初の塔・病のボスが落とした宝石は1メートルなのだから、どれほど規格外か分かる。
原初の塔・病は閑散としていて、外も日本のマスコミが多少いる程度だ。今も待ち構えているのか分からない。
だけど、何かしらのカメラが原初の塔・病を監視していることだろう。
扉を開けてクリアすれば、原初の塔は光と化して消える……はず。他のインスタントピラーと同じであれば。
したら、巨大な青い宝石も白日の下にさらされるってわけだ。
うんうんと俺が考えをまとめているってのに、父が巨大な青い宝石を抱えでいるではないか。
何故かそこから動かず固まってしまっているが……重いだろうけど、力を入れれば運べるだろ。今の俺たちのステータスをもってすれば発砲スチロールを運ぶようなものだ。
「父さん?」
「紬ちゃんも振れてみてくれ」
「うん? え、これ……」
何だ何だ。巨大青い宝石に触れると何かが起こるのか?
じゃあ俺も、触れてみようぞ。
『原初のクリスタルに触れ願えば、新たな道が開かれん(再使用不可)』
「新たな道ってどういうこと?」
「蓮夜はレベルが足りてないからメッセージがでないのか。続きがあってな」
「レベル……だ、と……俺は何故かレベルアップが遅いんだよな」
「どうやら一度だけだが、原初のクリスタルを使って『転職』可能みたいだ。こう表現されている『原初のクリスタルは一度限りですが神殿の効果があります。転職をしますか?』とな」
「へええ。神殿ってところで転職ができるのか。そもそも父さんや紬、そして俺の『現在の職業』て何なのだろうな」
「紬ちゃんはスキルが職業ぽいから違うかもしれんが、俺と蓮夜は『無し』じゃないか」
転職のメッセージが脳内に浮かぶのってレベル255だったか。
まだまだ遠い……。転職よりレベル50ごとにストックできるモンスタースキルの数が増えることの方が嬉しいな。
255までいけば、更に三つモンスタースキルを保持することができる。
「う、うーん。ミスティック、ミンストレル、バードメイジ、の三つから選んでくれって」
「俺と違うな。俺はブラックスミス、ティンカリング、エンチャンターの三つだ」
何故か全部横文字……。
紬の固有スキルは指揮者だっけ。近いのはミンストレル(吟遊詩人)だろうか。
「転職したら元々持っていた固有スキルはどうなるんだろ」
「推測でしかないが、元々持っているスキルに応じて選ぶことのできる職業が変わるんじゃないか」
「スキルツリーみたいに考えればいいのかなあ」
「かもしれん」
首を捻る俺と父に向け、紬が「はいはいー」と手を上げた。
「滝さんのスリーアローエクスプレスが消えちゃったら、ボスを倒すことができなくなっちゃうよね。だったら、私が先に試してみるヨ」
「紬の魔曲も必須だと思うけど……」
「そこは新たな力の目覚めで、ネ! 一番遠そうなものを選ぶよ」
「ミスティック?」
「うん。神秘? 巫女? どっちの意味か分からないけど、紬ちゃんなら巫女さんかな?」
「まあ、うん……そうだな」
「蓮夜くんの希望があれば聞いちゃうヨ」
「バードメイジだったら今の魔曲に加えて魔法も使えちゃいそうじゃないか? ミンストレルなら魔曲がより強力になるかも」
「蓮夜くんは堅実な道よりギャンブルで熱狂するような子かと思ってたのにー」
「そのたとえ、止めろ! 父さんはどう思う?」
振られた父は腕を組み、「そうだな……」と一人呟く。
「俺たち三人のパーティの場合、アタッカーは蓮夜のみ。俺と紬ちゃんは蓮夜のバフか回復、もしくは敵にデバブか攻撃を無効化するか……などサポート役だ」
「今できることは滝さんのバフ(強化)と私は自分達の身を護る壁役かナ」
「バランスが取れていると思う。蓮夜をサポートするにもモンスターが強力過ぎて壁がないと、な。最高レベルが320。そこまで行っても、壁なしじゃ250階……も厳しいかもしれん」
「ほんと、バランス調整ができてないゲームだよネ」
「全くだ。紬ちゃんと俺に関して攻撃手段は必要ない。『他の』原初の塔がここのボスと同じくらいの強さなら、今のままで安定している。それでも、俺は転職することを推す」
指を一本立てた父がニヤリと笑い続ける。
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