第40話 ログハウスは神
順調だ。父と紬もレベルさえ上げればモンスターの動きについて行けるようになっていた。
父の分析によると、少なくとも今の日本最強メンバーでは130階くらいが限界じゃないかとのことだった。理由は言わずもがな。
レベル限界である。
130階のレベル限界は150。レベル150だと130階のモンスターで苦戦しつつも何とか倒していける程度だろうと言うのが父の言葉だ。
131階になったら敵のステータスの方が探索者を上回るので生きるか死ぬかになってしまう。この状態で限界レベルまで上げていくことは難しいだろうとのこと。
じゃあ、上の階まで行ける人がパワーレベリングすりゃいいじゃないかという話だが、日下風花を超える逸材はいない。
彼女の限界が通常到達できる限界になる。
ただし、俺を除く。
少なくとも俺は吸収によってステータスを上げていけば299階まで対応可能だ。なので、父と紬のレベルを引っ張り上げることができる。
二人が付いてこれるようになると、彼らのサポート能力で俺の対応能力があがり、楽々レベル上げができるようになるって寸法だ。
てなわけでそれほど苦労することもなく235階に到達。
父と紬のレベルを255まで上げた時、変化が訪れる。ちなみに255まで上げても二人は自分の身を護ることに集中していた。
モンスターを倒しながらになると、紬はスキルが攻撃に繋がるものではないし、父も今のレベルで160~170が限界とのこと。
そうそう、変化のことだった。
「転職可能とメッセージが出ているが、やり方の記載がない」
「私の方も同じだヨ」
と、二人が首を捻る事態になっている。
「スキルがパワーアップしたりとかしてないのかな?」
「特にはないな。レベルに応じて強化率は上がっているが……」
「私もー」
う、ううん。よくわからん。
どこかに転職をしてくれる爺さんとかいるのかもしれない。
しかし、ピラーで会話のできるモンスターに出会ったことなんてないんだよな。
ゲームだと友好的なNPCがいたりするのだけど、ピラーはそういうゲームじゃないらしい。
「俺はあと一つでストック数が一つ増えそうだ」
「順調すぎて怖いくらいだな」
父の発言に俺も同意する。
パーティメンバーが三人なので分断のトラップとかもなく、モンスターハウスも今の俺たちにとっては脅威ではない。
むしろ、レベル上げが楽になるボーナスステージである。
「いくら『別ゲーム』の蓮夜くんと一緒でもここまで登ってこられるなんてネ。自分のステータスにもビックリだヨ」
「既に世界記録を100階以上更新している。僅か一日で、だ」
「外は大騒ぎかも?」
「どうだろう。浅岡くんがある程度抑えてくれている」
父の言葉を聞くまで世界記録とかすっかり飛んでいたよ。
目立つことは変な輩を引き寄せる。俺は名声なんてものを欲していない。
動画サイトやテレビで騒がれるなんてことは望んでいないし、自分の顔が映るなんてことを想像するとゾッとするよ。
浅岡が見えない戦いをしている相手は単に興味本位な者だけじゃないだろう。政府系も混じっていた。
彼らがどのような目的をもって俺たちのことを調べようとしているのかは分からない。
少なくとも、彼らが俺にもたらすものは良い物じゃあないことは確か。
「クリアしたらどうやっても隠しようがないよな」
「まあそうだな」
「なら、クリアするまでは無心で突き進むしかない」
「その通りだ。世間をあっと言わせてやろう」
父にポンと肩を叩かれ、対する俺は親指を立てる。
ピラーをもたらしたどこの誰か。見ていろよ。
クリア不可能にデザインしたゲームがクリアされる様を。
俺だけでも父と紬だけでも不可能だった。なら、別ゲーム同士が手を組んだらどうなるかな?
待っていろ。
250階を越えたから次々と有用なモンスタースキルが手に入るようになった。
中には苦虫を嚙み潰すようなモンスタースキルも混じっていたが……。
代表的なのは「超自己浸食」だ。
使用すれば確実に死亡する代わりに全能力値が跳ね上がる。
「超自己浸食」にはすぐに上書きしてストックから消えてもらったけどね。
そうそう。浅岡に300階の五本首の竜と相打ちになったって話をした時に、どんなモンスタースキルを使ったのか話題になった。
その際に彼は「超自己浸食」に注目する。
「跳ね上がる」とは一体どれだけ能力値を底上げするんだってね。
数倍なのか数十倍なのかは不明。モンスタースキルはストックするとどのような効果を発揮するのかが自然と分かる。
だけど、「超自己浸食」に関しては「跳ね上がる」としか分からなかったんだ。スキルを使用した後にステータスを見ておけばと悔やまれる。
もし、相打ちになった時のステータスが分かれば、五本首の竜を倒すことができる。
残念ながら叶わぬ夢となってしまった。
それで挑戦を諦める俺じゃあない。俺だけじゃなく父と紬の命もかかっているんだ。やれる限りじゃなくて、やる。
何て、心の中で決意を新たにしている間にも体は動き、次々とモンスターを仕留めて行く。
そして、297階へ到達した。
ここでモンスターが出て来なくなるまで倒し切り、休息に入る。
「父さんの敏捷強化があるから、この階でも全く苦労せずにいけたよ」
「狩り尽くした後でも、モンスターは再度出現するはずだ。どれくらい待てば出て来るのか不明だけどな」
「この先は恐らくあと3階層」
「残り298と299階はモンスターを狩り尽くして進む、でいいか?」
「うん」
床に腰を下ろしふうと息をつくと、紬が後ろからしなだれかかって来た。
実の父がすぐ傍にいるというのに彼女はまるで気にしないんだな。
父は父でいい笑顔をこちらに向けているし。
「ねね。結局どんなスキルになったノ?」
「まだ残り二階層あるから変わる可能性はあるけど、いいスキルが手に入ったよ」
「へえ。どんなどんな?」
「解説している暇がなかったもんな」
「蓮夜。俺からも頼む。俺と紬ちゃんも知っておいた方が思わぬ使い方ができるかもしれん」
浅岡も加わってくれたら、な。と、贅沢な悩みを吐露しつつステータスを開く。
『名前:滝蓮夜
ギルド:
レベル:151
力:10140
敏捷:9790
知性:7650
固有スキル:吸収
モンスタースキル:エイミング、真・隠遁、全耐性(大)、自動回復(大)、ログハウス、陽炎、流水、三日月』
「そうだ。中で休もう。すっかり忘れてたよ」
「キャンプの中に三人はおしくらまんじゅうだヨ」
「それがだな。見てもらう方が早い 発動 ログハウス」
おしゃれな木の扉が出現する。
扉を開くと広々とした木のぬくもりが暖かいロフト付きの部屋が目に入った。
仕切りがなく、ロフトに続く縄梯子が垂れ下がっていて対面型キッチンまで備えている。
広さは20畳程度だろうか。ロフト部分が8畳程度。
家具はなく、元々置いてあった父が持ち込んだアサルトカービンやら食糧の入ったリュックと道具類がいくつかだけ部屋の中央に鎮座していた。
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