第33話 グッド。さすが浅岡
日下風花のパーティがこの場で休息を初めてしまった。
俺たちも同じように休憩しようとしていたし、モンスターがいないとなれば考えることは同じか。
ぼーっと彼女らの動きを見ていることもないかな。
ごくごくとペットボトルに入った水を飲み、携帯食糧の封を切る。
「うん。やはりチーズ味に限る」
「えー。そうかなあ。紬ちゃんはメープル味」
紬と一本交換してメープル味を試す。う、うーん。
これならまだフルーツ味の方がいいかな。
「これならまだフルーツ味の方がおいしいヨ」
「俺と同じことを」
どうやら、お互いの溝を埋めることはできないようだな。
今は紬も一緒だから狭すぎるけど、ソロなら寝袋を持ち込んでおいてここで寝ることもできそうだ。
パーティで進むにしても安全な給食場所として活用できる。
キャンプスキルはエイミングに並ぶ俺的神スキルだな。
呑気に携帯食糧を食べていてもモンスターが新たに出現することはなかった。
この分だと数時間くらいポップしてこないかもしれない。
日下パーティはまだ移動しそうにないし、先に上の階に行ってもいいか。
……の前に。
「浅岡。現在の動きってわかる?」
「また曖昧な問いかけだね。君の質問を推測して答えるとしよう」
「頼む」
「日下パーティは目の前にいる。99階だね。これは外にも知られている。記録更新がかかっていると世間が騒いでいるね。バックアップパーティは90階でストップ。これ以上進むことは危険と判断し、荷物を置いて撤収中。念のために言っておくと僕らは非公式だから誰にも報告をしていない」
「グッド。さすが浅岡」
「褒められても全く嬉しくないね」
原初の塔・死じゃなくインスタントピラーであるが、100階到達は100階到達で同じこと。
日下風花たちアジア最強パーティにとっても未知の領域ってわけだ。
俺にとって記録なんてどうでも良い。攻略は彼女らに任せ、引き続きレベル上げに勤しむとしよう。
公式に日下パーティが攻略を成し遂げる計画なので、そこに俺は手を出すつもりはないんだ。
日下風花から依頼があれば、その限りではない。
そのためのレベル上げでもあるからね。もう一つ目的があって、俺以外の探索者の検証も兼ねている。
「よっし。じゃあ。行こうか」
「進むのかな?」
真・隠遁をかけて紬と手を繋ぐ。
引戸を開け外に出たら、日下風花のみ俺たちのことに気が付いたようだった。
彼女と会話をすることもできないので、すっと彼女らから離れ登り階段を目指す。
◇◇◇
「発動『戦士に捧ぐ協奏曲』」
『全耐性(大)が一時的に付与されました』
登るなりリザードマンの戦士とシャーマンの集団が待ち構えていた。
正式名称は不明。
下層階で出てきたリザードマンがリザードマン・サージェントとリザードマン・シャーマンだったから、オフィサーとかルーテナント辺りかな。
シャーマンの方は名前の想像もつかない。宮廷とかそんな冠がつくとか、その辺?
「紬。無理せずスクリーンに切り替えてくれていいからな」
勇壮な旋律が耳に届き、自然と体に力が入る。
先頭の左利きのリザードマン戦士が剣を抜き、真っ直ぐこちらに向ってきた。向ってくるのは二体で、残り一体は弓を構える。
後ろのシャーマン三体は呪文の準備か。
無防備な弓を構えているリザードマン戦士に向けてナイフを投擲すると共に左右のダガーを引き抜き、低い体勢で駆け始める。
「レベルアップしたから、動き、見えるヨ。大丈夫!」
後ろから紬の声。
応じることはできず、伸びあがるようにして右手を振る。
右のダガーがリザードマン戦士の右肩。鎖骨の辺りを切り裂く。
体を捻り、もう一方のリザードマン戦士の剣を左のダガーで受け止め、右のダガーを投げる。
『スキル「エイミング」を発動しました』
投げたダガーが軌道を変え、リザードマン戦士のフェイタルポイントに突き刺さった。
これで三体。戦士は全て仕留めたぞ。
『全耐性(大)でレジストしました』
『全耐性(大)でレジストしました』
『全耐性(大)でレジストしました』
うは。シャーマン三体は全て状態異常の魔法を放ってきたようだった。
三体目のリザードマン戦士に向けダガーを投げた時、霧のようなものに包まれた気がしたんだよな。
三つ同時だったとは……。
攻撃魔法だったらリザードマン戦士を巻き込んでしまうので密着してれば大丈夫と踏んでいた。なら、来るとすれば状態異常しかない。
こうなることを見越した紬が先んじて「戦士に捧ぐ協奏曲」を使ってくれていた。
彼女の的確な判断は俺がどう行動するかも見越してのものだ。本当に頼りになる。
レベル効果で彼女本来の動きができるようになったようでなによりだ。
『スキル「エイミング」を発動しました』
次の魔法を準備している隙にシャーマンらをナイフで仕留めた。
「よっし。レベル上げ効果抜群だな。100階でも十分いける」
「101階になるとどうなるかは分からないけど、100階なら私も動きについていけそうだヨ」
確かな手ごたえを感じ、再び進み始める俺たち。
100階はリザードマン系ばかりで気が抜けない。彼らは攻撃のバリエーションが多く、群れの構成と配置によってこちらの戦い方を変えていかなきゃならなかった。
同じ配置でも同じように攻撃してくるとは限らないし。
時には味方ごと攻撃魔法で打ち抜こうとするリザードマンシャーマンもいたりした。
しかし、俺もいつもの俺ではない。99階で普段の数倍は吸収を行ったのでステータス的に既に相手モンスターを上回っていた。
敵の動きが止まって見える……とまではいかないが一階層下の敵を相手にしているような感じで戦うことができたんだよね。
レベル上げは偉大である。
しばらくこの階でレベル上げしてもいいかな。紬の魔曲にも頼ることになるので、休み休みにはなるけど。
「レベル上げ第二ラウンドに入りたいと思います。パチパチ」
「一つ上の階を見てからにしない?」
「やる気だね。紬くん」
「あはは。変な口調」
「うちの先生の真似をしたんだけど、似合って無さ過ぎたか」
「威厳が全然ないヨ」
「……それは仕方ない」
「よしよしー。拗ねない拗ねないー」
そんなわけで舞台を101階に移す。
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