第23話 これがAランク、やべえ

「影兎くん。よろしくネ」

「は、はい」


 街中でファミレスに行くかのような気軽さで可愛らしく人差し指を立てられても、困惑してしまう。

 どうしたものかと浅岡の影に目を向けるが、二頭身の影が器用に首を左右に振る。

 共に戦うとなると、吸収スキルのことも知られてしまうよね。


「パーティ組む? それとも、組んじゃうとぱわーあっぷーできないのカナ?」

「え、いや」

「兄さんにも言わないから安心して。影兎くん。知られるのをとても嫌がってるものネ。姿を隠す、マスクを被る」

「ま、まあ。そうです」

「あはは。素直でよろしい。お姉さん、素直な子が好きだぞお」

「は、ははは」


 どうしたもんかなこれ。だけど、吸収スキルのことが知られてしまうより、インスタントピラーをクリアすることの方が優先すべきことであるのは確か。

 彼女の力は知らないが、隠れている俺を感知しているだけじゃなく性別まで当ててしまっただけじゃなく、俺のステータスまである程度見抜いていた。

 鑑定系の能力のみで、護衛を置くことができない二人きりを志願するなんてことも有り得ない。

 彼女の兄は「俺が無茶をしたら連れ戻して」と彼女にお願いしたくらいだ。「現時点」の俺より彼女の方が戦闘能力が高いと判断していいだろう。

 だったら、渡りに船じゃないか。

 今はモンスターが外に出てしまうという緊急事態。一刻も早く解決しなきゃならない。

 俺一人より彼女がいてくれた方が絶対に早く済む。

 

「お、男の子らしい顔になったネ。心境の変化? 女の子を護る男の子の気持ち?」

「どうして……」

「ふふふ。後からそこの影くんに聞くと良いよ。素性を知られたくない気持ち分かるよ。キミ、高校生だよね」

「は、はい」

「やっぱりー。Aランクスキル保持者って知られたら平穏な高校生活を送れなくなっちゃうものネ。分かる分かる。さあ、お喋りはこれくらいにして行こう!」


 ささ、と背中を押され前へ進む。

 右へ折れた広場には大量のモンスターが待ち構えていた。


「バンパイアが三体にスケルタルドレイクが二体。あとはブルーウィスプが二体」

「パーティを組みますか?」

「影兎くんがいいならいいよー」

「蓮夜です」

「蓮夜くん。一人でやっちゃう? サポートするヨ」


 紬は古めかしいギターのような楽器を指ではじく。

 勇壮な音色が耳に届き、自然と体が高揚する。

 

「発動『戦士に捧ぐ協奏曲』」

『全耐性(大)が一時的に付与されました』


 何それ、すごい。

 喉から手が出るほど欲しかった全耐性(大)がこうもあっさりと。

 麻痺・石化・毒・睡眠・恐怖・呪いの6つの耐性がセットになったものが全耐性だ。

 これなら、状態異常を気にせず戦うことができる。

 

「行け、行けー蓮夜くんー。紬のことは気にしないでいいヨー」


 楽器を奏でながらだったら無防備になっちゃうよな。彼女に攻撃が行かないようにすることを含めても、全体性の恩恵の方が大きい。

 ありがたい!

 思いっきり行くぜ!

 

 走りながらナイフを三本投擲。

 

『スキル「エイミング」を発動しました』

 

 バンパイアの額に見事突き刺さり、光の粒と化す。

 肉薄してくる俺に対し、青白い火の玉――ウィスプから青色のレーザーが発射された。

 左右から迫るレーザーをそれぞれの手に持ったダガーで切り裂き凌ぐ。だが、走ることは止めない。

 跳躍し、右のウィスプのフェイタルポイントを突き仕留める。

 と同時に反対側のウィスプから放たれた光を浴びてしまう。

 

『全耐性(大)でレジストしました』

 

 そうこれだよこれ!

 きっとさっきのは麻痺効果のある状態異常攻撃だ。光として放たれたら魔法のように切って無効化することができないんだよな。

 この場合はモンスターの影に隠れるとかしなきゃ回避できない。

 続いてスケルタルドレイクが咆哮をあげ鼓膜がビリビリくるが、これも問題なくレジストする。


「喰らえ!」


 左手のダガーを適当に放り投げ、エイミングを発動。

 残ったウィスプが光の粒と化す。

 スケルタルドレイク二体が残っているが、先ほどより一体少ないこともあり、楽々仕留める。

 

「やるじゃない。蓮夜くん!」

「どうもです」


 右手を高々と掲げ、プルプルさせたままの紬にくすりと来ながら、ハイタッチをした。

 こういうのは俺のノリじゃないんだけど、ずっと腕を降ろしてくれないんだもの。仕方ない。

 

「なるほど。なるほど。この調子だったら、ボスまで行けそうだネ」

「そうありたいです」

「またまたー。モンスターを倒すたびにいくつもレベルがあがっているみたいだったヨ。そのうち紬ちゃんのステータスを越えそう」

「分かるんですか?」

「ざっくりとだけどね! 最初、キミがスケルタルドレイクを倒しているのを見て、これなら、と思ったの。兄さんには黙っていたけどネ」


 コツンと自分の額を叩きペロリと舌を出す紬。

 黙っていた理由。それは俺のことを想ってのことだろう。

 姿を隠し、マスクまでして、となると「俺のことを詮索しないでください」と発していると言っていい。

 彼女はそんな俺の想いを汲んでくれたのだ。

  

「さっきの音楽。助かりました」

「パーティは協力しなくちゃネ☆」


 その後、上へ続く階を探していると何度か戦闘になり十分な能力値を吸収することができた。

 バトルや歩きながら、浅岡と紬から彼女の能力についても聞くことができたんだ。

 彼女の名前は敦賀紬つるがつむぎ。東京某所に住む高校三年生。

 俺が高校生だと思った彼女は「お姉さん」と言ったというわけだった。三年生なら少なくとも年上にはならないものな。

 彼女のスキルは「指揮者」というAランクスキルで、所謂「職業系」スキルの一つなんだって。

 職業系スキルとは戦士とか魔法使いのようなものがあって、いくつもの能力を使うことができるのが特徴。

 魔法系スキルもいくつもの魔法を使いこなすことができるけど、それをもっと幅広くしたものらしい。

 彼女の場合は魔曲と呼ばれる音楽を奏でる能力と、音感知と呼ばれる能力を持つ。

 魔曲は全部で10曲もあってそれぞれ使い分けができるんだって。サポート系の能力であるが、Bランクの戦闘系スキル持ち並にレベルアップ時にステータスアップする。

 さすがAランクスキル。

 Bランク以下とは一線を画す。

 

「Aランクって凄いんですね」

「Sはもっとだよ」

「それでも99階で引き返したのか……」

「あはは。結局ステータスがモンスターの動きについていけなくなるからネ。もっと精進しましょう」

「まさか、紬さんもあの時のパーティに?」

「私はお休みだったよ。兄さんとあたるさん、そして、風花さんともう一人」

「紬さんも参加していたら100階に到達できていたんじゃないですか」

「どうだろうー。5人になるとトラップがめんどくさいんだヨ」


 なんて話をしているうちに56階に到達する。

 紬と行動して初めて分かった。Aランク持ちはとんでもなく強い。それでも、300階はおろか100階が限界なのか。

 ゲーム的だと思っていたが、ピラーとは一体……そんな疑問が浮かぶもモンスターの出現により俺の思考が切り替わる。

 

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