新しい使用人を増やして
ルバートが帳簿をつけながら唸っているのでアシュレイが大変なの?と、聞くといくら給料がいらないと言われても絵師をタダ働きさせるわけにもいけないので‥‥と言って頭を抱えていた。
絵師はミアムと一緒に今日は掃除をしている。ミアムが機嫌よさそうにしている、猫の手も借りたいほどに忙しくて、お手伝いが増えて助かったのである。絵師はスラッシュから服をもらった。真面目そうな雰囲気の青年にチンピラ風のだらしないゆるゆるの服が似つかわしくなくてアシュレイはその様子を見て笑っていた。あれから風呂に入ってミアムから髪の毛を切ってもらい、最初浮浪者だと思ったとは思えない好青年がいる。服はチンピラだけど。
「キャベル、よくやってるみたいだな?」
「ありがとうございます」
忙しそうなミアムのあとをついていって仕事を覚える。時折メモを取り出しサラサラとボールペンで何か書いている。アシュレイが庭に出るとアネモネの球根をスラッシュが植えていた。土をシャベルで掘り起こし、雑草などを抜きながら、丁寧に球根を取り扱っている。ハーブ畑のほうはもう手がつけられない、伸び放題になっているミントは放置されている。庭の一部だけの話だがいくら飲んでもきりがない。
「アイツラ本当にしつこいんですよ」
「植物を人のことのように言うんだな」
ミントのようにしつこい人間はごめんだ。まあ普通の人間は。などとスラッシュが言って多分一面のアネモネが咲いたらそれは見事ですよと誇らしくした。
「俺もなかなかしつこい人間なんだけどな」
「あ、坊っちゃんはしつこいうちには入りません、せいぜいオクラ程度のしつこさです」
オクラ程度のしつこさとはどの程度なのだろうとアシュレイは考えて暇なのでハーブ畑に行って気が済むまで抜いていた。ベランダにある少し神経質なプリムラジュリアンとはこいつらは大違いだ。ルバートがお昼に呼びに来て、坊っちゃん庭師のような真似はおやめくださいと叱責した。
「だって暇なんだもんよ」
「坊っちゃんはリビングでチェスでもやっていてください」
「相手がいないじゃねーか‥‥」
遊ぶ相手がいない。使用人は皆忙しくて、友達もあれから訪ねてこないし、気になる本はだいたい読んでしまった。リビングを通りダイニングへと移動し硬いパンとポーチドエッグに冷製のスープ、来た頃は食べ過ぎだと怒られたのでアシュレイは控えめに食べるようになっていた。それからキャベルがワインを注ぎにくる。ワインセラーもこの屋敷には一応あるけれど、どれも安物の薄い味のぶどう酒ばかりである。ルースの家のように金持ちじゃないのでしょうがない。
「キャベル、屋敷には馴染んだ?」
「まだわからないことだらけですミアムさんについていって‥‥でもだいぶ慣れました」
ごはんをたいらげて、アシュレイがハーブティーを飲み、一人増えただけでも随分賑やかになったと満足気にするのだった。
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