誕生日が来たので

 ルバートが朝手帳を確認すると今日の日付けにはなまるが書いてあった。しばし考えて今日はアシュレイの誕生日だと思い出す。ケーキを作るには材料が足りない。一日に卵は2個しかとれないのだ。牛乳も、薄力粉もたりない。スラッシュがいつものようにサボっているのでお使いに行きなさいと買い出しに行かせた。アシュレイはいつものように起きてきてパジャマから着替えて普段着になっている、ゆっくりダイニングのテーブルにある硬いチーズのパンや野菜のスープ、ヨーグルトなどを口にする。その様子を目を細めながらミアムは眺めていた、まるで生まれたときから貴族だった男爵がいた頃の男爵がいるようだと。


「坊ちゃん、デザートですよ」


 ミアムが出したブルーベリーのスムージーを見て、まだ果物あるんだとアシュレイは驚いた。


「そろそろ切れるのでスラッシュが朝早く買い出しに出かけたらしいです、ちゃんと買ってくるといいのですけど」


「買い物はなんとかできるんだ」


「ええあと花を育てるのはとても得意らしいですよ」


「それは尊敬する」


 しばしミアムと笑って、スラッシュはいつも笑いのネタである。愉快なやつなのだ。ミアムはアシュレイの様子を見てすっかり自分の誕生日を忘れているのだと思った。ナプキンで口元を拭いてゆっくり玄関のほうやガラスの向こうを見ると、アネモネが美しく咲き、アシュレイが自分で植えたビオラが、庭の一部で笑っている。テーブルにあるガーベラの模様の花瓶には野の花が飾ってあった。芳しい匂いがする、騎士団のひとりのオルフェという男の子の家がやっている事業の一つで、カモミールの芳香剤を作り売っている。それを最近大量にオルフェが訪れ置いていったのだ。オルフェは大人しい性格の騎士であまり口をきいたことはなかったのだけれど、急に来たので別に営業とかでもないのにとミーシャに言うと仲良くなりたいのですよと言って笑っていた。


 芳しいカモミールの香りが屋敷を包んで、それを使用人も一個ずつもらった。オルフェという男の子は優しそうで赤い髪の毛をした端正なフェイス、身長はアシュレイと同じ172センチくらいである。比べてミアムはとても小さい、ミーシャが158センチ、スラッシュが190はある、ルバートは175センチくらいだろうか、ミアムは140センチしかないのである。小柄なのを気にしていた。食器棚に手が届かないのである。


「ま、台を使えばいいし高いところにあるものは背の高いやつに取ってもらえばいいよ」


 アシュレイがそう言って慰めるとミアムはそうですねと悲しげにした。スラッシュが買い物から帰ってくるのが二階の窓を拭いていたときに見えた。馬のお父さんを繋ぎに行って大きな荷物を下ろし、はーくたびれたと言ってまた階段に座って煙草を吸っている。ルバートに怒鳴られるのはいつものこと。ミアムはそれでも愛されるスラッシュのことをいつも羨ましく感じるのだった。

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