ミーシャコートを買う
芦毛の駒と黒い馬でミーシャとアシュレイは市場に急いだ。騒がしい市場は金と商品が慌ただしく取り引きされている。フルーツを売っている屋台を通り過ぎ市場を抜けた先にある商店街へと急いだ。アシュレイは園芸用品の店に行き、ミーシャは服屋さんに足を運ぶ。
ミーシャはコートを眺めていたが服にお金を使う習慣がないためかコートはとても高いように感じられる、迷ってコートを選び手袋とマフラーも買った。園芸用品のところに行ったアシュレイを探して大きな買い物のバッグを抱え飛び込むと、植物に詳しい店員からビオラなど如何がですか?等きかれていた。ミーシャは植物のことは何もわからない、胡蝶蘭などのにおいを嗅ぎながら新しい服を買った喜びでスキップしながら店をウインドウショッピングしていると、店員に言われるままビオラを買ったアシュレイが行こうかと話しかける。
「今度からそれを育てるんですね」
「他にも良さそうなのあったけどなんとなく‥‥」
ミーシャはアシュレイは店員の言われるまま物を買ってしまうのだと理解してしまった。
「余計なお世話かもしんないすけどそんなんじゃ男爵と同じ運命になるかもしんないすよ」
すこし厳しいことをいったかもしれないとミーシャは後で思っていたが男爵もたしかにそんな人間だったのである。比べるのもおかしな話だ。しかし男爵という存在は使用人に強烈な印象を与え続けている、破滅に向かって生き続けた悲しい人間。
アシュレイにはそんな風にはなってほしくなかった。
「俺は大丈夫だよ」
察したのかアシュレイは微笑んだ。ビオラの苗を抱え、これからも土いじりをするのだ。
昼からは家庭教師が来る。
「いっけね時間ない、あの人怖いんだよな」
「急いで帰りましょうか」
ミーシャと移動して馬に乗る。リトルコールテインに書いた手紙の返事がまだ届いていなかった。
親に送った手紙の返事も。最近聖騎士団は何をしているのだろう。使用人はたくさんいても親戚ではないし友達ではない。門まで来るとスラッシュが水撒きをしていておかえりなさいと声をかける。それからキャベルがいてアネモネのスケッチをしていた。ミアムは掃除に追われている。ルバートはその手伝いをしている。
馬を小屋に繋ぎに行くとフェンが辻馬車で到着していっけねと言ってアシュレイは自室へと急いだ。ミーシャの部屋には鏡すらない。でも温かいコートを羽織って初めてベッドで寝てスラッシュのような不良もいるけれどここはなかなか居心地がよかった。自分に何かロマンスが起きるとはとても想像がつかなかった。毎日の馬と牛の世話、鶏、たまごの収穫、ヨーグルト作り、チーズ作りに乳搾り、充実した毎日を送っている。多分それで十分なのだとミーシャは思っていた、捨て子だったのを拾われそれからはお屋敷に務める毎日、寂しくはなかった。みんなに育てられ、優しい男爵に可愛がられた。
「でも‥あんなになっちゃうんですよ‥」
誰に聞かせるでもない独り言をあてがわれた使用人の部屋で呟くのだった。
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