アネモネの咲く季節に

 アシュレイが起きてうーんと背伸びをすると、少し肌寒い気がして一枚羽織った。冬だ。

 遅れてルバートがやってくるとすっかりパジャマから着替えて顔も洗い、台所に行く用意が出来ていたのですっかり寒いですねと言って暖炉の様子を見に行った。


 すっかり汚れて昨年の暖炉のままになっている暖炉を見てルバートはため息をついた。その息が白い。

 アシュレイも凍える手をすり合わせている。音楽家にとって冬の寒さは大敵だ。乾燥で喉を痛め、冷たさで指が動かない。仕事にならないのだ。でももう騎士になったから冬の季節をそれほど恐れなくてもよくなった。


「暖炉をそろそろ掃除します、坊っちゃん?」


「プリムラジュリアンが枯れた」


「おや何がいけなかったのでしょうか‥‥」


 毎日世話をしていたのに花が枯れたのでアシュレイは落ち込んでいた。


「霜にやられたのかもしれませんね、また買ってくるとよいですよ」


「そんな問題じゃないんだ」


 花の一生は短い、その代わりベランダから見える一面のアネモネの畑が眩しいくらい目に飛び込んでくる。スラッシュが咲かせたアネモネは時にはオレンジ色で赤い色で朱色のように染まって素晴らしかった。ブルっと震えてアシュレイが中に入ると朝に飲んている白湯が白磁に注いである。

 すっかり寒いので温かい白湯が五臓六腑にしみわたる。

 キッチンに立っていたミアムがルバートから聞いたのかまた買うといいですよと慰めた。


 白磁に温かい卵のスープとヨーグルトそれからチーズ飲まなくちゃハーブまみれになってしまうといわれたハーブティー。それから少しの硬いパン。器用にフォークとナイフとスプーンを使って食べると、口元を紙ナプキンで拭いてごちそうさまと言った、

 皿を下げようとするルバートにハーブは相変わらずなのと聞くと彼らは冬にも負けずに元気いっぱいですとうんざりした表情をした。あれからハーブは無限に増え、スラッシュが草刈りをしているけれど追いつかず、従業員も一生懸命飲んでいるけれど、ミントはしぶとく生き残り今日も葉をつける。


「花を買いにいく」


 アシュレイがそういうと、おいらも行きますと通りかかったミーシャがいった。


「すっかり寒いのでコートの一枚もほしいと思って」


「持ってないの?」


「海賊みたいな服ばっかなんすよ」


「年頃の女の子だもんなあ‥‥」


「そんな大した動機じゃないっす、寒いからです」


 従業員の部屋にはそれぞれ暖房はついてない、暖炉があるのはゲストルームとリビングアシュレイの部屋だけである。新聞を広げてアシュレイが情報をチェックしてキャベルの描いた肖像画が飾ってあるリビングから馬小屋に行くとミーシャが支度をして待っていた。花を愛でる生活にすっかり慣れたアシュレイは今度からは長く愛せる花を買おうと決心するのだった。

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