悪夢

 アシュレイがうなされているのでミアムは心配そうに顔を覗いていた。姉ちゃん‥と言って泣いていたのでアシュレイにはお姉さんがいるのだと初めて知った。


「ミアムか‥‥」


「悪夢を見るんですか?」


「姉ちゃんの夢だよ‥それから坊っちゃんたちの夢‥リトルの弟の夢‥‥」


 ルバートにいつか語ると言った過去の話をすっかり気を許した使用人たちに少しずつ話すようになっていたアシュレイは、顔を叩いて目を覚まして、顔を洗いに行った。部屋には洗面所もある。そこに石鹸もありアシュレイはリアゼハロールのことを思い出す。聖騎士団の連中は元気だろうか、あれから3ヶ月ほど顔を見ていない。聖騎士団に入ったら毎日ドラゴン退治に出かけるのだろうとてっきりアシュレイはそう思っていた。


「聖騎士団は飾りなのです国民に仕事をしているとアピールするだけの特別に何かあったときにしか出動しません」


 かつてルバートから聞いてアシュレイはがっかりした。モンスターをおさめるのは基本冒険者たちなのだ。


「やっぱり俺は一芸で入っただけなんだな」


 亡くなった騎士の後釜で入りこみ、破産した男爵の館を譲り受けて自分の力で手に入れたものは何もないような気がしていた。


「坊っちゃんには音楽があります」


 ルバートはそう言っていた。その音楽ではもう結果をだし、神童として生きてきたアシュレイの末路はこうして田園の広がる大きな屋敷の騎士になること。屋敷にはピアノもある。調律師を呼ぶ金がないので音が狂っているため今は誰も弾いていない。ワルツをやるときは楽士をフェンが呼んでいる。小さい頃から音楽しかやってなかったアシュレイの動きは不安定で剣を握り始めたのはごく最近の話なのだと言うと絶対音感も何の役にも立たないのですねと嫌味を言われた。

 今日はフェンが休みなので使用人と一緒にアネモネを見ながらお昼にした。

 朝早くミアムが焼き上げたパンにハムとチーズを挟んだものとヨーグルトなどといった簡単なお昼だったが毎日重労働をしている使用人たちとの和やかなひとときだった。


「スケッチします」


 キャベルがスケッチブックを取り出してデッサンを始めた、毎朝ミアムの仕事の手伝いをして疲労が顔にあらわれている。絵を描いているときは目が輝いている。


「そうだキャベル、使用人と一緒の部屋を今度から使うといいよ」


 キャベルは遠慮してタオルケットだけでソファで寝ている。使用人の使う部屋は空いているのだ。


「それからミーシャお前も年頃の女の子が鍵もかからない馬小屋で寝ちゃだめだ」


「ああ、俺もそれ気になってた」


 スラッシュがハムを齧って、ミーシャがでも‥‥と言うとアシュレイは強くだめと言った。


「お掃除しないといけませんね」


 ミアムがキャベルに目配せして立ち上げる、アネモネが咲くにはまだ少し早い、草原のような庭で使用人たちとゆったり昼間を過ごし、またいつもの日常がやってくる、変わらない日々、アシュレイは部屋に戻ってリトルコールティンに手紙を書いていた。いつかは書く、ここで一緒に暮らさないかと。何気ない言葉と生活の話を書き綴ると、アシュレイはそのままベットに横になった。

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