家庭教師がやってくる
屋敷の門の前に質素な馬車が止まって、大きな鞄を抱えた妙齢の女性が降りてくる、遠くからアシュレイはその様子を見ていてそれからプリムラジュリアンに水をやった。季節は秋を迎え、庭には芽をだしたアネモネの球根と自然に生えた一面の曼珠沙華、時折黄色いそれは見事に美しく、ハーブ畑のほうにはアザミなどが咲いていた。庭を通り過ぎ玄関に来ると女性はすみませんと声を張り上げた。
「家庭教師のフェンです、ここで間違いなかったですか?」
ミアムがどうぞと言って通すとカバンはこちらに‥と預かろうとしたが私はこれがないと死んでしまうのですなどと言ってふしぎなひとがきたものだと絵師に話すとあまり興味がないふうでふーんと言ってコーヒーを飲んでいた。
ルバートがよろしくお願いしますと言うとフェンと名のった女性は帽子を脱いで頭を下げた。
赤い髪の毛をお団子ヘアにして、育ちのよさそうな清潔なドレスをつまんで歩きアシュレイのほうにやってくる。
「あんたがそうなんだ」
「生意気そうな坊っちゃんですこと躾のしがいがありますわ」
そう言って不敵な笑みを浮かべて手を握る。アシュレイはなんか怖そうなお姉さんが来てしまったとあとでルバートに言っていた。
「優しそうな人じゃありませんか」
「俺にはわかるあのひと母ちゃんと同じ匂いがする」
怖そうな人はなんだかわかる、張り詰める空気がある。その日からスパルタの教育が始まって週ニ程度のマナー教育と勉強が始まったが、アシュレイが疲れた様子でリビングで寝ているので相当つかれるのだとミアムはミーシャに話した。
「何者ですかあの人?」
ミーシャがルバートに聞くと、いろんな貴族の家を渡り歩く先生ですよとだけ言っておいた。絵師はもといた貴族の家の話を語りたがらないので黙っていた。
「キャベルの屋敷にもそんな人いた?」
ミーシャが切り出すと、キャベルはあ‥‥とだけ言って、それから俯いて、うちの坊っちゃんたちは士官学校に通ってましたと小さく言った。
「士官学校か!厳しそう」
「ええ、多分‥‥」
残りのコーヒーを目を泳がせながら飲んで食器を片付けに行くと、そそくさと掃除に出かけてしまった。
「あの人物静かだよね」
ミーシャがスラッシュたちにそう言うと、スラッシュが飲むと結構喋るらしいよと言ってラスクをつまむ。
「え?喋るの?」
「一緒に呑みに行ったけど酔うと少し違うみたい」
「へえ意外」
口数が少ないキャベルのことはウワサ程度にしか知らない、使用人たちはああでもないこうでもないと言って推測を喋るしかない。四人もいれば結構妄想が広がる。本当は婦人と不倫したんじゃないかとかさまざまなデマが流れていた。ワルツをやっているアシュレイは筋肉痛でリビングのリクライニングチェアで瀕死の状態で寝ていた。貴族なので踊らねばならない。さまざまなウワサが流れていたがキャベルは満足気にしていた。おっと怖いな、俺も何を言われてるかわからねーぜと言ってスラッシュが庭に出ていき、キャベルに仕事を教えるためにミアムがキャベルを探す、ミーシャは馬の世話に行ってルバートはアシュレイのミルクセーキを作るのだった。
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