庭師スラッシュの一日

 スラッシュの朝は早いのだが、起きてくるのは遅い。八時ごろになってようやく起きだすと庭の水まきを始める。庭の水まきをしたあとは剪定することになっているけれどだいたいいつも適当だ。これをいつも親方に怒られたなと昔をスラッシュは懐かしむのだった。スラッシュは昔はチンピラだった、髪の毛を紫色に染めてタトゥーを掘りごろつきから金を巻き上げその日暮らしをしていた。17歳ごろになって自分は何をやっているのだと思うようになり住み込みで働ける場所を探し始めたのである。そしてようやくこの屋敷に雇われることになった。その時庭師は二人いてそれは見事なイングリッシュガーデンを作り上げていた。親方から盗めたもの花の育て方だけだったな等と思いながらスラッシュはスイートピーの花壇に栄養剤をさす。二人とも男爵が去った時一緒に去ってしまって帰るところがない自分だけがここに残った。屋敷の経営が苦しいとのことで野菜を作ってみるかと始めたものの苗をいつもだめにしてまう。


「向いてねえわ」


 そう諦めたように呟いてスイートピーを見に来たアシュレイと鉢合わせした。


「あ、坊ちゃん、なんか用ですかい」


「ああ、なんか綺麗だったから見に来た、お前が作ったんだ」


「そうです」


「男爵は女の人にあげるために花をいつも花束にして贈ってました結局騙されたんですけど」


「色々話を聞くけどその人随分慕われてたみたいだなあ」


「優しくて男前でお人よしでした、だから悪い女に騙されるんですよ」


「俺は多分そんなことないよ」


「わかんないっす」


 王都には欲望が多い、煌めくダイヤモンドのネックレス、黒真珠の指輪、金塊、大理石の床、ダチョウの羽根、美しい貴婦人やお嬢様たちがわんさかあってわんさかいるのだ。男爵もそんな欲望に飲まれた哀れな人間だった。


「坊ちゃんは男爵のようにならんでくださいよ」


「なるもんか」


 確かにこの人なら違うかもしれない。つつましいし女に溺れることもなさそうな感じがする。なにかこだわりがある風でもないし仕事もできそうだとスラッシュは思った。ミアムがパンを持ってやってきた。


「あら坊ちゃんいたんですか」


「やあミアムちょっと涼みにきた」


「お勉強頑張ってますものね」


「そうだわ途中だった貴族の連中の名前を覚えないといけないんだよ」


「それは大変……」


 慌ててアシュレイが屋敷に帰ると、つつみからパンを渡してそこでスラッシュと話し合った。


「あの人男爵のようにならないといいよなあ」


「しっかりしてるように見えるし大丈夫じゃない」


「わかんねえよ人間なんてさ」


 パンをかじってスラッシュは仕事に戻った。日が暮れる夕暮れの光が橙色に染まってそのスイートピーの花びらについた水滴に映りこみ夕方の水やりを済ませスラッシュは一日を終えるのだった。

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