来訪者

 立派な馬車が庭の門の前に止まったので、スラッシュは様子を見に行った。金で出来た細工はいかにも金持ちでスラッシュは縮こまってしまった。降りてきた青年はシャツにズボンの簡素ないでたちだったが空気が違う。髪の毛をしゅっと切ってもみあげを作り端正なフェイスはさっぱりしている。その爽やかな青年がスラッシュに話しかける。


「アシュレイの屋敷見にきたんけど」


「へえここは確かに坊ちゃんの屋敷です」


「いわくつきにしちゃ立派にしてる」


 鼻歌を歌いながら青年がなにか包みを持って訪ねた。スラッシュは後ろ姿を見ながら誰か思い出せずにいた。出迎えたルバートがあなたは!と言ってテンションを上げた。アシュレイを呼びに行ってその日ルバートは上機嫌だった。

 夕食の時一緒になった従業員があれ誰と言うとルバートが丁寧に教えてくれた。


「あれはシェンヌ家の末っ子のルース様です」


 パンをつかんでミアムがシェンヌ家って銀行家だったっけって言うと満足気にした。


「へー金持ち」


 妬んだようにスラッシュが言うとルバートは気にせずつづけた。


「シェンヌ家は比較的最近爵位をもらったばかりなのですがそれはそれはお金持ちなのです、そのうち関係者も尋ねてくるでしょう坊ちゃんよい人とお友達なのですね」


「銀行ねえトラウマっす」


 そうだミーシャがいうように銀行は取り立てにやってきた恐ろしいやつらだ。


「彼らはいい加減なことさえしなければ我々の味方なのですよ」


 そう言って微笑み夕食に肉のスープとパンしか出せなかったのを恥じた。


「アシュレイお前立派に館の主やってるんじゃないか」


 ルースがダイニングで食事の並んだ漆塗りのテーブルをじっと見てそれからキラキラとしたスプーンを手に取った。ダイニングテーブルの上にあるほのかな彩りのあるランプが優しさを醸し出している。


「まあ広すぎてちょっと落ち着かない俺の家単なるエルキナの一戸建てだったからなあ」


「広いんだったら親を呼ぶ気はないの」


「連絡とりたくない」


「親きっと喜ぶよ出世したんだからさ」


 そう言ってルースがあたりを見回すと誰もいないなここって呆れた。


 ルースは何年も前から付き合いのある騎士で聖騎士団の同僚である。亡くなった友人をきっかけにしてアシュレイの友達になってくれたのだ。謙虚だったためかアシュレイは長い間そんな大金持ちだったとは知らずにいた。


「あ、そうだコレ親父のワインセラーから持ってきたんだお前いけるんだろ酒」


 濃いエメラルドグリーンの金色のラベルの貼ってあるそのワインは高そうだった。


「また高そうなもんを……親父怒らないの」


「親父は私に関心ないからね」


 ワインを開けてあたりを見回すと、ルースはセルフかと呟いた。


「うち従業員四人しかいねーよ」


「うちから人送ろうか?」


「いやいいよ恥ずかしながら給料が払えないんだもんよ」


 グラスに注がれた赤いワインを口にして、アシュレイは懐かしい人と語り合った。また聖騎士団とは会食がある。こうして訪ねてくるひとがいるということは幸運だ。ミアムも掃除のしがいがあるだろうとアシュレイはすっかり綺麗になった皿を眺めるのだった。

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