朝を迎えて

 ルースはゲストルームに通されそこで一夜を明かした。すっかり酔い、いい気分でうたたねしていたから翌日は二人とも二日酔いだった。メイドに起こされるとすっかり朝で小鳥がベランダで鳴いている。モダンなベッドシーツ、キングサイズのベッドミアムが干していたのでふかふかのお布団、部屋には木製の柱時計とチェストの上に白い陶器のガーベラの模様の花瓶があってそこにスイートピーが飾ってある。スイートピーは可憐な彩りでルースは元の持ち主の趣味の良さに感心していた。


「家具はアシュレイが揃えたんじゃないんだろ」


「そうですね、男爵が揃えたものがそのままになっているのです」


「やっぱりそうか」


 あいつは家具や骨とう品を集めるような奴ではないとルースは思っていた。ルースの家は新参者の貴族なので芸術にことさらうるさくて美術商から絵を買い商人から珍しい東洋のお香や骨とう品を買い集めている。玄関に敷かれた絨毯は奴隷が一年以上かけて編み込んだ贅沢なものだ。ルースは家に帰るたびその金の使い方に嫌気がさしあまり寄り付きたくなくて友達の家を行ったり来たりしている。おとといはフェリクスの家に泊った。伝統的な家柄の屋敷は質素で自分の成金の家とは大違いだった。そんな話を朝食の時にするとアシュレイは俺も新参者だしなーなどといってスープを口にした。


 スープはキャベツとひき肉と玉葱が入っているコンソメスープで、あとは窯で焼いたパンである。すこし固くて固形のチーズが入っている。


「これうまいね」


 ルースが焼きたてのパンを褒めると執事がありがとうございますと頭を下げた。


「このチーズ自家製らしいよ」


「そうなんだうちは買ってるなあ」


「ルバートこのパン誰が焼いてるの」


「一番早起きのミアムです。彼女は本当に優秀です」


 イースト菌で発酵させ、仕込んだあと寝るのだ。そして朝早く焼き上げる。


「あいつなんでもできるんだなあ」


「引き抜かれないといいな?」


 意地悪くルースが言ってそんなの困るとアシュレイが言った。たしかにあんな有能なメイドが給料ももらえないのにここにとどまっているのはおかしな話だ。ミアムが忙しく通り過ぎたのでアシュレイは彼女を呼び止めた。


「なあミアム、お前どこにも行かないでくれよ」


「どこに行く場所があるというんですか私はずっとここにいますここでしか生きていけないんですよ」


 そう一瞬寂しげにしてそのかわいらしい小柄な体がまた忙しく動き回る。自分にはエルキナに帰る場所があるのだとアシュレイは考えていた。どこにも帰る場所がないのですよというルバートたちの気持ちはアシュレイには多分理解できないのだった。

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