侯爵夫人の屋敷で続
アシュレイたちが白亜の豪邸にたどり着くと若かったころはそれは美しかっただろうと連想させるような気品ある老婦人が出迎えてくれた。あなたがアシュレイねと微笑むとぱっと花が咲いたようにいい匂いがする。趣味のいい広い間取りのその豪邸はリビングだけでも本当に広くホームパーティー向けに作られていた。アシュレイを見かけた貴族たちがそれぞれ挨拶にくる。人付き合いだけでも本当に大変だ。ルバートが隣にいてこの方はどんな身分でこの方はどんな事業をしていてと細かく説明してくれるのだがアシュレイは頭がくらくらした。侯爵夫人が寄ってきてアシュレイに話しかけた。
「若くで息子を亡くしたのであの子のこともあなたのことも息子のように思っているわ何かあったらいってちょうだいね」
アシュレイははっとした。あの子とは男爵のことだ。給仕が寄ってきてシャンパングラスにシャンパンが注がれたグラスの乗った盆を差し出す。それを受け取り飲むとこの国の豊かな自然の味がした。炭酸は弱くアルコールも弱いようでそれをいける口のアシュレイはぐびぐび飲んだ。それから楽士が現れリビングにあったグランドピアノで演奏を始める。スローないかにもな貴族たちの好きそうな宮廷音楽。
「あなた宮廷楽士だったんでしょう」
傍に寄ってきた令嬢がささやきかけた。
「そうだけどそれがなにか?」
「歌ってくださらない?」
令嬢は金髪をひっつめにし沢山の髪飾りをつけ揺らしていて桃色のドレスに身を包んでいた。ルバートは珍しく誰だかわからなかったようで知りませんと小声で言った。
「いいよ何がいい?」
「嫁ぐ乙女の歌」
グランドピアノが宮廷音楽をやめて嫁ぐ乙女の歌を伴奏を始める、アシュレイは静まり返るそのパーティで美声を披露した。割れんばかりの拍手が巻き起こり、そしらぬ顔をしてアシュレイが戻ってくると侯爵夫人が素晴らしいわと言って褒めてくれた。
嫁ぐ乙女の歌は民衆の間ではやりいつしか貴族たちも演奏し聴くようになった流行歌である。明日嫁ぐ私をお母さん見守ってくださいといったような歌詞である。ルバートが坊ちゃん凄いといって何故か泣いていた。
「孫の結婚式じゃないんだぞ」
「は、すいませんつい……」
スーツのポケットからハンカチを取り出し涙をそっと拭い、あ思い出したと言った。
「あの方男爵の従姉妹のルチア様です、すっかり大きくなられていま何歳くらいでしょうかねえ」
パーティーがお開きになり、ルチアがそばに寄ってくる。
「今日はありがとうまた会えるかしら」
「多分ね」
その化粧映えする顔立ちからは気品を感じられた。日が暮れる、アシュレイたちが待っていたミーシャのところに戻ってくると歌を唄ったという話をきいておいらも聞きたかったと騒いだ。
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