銀行屋さんの来訪

 朝起きて水をやる。それだけのこともなかなか大変だとアシュレイは土いじりを始めて思っていた。プリムラジュリアンはまだ可憐に咲き誇っている、生えてきた雑草を抜いて手を洗うと朝食だ。魚は食べきったのかウインナーとキャベツのスープにジャガイモのソテーパセリが散らしてある。それから柔らかいパンである。ダイニングでミアムが運んできた朝食にはミーシャが作ったヨーグルトも添えてあり木苺がつけてある。そういえば木苺が採れたと言ってたとアシュレイは思い出していた。


「きょう夕方から銀行が来ます連絡がありました」


「何の用事?」


「さあ……」


 ルバートは一瞬暗い表情をした。男爵がいた頃は銀行は取り立てにやってきた恐ろしい奴らなのである。


「まあろくな用事じゃないことは確かでしょう」


 ふうとため息をついてルバートは移動していった金の話なんてまっぴらごめんだとも言わんばかりに。アシュレイは書斎に移動し本を選んでいた。この本はアシュレイのものではない、ルバートが言っていたが、これは先代の趣味だったという。酒と女とギャンブルにはまり堕落したような人間はそもそも本を読もうとはしないのかもしれない……そんなことを考えていた。哲学の本を手に取り整理整頓された書斎からダイニングのほうへ移動しリビングにあるソファに腰かけそのだだ広い空間で本を読むのがアシュレイは何より好きだった。ガラス越しに花畑が見える。内容は哲学だ、眠くなりうとうととしているとぴしっとしたスーツの人間が屋敷に訪れるのが見えた。


「銀行のものです」


 ミアムが出迎えリビングに通すと軽く彼らは頭を下げた。


「コーヒーにしますか紅茶にしますか」


 ミアムが訊ねるとおかまいなくといってちょこんと椅子に座った。


「何の用っすか」


 対面したアシュレイはソファに座りミアムが淹れてくれた紅茶を飲んでいた。


「新しく屋敷を持たれたアシュレイ様に是非うちの銀行をひいきしてもらいたいと思いまして」


 そう言って名刺を渡し確かにルバートが言うように下っ端であると確認した。


「何か事業を起こす際には是非うちで」


 それだけを言いに来たのである。銀行は出されたお茶にも手を付けず去っていった。

 ルバートがさっさと帰れとでも言わんばかりに玄関先で待っていると銀行は色々言っていたのが聞こえた。たぶん男爵のようにならないといいなみたいなことであろう。

 よくは聞こえなかった。取り立てにこないだけまだましだ。屋敷はいったん差し押さえられそれを遠縁の親戚が買い取ってそれが何らかの理由で女王陛下の手に渡りアシュレイに下げられたのだという話をルバートはその日初めてした。


「何かあったのかな」


「理由はわからないのですよ」


「その男爵って今どうしているの」


「さあ、たしか……アルコール中毒の治療の施設に入って廃人のような生活をしていると聞いてます」


「酒は怖いね……」


 女もギャンブルも銀行も怖い。ルバートはそう言ってお風呂の準備をしに行った。

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