家庭教師を待っている間に

 ルバートがどこに貼りに行ったのか、帰ってきてああ忙しいと言いながら台所に急ぐ。どこの馬の骨ともわからん連中が来たらどうするんだとアシュレイが心配すると、多分庶民の目につくところに貼りに行ったのではないので心配する必要ないですよとミアムが言ってごみ箱からゴミを集めている。アシュレイは自室にいた。しばらくすることがなく昼食を待っているだけ。プリムラジュリアンに水をやり、それを眺めることにした。植物というものはいいものだねとミアムに言うと何も言わず目元が下がって優しくなった。


「スラッシュみたいなことを言うんですねあの人の真似しちゃだめですよ」


 そういってゴミ袋を抱えて出ていく。使用人たちはまた忙しく動き回る、家庭教師を雇うお金があるのなら出来れば使用人を増やしたいとアシュレイはルバートに言ったが賃金がまったく違うのですとキッパリ言った。住み込みで働く彼等の給料はいったいいくらくらいなのか見当がつかなかったが、あまり高くはないらしいということは生活ぶりからわからる。コーヒーも自由に飲めないんだもんなーと独り言を呟きダイニングに移動しルバートが作ったキャベツと豚肉で作ったロールキャベツ、それからじゃがいもで作ったサラダなどがテーブルの上に並ぶ。じゃがいものサラダにはきゅうりやベーコン、コーンなどが入っていてこの前市場で買ってきたやつだとわかった。真っ白いテーブルクロスに金の縁取りの皿が出されて、銀の燭台には光が灯り、銀のスプーンとフォークとナイフはキラキラと光る。それからミアムがワインを注ぎにきて安物なので酸っぱくコルク臭いワインだったがそれなりの味がした。ピカピカのグラスを置いて、腹を押さえると、ミアムがそれを下げてようやく従業員の昼食の時間がやってくる。アシュレイは従業員のことをよく知らないし、あまり興味もない様子で自室へ向かって昼寝しに行ってしまった。キッチンで従業員が集まるとヨーグルトを作って持ち込んだミーシャがあれスラッシュは?と聞いた。


「酒を友達と飲みに行くとか言ってたわよ」


「んまっ!ていうか給料日だったねー」


「あいつ貯金してるでしょうね!」


「多分してないわよ」


 ミアムが断言すると笑いが漏れた。そう今日は給料日だったのである。ルバートから封筒を渡され少ない給料をみんな貯金している。男爵のとき給料未払いが多発したため、少しだけ上乗せしてもらえる。


「ねえミーシャ服を買ったら?」


「んーでも見せる相手もいないしねえ」


「誰がいつ見てるのかはわからないのよ」


 ミアムがそういってたしなめる。洗濯をしているミアムは誰がどれだけ服を持ってるのか知っている。ミーシャのお洋服はどれもボロボロで市場に着ていくときだけの外着が少しあるだけなのである。せっかくかわいいのだからとミアムが言うけど恥ずかしいしといって少し照れた。日が少し下がって気温が下がり、おやつを作ってルバートはアシュレイの部屋に持ち込み、寝ているのを確認してそっと部屋を出た。

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