絵師屋敷を訪ねる

 アシュレイが朝起きて、プリムラジュリアンに水をやり、しばらくパジャマのままで広い庭を眺めていると、何やら浮浪者のようないでたちの男が門の前にいたので、起こしにきたルバートに不審者がいるみたいと言うと、ルバートもメガネをポケットから取り出して本当ですね‥‥?と言って立ち去ってしまった。


 今朝はハーブティーにトマトとチーズで作ったラザニアと少しの野菜である。それからじゃがいもの冷製スープが出て、白磁に映える料理の数々に舌鼓を打ち、それからのど飴などを口にしていた。坊っちゃん、あの不審者、仕事を求めてきた絵師らしいですとルバートが言いにきた。


「通して」


 アシュレイがそう言ってナプキンで口をふき、使用人が口を挟むスキを与えず、ボロボロのいでたちの絵師が屋敷におずおずとはいってきた。


「仕事がないの?」


「実はお屋敷をあちこち突撃訪問して絵を描かせてもらっているのです、本当は専属絵師だったのですがクビになってしまいまして出来たら坊っちゃんの絵を描かせていただきたい‥‥」


「あんまり大金は払えないけど?」


「しばらく暮らせるだけのお金があれば十分でございます」


 リビングに飾ってあった男爵の絵とその先祖の絵はとっくに撤去され、そこだけが行き場をなくして彷徨っていた。男のいでたちは浮浪者だったけれど、よく見るとスッキリした顔立ちで、ルースと少しに似ている背の高い男で、スラッシュと比べてどちらが背が高いのか、アシュレイは気になっていた。暮らせないのなら気の毒だから絵を描かせるとアシュレイが言うと絵師は飛び跳ねるように喜んでコンパクトにまとめられた油絵一式の道具と白いキャンバスを取り出して、キャンバスは持ってくるのが大変だっただろうけど、油絵一式はアシュレイの持っているバックより小さかった。


「うちにも絵師が置いていった道具がまだ倉庫にありますが」


「お借りします」


 絵師はキャンバスに向かい、スケッチしたあと豚毛の筆にペインティングオイルをつけボロボロのパレットに油絵の具を出していってアシュレイの姿をさらさらと描き始めた。リクライニングチェアに座ったアシュレイの姿、昼過ぎになって休憩の時間になると、ミアムがお疲れさまでしたと言ってパンなどを絵師に差し入れした。


「ありがとうございます、2日ほど何も食べてないので‥‥」


 パンに齧りつくと絵師は道具一式だけ持って専属の屋敷を追い出されたのだと涙ながらに語った。なぜ追い出されたのだとミアムが聞くと、実は盗みの疑いをかけられてと語ったので、それはお気の毒にと同情した。この国は豊かな国だがどこにでも悪いヤツはいる、きっと罪を着せられたのだこの絵師も。すっかり日が暮れ絵師があと3日ほどかかりますと言うと、うちの屋敷に泊まってくといいよというのでそういうわけにもいきませんのでと言って断り馬小屋に行くというのでそこには女のコが泊まってるのでと引き止め、絵師はリビングのソファを借りることにしたようだった。アシュレイがキャンバスを覗くともう結構出来上がっているように見えた。

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