絵師とのそれから

 二日目、アシュレイが朝食をとるためルバートと一緒に2階から降りてくると、おはようございますと絵師は挨拶した。それからまたキャンバスに向かっている、いろいろ考えているらしかった。アシュレイがいたお屋敷にも絵師はいた。しかしお屋敷の家主は強欲な人間で、使用人を人とも思わず少ない賃金で働かせパワハラをしていたので、食事などのときに一緒になるメイドや同じ仕事をする人たちや宮廷画家と文句を言って慰めあったのだ。そんな強欲な人間が辿った末路は想像にかたくない。だから多分アシュレイは、自分はそうならないようにしているのだと自分で自己分析していた。ダイニングに移動し真っ白いテーブルクロスに銀の燭台、それからガーベラの模様の花瓶には名前をなんというのか知らない小さな花が飾ってあった。それからコーンスープにチーズの硬いパンが運ばれてきて、それをしずしずと食べて紙ナプキンで口を拭き歯磨きをすると、リビングにいる絵師の様子を覗きに行き、絵師から座ってもらえますか?と言われたのでそのとおりにした。


 ずっと同じポーズは暇で眠くなるのをこらえて昼間になると、絵師は絵を見つめ、唸っていた。

 アシュレイが見に行くと素晴らしい肖像画が描かれている。


「これだめなの?」


「気に入らないのですしかし‥‥」


「これでいいよ?」


「しかし‥‥」


 絵のことは絵師にしかわからない、アシュレイに音楽のことしかわからないように。お昼休憩をとりにきたミーシャとスラッシュとミアムも絵をみにきてすばらしい!と騒いだ、流石専属絵師だっただけはある。色鮮やかな屋敷の様子、石造りの壁、木製のリクライニングチェア、そこにゆったりと座るまだ若いアシュレイの姿、何もかもすべて描かれきっていた。たった二日目の仕事とは思えない、それでも気に入らないというので絵師の考えることはまるでわからない。


「少し時間をおくことにします」


 それだけ言って絵師はキャンバスの近くに絵の具や豚毛の筆を置き、庭に移動してしまった。


「どこが悪いのかまったくわからない‥‥」


 皆そんな意見を言ってアシュレイが簡単にサンドイッチなどを食べたあと使用人だけで集まってきて、台所で語りあう。


「あの絵師さんお気の毒らしいわよ」


「わけありかー」


 そういってとれたての牛乳をミーシャが口にする。


「あの人おヒゲをなんとかしたらさっぱりしたハンサムね」


「なんだミアムはああいうのがいいのか」


 スラッシュがからかうとそんなんじゃないわよとミアムが否定した。


「あの方少しルース様に似てますね」


 コーヒーを口にしてルバートが言うとたしかにと言ってミーシャがサラダにフォークを突き刺した。それぞれ片付けをしてスラッシュが庭に出ると絵師が座ってぼうっとしていたので、何か閃きそうですかなどと聞いた。


「何も閃きがない、このままではだめです」


「俺にはいいように見えるけどなあ」


「そうだあんた飯も食ってないじゃないか」


「絵が完成するまでは飯が喉を通らないのです‥‥」


「倒れちまうよ?」


 スラッシュが台所から適当にパンにハムなどを挟んだものを持ってくると、絵師は、やっとそれを口にした。髭にバターがつく。絵師はそれから夕方までスラッシュが庭の手入れをする様子を眺めていた。

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